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けい
797
ふくら「…伊沢さん、顔色おかしくないですか?」
オフィスに入ってきた伊沢の姿を見て、ふくらが真っ先に声をかけた
いつもなら「おはよう!」と張りのある声が返ってくるはずだが、今日の伊沢は、どこか視線が定まらず、歩き方も少し頼りない。
伊沢「…ん?…ああ、大丈夫、大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから。」
伊沢はそう言って笑顔を作り、自分のデスクへ向かった
しかし、その「大丈夫」が嘘であることは、周囲の目から見れば明らかだった
ここ数ヶ月、QuizKnockのCEOとしての経営業務、メディアへの出演、書籍の執筆、そしてYouTubeの企画や撮影と、伊沢のスケジュールは完全にキャパシティを超えていた
「楽しいから始まる学び」を届けるため、誰よりも妥協を許さない伊沢は、周囲が「休んでください」と声をかけても、「今が踏ん張り時だから」と笑って受け流し続けていたのだ
カタカタとキーボードを叩く音がオフィスに響く
だが、伊沢の視界は、先ほどから激しく歪んでいた
伊沢(……文字が、滑るな)
画面に並ぶテキストがぼやけて、頭の中に全く入ってこない
それどころか、こめかみの奥を重い金槌で殴られているような、鈍い頭痛がズキズキと主張を始めていた
自覚はないつもりだったが、体はとっくにストレスの限界を迎えていた
河村「伊沢さん、次の動画の件なんだけど……」
背後から河村に声をかけられた瞬間、伊沢はビクッと肩を震わせた
振り返ろうとしたが、急に強い眩暈が襲い、視界がぐにゃりと反転する
伊沢「うッ……」
胃の奥からせり上がってくる強い吐き気に襲われ、伊沢は思わず口元を押さえた
デスクに肘をついてなんとか耐えようとするが、冷や汗がダラダラと額から流れ落ちる
河村「伊沢!? おい、しっかりしろ!」
異変に気づいた河村が、慌てて伊沢の肩を支えた
その声を聞きつけて、ふくらや他のメンバーも一斉に集まってくる
ふくら「伊沢さん、呼吸が浅いよ。一回パソコン閉じて、こっち横になろう」
ふくらの冷静だが焦りを含んだ声が、遠くの方で聞こえる
伊沢は「まだ仕事が……」と言おうとしたが、声にならなかった
指先が冷たくなり、自分の意思とは関係なく小刻みに震えている
過呼吸気味になり、酸素がうまく頭に回らない
メンバーたちに支えられながら、オフィスに置かれたソファになんとか横たわる
伊沢「ごめん……ちょっと、休めば治る、から……」
弱々しく呟く伊沢に、河村はいつになく真剣な、少し怒ったような表情で言った
河村「治らないよ。伊沢、お前ここ最近ずっとまともに寝てないだろ。CEOとしても、クイズプレイヤーとしても、背負い込みすぎなんだよ」
ふくら「そうですよ。伊沢さんが倒れたら、それこそQuizKnockが回りません。ここは僕たちに任せて、今は全部忘れて寝てください」
ふくらが優しく、しかし拒絶を許さないトーンで告げ、伊沢のスマホをデスクの上に片付けた
いつもなら「自分がやらなきゃ」と抗うところだったが、今の伊沢にはその気力さえ残っていなかった
目をつむると、どれだけの重圧を一人で抱え込んでいたのかが、心臓のバクバクとした鼓動を通じて伝わってくる
伊沢(みんなに、迷惑かけてるな……)
自己嫌悪に陥りそうになる伊沢の頭に、そっと冷たい冷却シートが貼られた
河村「余計なこと考えない。クイズ王でも、体調不良には勝てないんだから」
河村の呆れたような、でも温かい声を聞きながら、伊沢はゆっくりと深い息を吐き出した
周りを見渡せば、信頼できる仲間たちが自分の代わりに動いてくれている
すべてを一人で抱え込む必要なんて、最初からなかったのだ
緊張の糸が切れたように、伊沢は深い眠りへと落ちていった
ふくら「……伊沢さん、本当に限界まで言わないんだからな」
ふくらが少し呆れたような、でも心配そうな声で、ぽつりと言った
横には、伊沢が横たわって眠っている
