「はぁ….」
ユニフォーム姿のまま、頭をガシガシかきながら、校舎の壁に寄りかかるようにして座り込む。
….あんな事言うつもりじゃなかった。
あいつの、赤の、あの傷ついたような顔が忘れられない。
なんで俺はいつもこうなんだろうか。
気持ちと行動は全く比例してくれない。
イライラしながらため息をついていると、何処からか誰かが歩いてくる話し声が聞こえた。
「そういやぁ、赤くんとどうだったんだよ?俺せっかく協力したんだぜ?」
「….チッ、それがさぁ….青って奴のせいでダメだった」
「あ〜、一個下の後輩??」
「そーそ、まじムカつく….でも押し倒した時めっちゃ可愛かった….いい匂いしたし」
「羨ましっ!リベンジ俺も参戦していー?」
「はぁ〜?しょーがねぇな」
ケラケラと笑い合う彼らに、その時プツンと何かが切れた。
いや、切れたというよりもうそいつに殴りかかっていたといった方が良いのだろうか。
「….ふっざけんなよ」
「は、おまえ先輩に向かって….」
目を丸くする先輩の胸ぐらをつかみ壁に押し付ける。
「….関係ないです。次、赤に手出そうとしたら….
….殺す」
ヒュッと目の前の先輩が息を飲んだのが分かると思いっきり胸ぐらを離し手を払う。
「お、お前覚えてろよ!!」
震えた声で叫びあわあわと立ち上がると、2人の先輩は颯爽と立ち去っていく。
「はぁ….」
俺はまたため息をつくとその場にゆっくりと座り込んだ。
こういうのは慣れている。
小さい頃からガラの悪い集団に詰め寄られて付き合えと脅されていた赤を俺が何回もこうやって追っ払ってきた。
それは….赤が周りと比べて飛び抜けて可愛い….から、だと思う。
俺も小さい頃からこんな可愛い子が存在するのかと、彼の虜にされた1人なのだけれど。
幼馴染みだから、彼には頼れる存在でないといけない。
“桃ちゃん”
泣きそうな声でいつも俺に、俺だけに助けを求める彼が好きだった。
無防備な細い首が見える後ろ姿にはいつもヒヤヒヤさせられるし、コロコロ変わる顔も時々俺の心臓を息が出来なくなるくらい締め付ける。
….俺だけのはずだったのになぁ
「….相変わらず素直じゃないですねぇ」
聞き慣れた声がして顔を上げると、目の前に呆れ顔の黄が立っていた。
「なんだ、黄かよ….」
「ふん、赤じゃなくて悪かったですね」
「そんなこと言ってねーし….」
口をとがらせてそっぽを向く黄は、部活が終わったのだろうか、通学カバンくらいの大きさの、黒色の四角いケースを手に持っている。
「きっと今頃青ちゃんが赤のこと慰めてますよ….いいんですか?」
“そんな態度なら僕もう我慢しないから”
青が俺の事を赤に伝えてくれたのは、彼なりの優しさであり、きっと最後のチャンスだったはず。
悔しくてさっきから唇を噛み締めているせいで口の中は微かに血の味がした。
「こうやって陰で赤のことずっと守ってて….悔しくないんですか?」
「…….しょうがねぇだろ」
「じゃあなんで….」
「….好きだから、」
ポロリと出た自分自身の言葉に驚く。
「どうしようもなく好きなんだよ….好きなやつの前ではカッコつけたいだろ」
自分の顔が熱くなるのが分かるのと同時に黄がくすくすと笑った。
そしてまた切なそうに顔を歪める。
「それ、赤に言えばいいのに….。僕、桃くんと赤には幸せになってほしいんですよ」
“幸せ”
赤の幸せの中に俺は存在するのだろうか。
「もうなんもわかんねぇよ….」
目を細めて照りつける太陽に手をかざす。
その時、1番近くで鳴いていたセミの鳴き声がパタリと無くなった。
―――
「あ….桃ちゃんとクラス別れちゃった」
中学2年の新学期。
喜ぶもの、落胆するもの。
