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【君に、初めてを奪われた】
R18無です。
【3話】
その日、撮影は2本分行われた。
前半の雨のシーン、そして──
後半は、狭い室内での“再会”シーンだった。
スタッフ「はい、次は室内シーン入りまーす! 氷川さん、綾瀬さん、お願いします!」
呼ばれて立ち上がる誠の足取りは、わずかにぎこちない。
昼のキスの余韻が、まだ心の奥で燻っている。
氷川(落ち着け。あれは演技だ。……きっと、演技だ)
そう自分に言い聞かせる。
けれど、隣に立った千暁の体温を感じた瞬間──その決意はまたぐらついた。
綾瀬「氷川さん、さっきのキス……そんなに動揺してたんですね」
氷川「……口、閉じろ」
綾瀬「本番中なら開けてくれるのに」
氷川 「ぶっ……!!」
千暁の小声が致命的すぎて、誠は思わず台本で口元を隠した。
「よーい……スタート!」
──また、演技が始まる。
室内は、静かだった。
ソファの上に座る二人。再会のシーン。
千暁(役):「……会いたかった」
誠(役):「……俺は、会いたくなかった」
千暁:「嘘つくの、下手ですね」
そして──再び、触れる唇。
2度目のキス。
でも今回は、ちゃんと台本にあった。
……のに。
氷川(なんで……また、心臓がうるさい……)
千暁のキスは、ゆっくりで、深くて、
まるで“本当に好きな人”に触れているみたいだった。
舌先が触れたか触れないか、
そんな曖昧な境界線を、何度もなぞってくる。
氷川「……っ」
カメラの前で、こんなに“感じてる顔”していいのか。
なのに、体は逃げられなかった。
誠は、また“奪われた”。
心まで、唇ごと──全部、綾瀬千暁に。
「……カット!」
今度は監督の声が早かった。
現場に拍手が起こる。
スタッフ「完璧だったな……! 氷川さん、すごい表情だったよ」
スタッフ「綾瀬くんの視線、殺しにかかってたなあれ……」
だけど誠は、それどころじゃなかった。
氷川(また……“初めて”みたいなキスされた……)
千暁が、そっと耳打ちする。
綾瀬「本番なら、何度でもしていいんですよ。氷川さん」
誠は顔を背けた。
これ以上見つめられたら──
また、自分の初めてを奪われそうで……。
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