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No.1 本気
ｰｰｰｰ
卒業が迫り、中学校生活が終わりかけている3月上旬
まだ人が少ない朝の教室の片隅＿＿
朝倉 紗季（あさくら さき）は机の中に紙切れが入っている事に気がついた
（なんだろう……これ…？）
シンプルなメモ用紙みたいな紙。
恐る恐る中身を見ると
汚いのか丁寧なのか分からないような字が並んでいる
そして、何回も書き直したような痕跡がある
『放課後、少し教室に残ってもらえませんか？
どうしても伝えたいことがあるんです。』
そう書かれていた。
宛名もない。
でも、あきらかに男子の字だろう…、
なんで私の机の中にわざわざ…
こんな回りくどいことを
（私……何かしたっけ………）
（……残ったほうがいいのかな………?）
（…大事な用事とかだったら……いけないし…）
（……残るかぁ）
（…、でもなぁ……）
そんな葛藤を頭の中で一人静かに繰り広げていた
（…喧嘩とかだったらどうしよう、……）
この日は少し落ち着かない気持ちを抱えながら残り少ない、いつも通りの一日を過ごした、
結局、放課後。
素直に残ることにした。
何も無きゃそれでいい。
むしろそうであってくれ。
少し日が傾き、空が朱色に染まり始める
雲一つなく澄んだ春の空。
結構早いがもうすぐ桜が咲きそうだ。
きっと卒業式の日には咲いているのだろうか…
（………卒業か…）
3年間あっという間に終わってしまった
少し名残惜しい気持ちもあった
でも人生これから。
1人で自由に生きていきたい
誰にも縛られず、
そんな事を考えていると
後ろから声が飛んでくる
「紗季」
すぐに声の方へ振り返った
目を見開いた＿＿
振り返ったまま、硬直してしまった
だって
そこには
衝撃的な人物が立っていた
…月城 葵（つきしろ あおい）___
単刀直入に言うと問題児だ
校則違反や問題ごとは日常茶飯事
何故か男子には人気者で
取り巻きも多く、常に誰かしらに囲まれている
人を使って悪巧みする事も多く、たちが悪い
とにかくガキみたいな行動をしていて
先生達も手を焼いている様子だ
そして
紗季が一番嫌いなタイプ。
本当に嫌い。
（……最悪…）
早くこの場から逃げ出したい。
そんな事を思った矢先、葵が口を開いた
「待っててくれてありがとう…」
普段の行動からは考えられないくらい穏やかで静かな口調だ
それが逆に怖かった
（なんでこいつが私を……）
そんな思考が頭の中を駆け巡る
それでも葵は言葉を続ける
「急で申し訳ないけど、伝えたいことって言うのは…」
「俺、紗季が好き」
この教室の静けさが、余計にこの空間に閉じ込められたみたいだった
「は…？……」
これが返せる精一杯だった
（なんでこいつが…私に？）
衝撃でどうにかなりそうだった
前、噂で聞いたことがある
こいつとかこいつの取り巻きとかが、女子に嘘の告白をして、
みんなの晒し者にして傷つける遊びをしていること……
（……きっとその対象が私になったんだろうな）
（…マジキモい……これだから男は…）
重たい口をやっと開く
「女子で遊ぶのやめてくれません？」
（……これ以上傷つける人は減らしたい）
（…聞き入れてもらえないだろうけど………）
葵は少し驚いた様な表情をしていた
でも一歩踏み出してこちらに向かってくる
「違う…本気。遊びじゃない」
「本気で、紗季が好き」
（嘘ばっかり、）
（やっぱりこいつ、大っきらい）
「本気でも、嘘でも私は普通に無理です」
葵はさっきまで余裕そうな表情をしていたのに
一気に絶望的な顔になっていた
「…そんな……」
（まさか、こいつ本気なの？）
「普通に無理だから諦めて」
さらに追い打ちをかける
（面倒くさい、早く諦めてくれ頼むから）
葵はまた一歩近づいてくる
「…俺の何がそんなにだめ？」
迷わず即答する
「全部」
「人の気持ちを軽く踏みにじってきたところも…」
葵は目を伏せる
「それは、……」
「でも、今回は本気……」
「もうそんな事しないから…」
「お願いだからｯ」
（なぜそんなに必死なんだ？）
（もし、本気なら私のどこに惹かれた…？）
（全てが疑問。）
「……本気なの？」
「本気。」
「信用出来ない。だから無理」
葵は、少し考え込んでいる様子だった
「じゃぁ、信用させてみせるからｯ」
「高校、同じだよね？」
「必ず、好きにさせるから……」
「だからお願い。」
しつこい
どこまでもしつこい
少し考えた
今、早く帰りたい
もう日が落ちる…
こいつ諦める気が見るからに無さそう
「………今は無理。」
「もし、本当の本当に本気なら……」
「高校でまた告って」
どうせすぐ諦める。それに本気じゃないだろうし
軽い気持ちで答えた。
それが間違いだったのかもしれない
葵はその言葉を聞いた途端笑顔になった
「じゃあ絶対またするね」
「諦めない。本気だから」
「好きにさせてみせるから」
また面倒くさい事になった
早く飽きてくれ。
（やっぱり、男は嫌いだ…）