ザワザワと人混みの中、隣でクラス表を見ていた赤がぽつりと呟いた。
「俺は2組で赤は5組か….」
「うん….」
隣のクラスならまだしもこの学校は1、2、組は北校舎。3、4、5、組は南校舎と離れていて長い渡り廊下を使わなければならない。
小学校はクラス数が少なかったから、6年間同じクラスだったし、中一もなんの違和感もなく隣にいたから中二も当たり前のように同じクラスになると勝手に思っていた。
「ど、どうしよう俺….桃ちゃん以外に友達居ないしっ….」
少し泣きそうな赤の横顔に思わず微笑んで頭にポンっとてをのせる。
「大丈夫だって。俺が休み時間遊びに行ってやるから」
「….約束だよ?」
頷く代わりに俺はそっと赤の小さな手を握った。
泣き虫の赤が泣かないようにおまじないをかけて。
「桃〜?どこ行くんだよ」
「ん、ちょっと幼馴染みのトコ」
「え?お前今日あの先輩と食べるんじゃなかったのかよ」
「はぁ?だれあの先輩って?」
母親に作って貰った弁当を片手に持ちながら首を傾げると、クラスメイトがげっそりとした顔で言う。
「桃、今朝まためっちゃ美人な先輩に告白されてただろ?だからてっきり….」
「あ〜、誰だっけ….忘れたわ」
「お前最低www」
しばらく笑って俺は教室を出る。
割と社交的だった俺は直ぐにクラスに馴染んでいた。
….赤はどうだろうか。
人見知りで他人と距離をとりたがるあいつの事だから今頃一人で泣いてるんじゃねぇか。
毎朝一緒に登校しているけれど、少し強がりで意地っ張りなとこがあるから。
少し苦笑しながら渡り廊下をすり抜け5組のクラスを覗く。
「赤__、」
声を掛けようとしたのに、言葉が出なかった。
「青ちゃん頬っぺにクリームついてるw」
「えぇ!?どこどこ?」
「違う違う反対w」
そこには青髪の少年と馬鹿みたいに顔を近づけてお昼を食べている赤がいた。
赤の隣にいる青髪の少年は、俺と同じサッカー部の青で、よく2人ペアをつくる時に組んでいるくらい仲だった。
赤はくすくす笑いながらテッシュで青の口をふいてやっている。
その光景を見て、今まで感じたことの無い嫉妬に襲われた。
_____俺の赤なのに。
「あ、黄くんおかえり。」
「大丈夫だった〜?」
「….もう最悪ですよ」
ぼーっとしていると、俺の立っている反対のドアから黄髪の少年が入ってきて、赤にバックハグしながら頭に顎をのせた。
「ま〜た漢字テストの赤点??」
「….うるさいですね。口縫いますよ」
シャーッと黄髪の少年が青に威嚇する。
「しょーがない、この青様が漢字を教えてあげようk、」
「結構です。青ちゃんは字が汚いので。赤に教えて貰います」
「….傷ついた」
「もー、黄くん青ちゃんいじめないの」
「だって青ちゃんが僕のバナナ食べたんですよ!?」
「あ〜….それは」
「無防備に机の上に置いてある方が悪いんですぅ〜」
「チッ….もう許さない許さない許さない….」
「あははw」
赤い髪が風に靡いて揺れる。
….赤が俺以外の奴と話しててあんなに笑っているのは初めて見た。
目の前の情景に目眩がする。
この気持ちをどうにかしたくて、気づいたらその場を離れていた。
「お待たせ!桃ちゃん待った?」
「遅い」
「ごめんってw掃除長引いちゃって」
その日の放課後。
ラッキーな事に部活がなくて赤はニコニコしながらいつも通り昇降口で待ち合わせして俺の隣に並ぶ。
「あれ?赤くんに桃くんじゃん」
その姿に優越感を覚え歩き出そうとすると、青が満面の笑みでこっちに駆け寄ってきた。
「青ちゃん!」
赤は嬉しそうに青に笑顔を向ける。
「今から帰んの?」
「そー!あ、良かったら青ちゃんも一緒に、」