二人はノートパソコンを膝に置き、画面の光を最小限にしながら、静かに作業を続けていた
伊沢がいつ目を覚ましても対応できるように、という二人なりの配慮だった
河村「まあ、昔からそういうところあるけどね。CEOになってからは、余計に『自分がしっかりしなきゃ』って気負ってるんだろ」
ふくら「それは分かるんだけどさ」
ふくらは小さくため息をついた。
ふくら「僕らだってもう、伊沢さんの背中を追いかけるだけじゃないんだから。もっと僕たちを頼ればいいのに。一人で抱え込まないでさ」
河村「そうだな。もっと俺たちを信じて、丸投げしてくれればいいのに、あのバカは……」
伊沢「……すぅ、……ん、」
突然、ベッドの上の伊沢が小さく身じろぎをした
額の冷却シートが少しズレて、眉間にきつく皺が寄る
まだ熱が上がりきっていないのか、寒そうに身を縮めた伊沢の唇が、かすかに動いた
伊沢「……ごめ、……さい……」
掠れた、ひどく頼りない声だった
伊沢「……いつも…み…なに……頼って……ごめん……」
うわ言のように紡がれたその言葉は、熱のせいか、それとも夢のせいか
普段、カメラの前や経営者としての会議で見せる「自信に満ち溢れた伊沢拓司」からは、想像もつかないほど弱々しい
ふくらは眼鏡の奥の目を少し見開き、それから、いたたまれないような、困ったような苦笑いを浮かべた
隣の河村は、いつものポーカーフェイスのまま、ただ視線をゆっくりと伊沢の寝顔へと落とした
河村「……何言ってんだか、あいつ」
河村が、声を立てないように静かに呟いた
その声には、呆れと、それ以上の深い愛着が混ざっている
ふくら「本当にね」
ふくらが小さく息を吐き出しながら、伊沢の胸元までめくれていた毛布を、そっと肩口まで掛け直してやった
ふくら「頼ってばかりなのは、僕らの方なのにさ。……いつも背負わせすぎちゃってるのかな、僕たち」
河村「背負いたがりの寂しがり屋だからな、伊沢は。でも、寝言でまで謝る必要はないよ」
河村はそう言うと、持参していたペットボトルの水を一口飲み、またノートパソコンに視線を戻した
河村「起きたら、思いっきり弄ってやろう。お前、寝言でめちゃくちゃ殊勝なこと言ってたぞって」
ふくら「あはは、それは伊沢さん、顔真っ赤にして怒りそうだね」
ふくらも柔らかく笑い、再びキーボードに指を置いた
ふくら「よし、じゃあ伊沢さんが安心して頼れるように、僕らで明日の分の仕事、終わらせちゃおうか」
河村「了解」
二人の静かなタイピング音が、再び部屋を満たしていく
守られていることにも気づかないまま、伊沢は先ほどよりも少しだけ、穏やかな寝息を立て始めていた。
コメント
10件
あーーーーーー、えっぐい好きーーーーーー えっぐい、マジで語彙力飛んだ は???????(怒ってません)なぜ、why、そのような神作品が作れる????????? はん????????? なんか、もう、全部共感できるのやめて?(?) 潰れてる人大好きなのマジ共感だし、後日談好きすぎるし、はーーーもうマジで何??????? 口調はみんなの年齢を考えるとまとまりやすい、気がする!!!!頑張れ!!!!!!

ストレスとかプレッシャーで潰れてる人大好きなんです(変人) 伊沢サマは、というかクイズノックのメンバー全員溜め込みそうなタイプ...本当に休んでくれ... 誰に伊沢サマを看病させようとなった結果、初期から一緒のP組がいいなって思いまして... マジで口調が謎すぎて謎(?) クイズノック書いてる人なんでそんなに現実味があるんだ羨ましい...( まぁこんな感じで投稿していきます!気が向いたときに! ちなみに、翌朝すっかり看病され尽くした跡(冷えピタ、お粥、ゼリー等)を見て、耳まで真っ赤にして照れる伊沢サマがいたとかいなかったとか
読了しました…!伊沢さんの「大丈夫」が全部嘘で、ここまで追い詰められてるのを見るの、本当に胸が痛かった🥀 でも河村さんとふくらさんの「頼ってないのはこっちだ」って温度にじんわり泣きそうになりました。寝言で謝る伊沢さんと、起きたら弄ってやろうって笑う2人の距離感、すごく好きです。次も読みたいです。