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「待ってよ、意味が分からない」
言い訳をするように言葉を並べる壱月にそう言うと、彼はガシガシと自身の頭を掻いた。
「じゃあ、なんであのとき付き合ってくれなかったの……?」
高校生の頃、キスだけされた。
あの時私は、悔しかった。恋心を踏みにじられたようだった。
なのに、まさか彼も私が好きだったなんて。
だったらどうして付き合ってくれなかったのよ?
じっと壱月を見つめていると、彼は申し訳なさそうに切り出す。
「俺はあの時、石川県の全寮制の専修学校に入学が決まっていた。愛音はこっちの大学だった。もし付き合っても、愛音が寂しい気持ちになるのは嫌だった。俺も……会えなくて寂しいのは、嫌だったんだよ」
「でも、石川県なら……」
彼の言葉にそう言うと、壱月は眉をひそめて続けた。
「そのうち二年は、アメリカに留学することが決まってた。だから、会えなくて寂しいくらいならって、振り切ったんだ。……いや、振り切れなかったからキスしたんだけど」
壱月はもう一度小さな声で「ごめん」と言った。
「これが、ひとつ目」
じゃあ、壱月はあの時からずっと私を?
……まさか、ね。
そうじゃなきゃ、あのとき私の手を離さなかったはず。
そう思ったのに、壱月は意外な言葉を口にした。
「ふたつ目。せっかく再会したのに、連絡を絶ってしまってごめんなさい」
彼の言葉に、私は目をしばたたいた。
「まさかアプリで愛音とマッチングするなんて思ってなかったし、これは運命だ、なんて思って舞い上がって……」
嘘……。だって、壱月はあのあと──
「愛音を抱いた後も、離れるつもりはなかったんだ。ずっとそばにいようって、もう手放すもんかって。でも――」
「言わないで」
私は、まだ続けようとする壱月の言葉を遮った。
聞きたくなかった。
どんな内容だとしても、私の人生を狂わせた、たった一度の夜の過ちの言い訳なんて聞きたくない。
「愛音……」
壱月は迷子のように視線をさまよわせ、やがて自嘲するように笑みを浮かべた。
「そっちはまだ、笑い話にはならないか」
「……そうだよ」
あの夜のことは、笑い話になんてできない。
そうできてたら、どんなに良かったか。
彼を見ていると、私の胸をまた憎悪と嫌悪が支配し始めた。それで、自分が期待していたことに気付く。
そんな自分に、ため息がこぼれた。
「本当に、愛音が好きだって心から思ってた。だから、抱きたいって……ごめん、何言っても今更だし言い訳だよな。愛音を傷付けた」
壱月がソファから立つ気配がして、顔をあげた。
それで、自分が顔を伏せていたことに気づいた。
壱月は今日持って帰ってきたキャリーケースを開くと、ガサゴソとその中を漁る。
「花斗とぶつかったのは、本当に運が良かった。愛音と、また逢えたから」
そう言いながら隣に戻ってきた彼は、私に薄い包みを差し出す。
「これは、愛音へのお土産。あと、側にいてほしいっていう、しるし」
唐突なお土産に、私はそれを受け取れない。じっと彼の差し出したそれを見ていると、彼がそっと口を開いた。
「今開けろ、なんて言わない。気持ちが決まったら、開けて。使うも使わないも、愛音次第。けど、俺は――」
壱月はそこまで言うと、私の顔を覗き込んだ。
「俺は、ずっと愛音が好きだった。これからも、ずっと好きだと思う。だから、花斗ごと、愛音を甘やかしたい。それで、愛音が俺の側にいてくれるなら」
優しい笑みを向けられて、私は思わずそっぽを向いた。
好き? 壱月が、私を――?
今も、好き?
っていうか、ずっと好きだったの――?
唐突な告白に、私の思考はついていかない。
「……ごめん、すぐには答え、出せないや」
すると、包みを受け取らない私の手を無理矢理上に持ち上げた壱月は、そこに〝お土産〟をのせる。
「いつでも、待ってる」
壱月はそう言うと、眉をハの字に曲げて微笑んだ。
その顔のまま、そっぽを向いたはずの私の顔を見つめてくる。
私はその視線に耐えられなくて、「おやすみ」と、そそくさと部屋に戻った。
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コメント
1件
わあ、第25話……胸がぎゅっとなりました。愛音の気持ち、すごくわかります。あの日のキスも、その後のことも、全部ひっくるめて「笑い話にならない」って言葉に、彼女の長年の傷みが詰まっていて切なかったです。でも壱月が「ずっと好きだった」と今もまっすぐ伝えてくるから、憎悪と嫌悪の奥で期待してしまう自分に気づくラストもリアルでした。お土産の包み、何が入ってるんだろう……気になります!