赤が言い終わらないうちに俺はグイッと赤の手を引いた。
「赤、俺駅前のパフェ食べに行きたいから付き合って」
「えぇ、この前も食べたじゃん」
「いいじゃんケチ」
「もー、わかったよ。青ちゃんバイバイ!」
「ん、またな青」
ひらひらと軽く青に手を振るとそのまま見せつけるように赤の手を引いて校門を出る。
それでも心の中で渦をまいた気持ちは無くならなくて。
聞かなければいいものを口が勝手に開いてしまった。
「赤….青と仲良かったんだな」
「うん!最近仲良くなったんだ!!」
「…….へぇ」
「青ちゃんってイケメンだよね!!モテモテだし!!でも意外と可愛いとこあってね」
また嬉しそうに話し出す赤。
….面白くない
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
ぐるぐると勝手な感情が猛毒のように身体に回る。
そんな自分に吐き気がした。
「あとね、黄くんっていう子とも仲良くなって!頭いいのに漢字は苦手なの。それで__」
「あのさ、」
俺が足を止めると赤も足を止める。
自分でも低い声が出たのがわかった。
「桃ちゃ….?」
「….別に無理に俺と帰んなくても良かったんじゃない」
「….へ」
止まれ止まれ止まれ止まれ
頭で唱えているのに感情のコントロールができない。
「お前青と帰りたかったんだろ?ならそうすれば良かったじゃん」
「俺だって同じクラスの奴らと帰りたいし」
赤が顔を歪めて、泣きそうな顔をする。
「….ど、して….そんな事いうの….?」
お願いだから、そんなカオ、しないで。
「別に、俺ら幼馴染みだからっていつまでもこうやって一緒にいる理由ないだろ?」
「….っ」
じわじわと彼の大きな瞳がどんどん濡れていくのを俺は他人事のようにぼーっと見ていた。
「そ、だよね….w….ごめん」
赤が唇を噛み締めて笑った。
その顔は妙に大人びていて….見た事あるようなないような。
そして俺が我に返ったときには、彼は小走りに俺を置いて走っていってしまった。
その時、彼の鞄についた少し色褪せた犬のキーホルダーが揺れる。
俺が初めてお小遣いを使って、昔彼にプレゼントしたもの。
赤には俺が居ないとダメ。
それは俺の勝手な思い込みで。
赤がいないとダメなのは俺の方なのに。
「桃ー?赤くんのお見送り行かなくていいの?」
「…….は?なんのこと」
「え?赤くん中学は変わらないけど隣町に引っ越すって言ってたじゃない」
「は、」
母親の言葉に持っていたゲーム機が手からこぼれ落ちる。
「知らなかったの?まぁ最近赤くん家に来ないなー、とは思ってたけど….なに喧嘩でもした?」
画面には”ゲームオーバー”の文字
あぁ、幼馴染みってこんなに簡単に呆気なく終わっちゃうんだ。
気づいた時には全部遅かった。
俺のせいで
何もかもが。
―――
「僕、赤くんの事が好き」
「絶対泣かせない」
「桃くんなんて忘れさせてあげるからさ」
「1回くらい、僕を見て」
「僕に恋してよ」
変わらないもの
「青ちゃ、//」
変わっていくもの
君は、どちらの方が多いと思う___?
To Be Continued….
誰かっ….身長をください(((唐突
あ、ちなみにタイトルはひまわりの種類書いてるだけです((
コメント
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タイトルひまわりの種類だったんだ!!てかてか今回のお話も最高だよ😢もー見るたびに早く続きみたい衝動に駆られる… 続きでるまではみぃちゃんのお話読破してくる…!!!w
桃君の嫉妬… ( ◜𖥦◝ ) あれ、はみぃちゃんって身長何センチだっけ?
わ、最高です😭👏🏻