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『何だよー、今日はにいちゃのとこ、行かないのかよー。』
「今日はハティもフェルもここにいるだろ。」
『我は不満だがな。』
『にいちゃのとこ、行こうよー。』
「ダーメ。今日は大事な日なんだから。」
『大事な日だって、言ってた。だから、いい子で待っててって。』
「ハティはおりこうさんだなー。」
『えー。』
『お前はそれでいいのか?』
フェルの言葉に、窓の外をちょっとだけ見る。
綺麗に晴れた青空。
デートにも、告白にも、ちょうどいいだろう。
「俺は二人が幸せになってくれたら、嬉しいよ。」
どっちも大事だから。
そんな事で揺らぐ関係でもないし。
あえて言うなら、たまには混ぜて欲しいけど。
『上手くいくように神頼みでもしとくか?』
そーいや、あなた、神でしたね。
隣にフェルがいないのは、何となく落ち着かない。
その代わりに、もときがいる。
わかいの所にフェルもハティも預けて、もときは僕を連れ出した。
「どこに行くの?」
「オレもさぁ、考えたんだけど、思いつかない。」
「ダメダメじゃん。」
僕も考えつかないけど。
「じゃあ、とりあえず、海、見に行こ。」
見るだけで、僕のテンションが上がるから。
「りょうちゃんってさ、本当、海好きだよね。一番似合わないのに。」
「僕は夏が好きな夏男ですー。」
後、きっと長野産まれのせい。
「日焼けが似合わないもときだって、海似合わないじゃん。」
そんな話をしながら、海を目指した。
季節的に早い海に、人は少なくて、波の音だけが静かに響いてて。
「綺麗だねぇ!」
晴れてるから、水平線がくっきり見える。
海と空とが出会う場所。
「あー!飛行機ー!」
空港近いんだ。
かなりの大きさで飛んでいく飛行機を見上げてたら、もときがくすくす笑ってた。
「りょうちゃんだな、と思って。」
「はぇ?」
僕は、僕だけど。
気がついたら、触れる距離にもときがいて、
僕にぎゅっと抱きついた。
「なに?どしたの?」
「連れてかれなくて…よかった。」
あぁ、あの時か。
後で三日間も寝てたって聞いて、すごいびっくりした。
「もときとわかいがね、呼んでくれたんだよ。」
あの時のギターの音をまだ覚えてる。
だから、起きれた。
「ねぇ、告白、やり直していいの、まだ有効?」
抱きついたまま、僕を見上げたもときの口角が上がる。
「なーんかどさくさに紛れて、ぜーんぶなかった事にされてるけど、オレ告白したんだよ?」
あ、悪魔の、微笑み、だ…。
「ねぇ、りょうちゃん、答えは?それとももう一回告白しなきゃダメ?出会った時から、恋してましたって。一目惚れでしたって。今でも恋してるし、愛してますって。ねぇ、りょうちゃん?」
「やーめーてー!」
恥ずかしいから!
恥ずかしくて、どうにかなりそう!
もときの腕から抜け出そうとしてジタバタしてたら、抱きしめる力が強くなった。
「答えるまで、離さない。」
「うーっ。」
「なんでそんなに可愛いのよ。」
ちょっと背伸びしたもときが、僕のほっぺに優しいキスをする。
「オレのこと、好き?」
「うん。」
それは、もちろん。
「じゃあ、愛してる?」
「う…ん?愛してるって、何だろう…。」
「そっからかぁ。」
僕を抱きしめたまま、もときは空を仰いで。
それから、僕を解放してくれた。
「手、繋いで?」
もときが差し出して来た手に、自分の手を乗せる。
指を絡めて、ぎゅっと握り込まれた手は、暖かかった。
「じゃあ、一個ずつ覚えていけばいいよ。『愛してる』をさ。きっとアイツは教えないから。だから、デートは二人っきりでね?」
そう言ったもときの笑顔は優しくて。
「ふぇ…。」
「ちょっと、りょうちゃん、なんで泣くのよ。」
「なんか…もときで、もときがよかった…」
「いや、日本語喋って⁈」
その言い方も嬉しいし。
手を繋いでくれてるのも嬉しいし。
「もときのこと、いっぱい好き。」
「それって、『大好き』ってことじゃないかな。」
「かもしれない。」
この気持ちは、フェルは教えてくれなかった。
どこかで、フェルのため息が聞こえた気がした。