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バディ契約、恋愛に進化しました

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バディ契約、恋愛に進化しました

2 - 初任務、息が合わないのになぜか距離だけは近い、?

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2025年12月04日

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初任務、息が合わないのになぜか距離だけは近い、?



 バディ契約初日。

 ないこは、暗い溜め息を吐きながら廊下に設置された巨大モニターを見上げた。


「……この“新バディ歓迎ポスター”どうにかならないの?」


 画面には腹立つほどテンション高いフォントでこう書かれていた。


『まろ&ないこ 最強タッグ誕生!! 距離1.8m以内で友情ブースト♥』


 誰だこんな地獄みたいなセンスのデジタルポスター作ったのは。

 ないこは眉間を揉む。


「あのね、友情ブーストじゃなくて、ただの強制契約だから。勘違いしないでほしいわ」


 その横で、まろも気まずそうに頭を掻きながら言う。

「うちの上司やと思うで。ノリと勢いで仕事するタイプやし」


「……同情するわ。あんたも大変ね」


「いやないこも大概やろ。急にあの部屋で赤面して暴れとったやん」


「してない!!!」


「してたで」


「してない!!!」


 廊下のど真ん中で言い合う二人。

 ただ、口喧嘩なのに距離が近い。なぜなら──


 1.8m以内に入ると契約反応が出るから、離れすぎると警告音が鳴る。


 つまり、喧嘩しようが何しようが、ずっと近い距離で行動しないといけない。


(これ、一緒の部署の人たちに絶対見られてる……恥ずかしすぎる)


 ないこは心底頭を抱えたい気分だった。


 するとそこへ、上司が顔を出した。


「おーい! 新バディ二人とも、準備できてるかー?」


 まろが「やれやれ」と肩を回し、ないこは背筋を伸ばした。


「今日の任務を説明するぞ!」


 上司がタブレットを彼らに見せた。


**


―――――――――


ターゲットの潜入先は「闇オークション会場」。

ないこ → ハニートラップを利用して情報収集。

まろ → 隙あらば締め上げる。


**


「……説明雑すぎじゃない?」

「うちの仕事、“隙あらば締め上げる”って書かんといてほしいわ」


 ないこは額を押さえ、まろは苦笑した。


「とにかく、二人には“バディとして息を合わせて潜入”してもらうぞ。敵だった頃とは違うんだからな?」


「そうよ。あたしは色仕掛けで情報を取るのが仕事なんだから、邪魔しないでよね」


「おまえこそ、誘惑中に変なフェロモン出すなよな。あれ当てられたらうち脳みそ溶けるねん」


「溶けないでしょ!?!?」


 上司が手を叩き、大声で言った。


「はいはい、ケンカはそのへんにして、行くぞー!」


 二人は、強制バディの初任務へと向かうことになった。



―――――――


 豪華なシャンデリアがぶら下がり、黒いスーツに身を包んだ男女がワイングラスを傾けている。

 ないこはスリット入りの黒ドレスに身を包み、堂々と歩く。


(任務とはいえ、こういう服は慣れない……)


 胸の位置も露出も高めで、見ているだけで体温が上がる。


 後ろから、まろが慣れない正装で歩いてきた。関西弁が漏れ出しそうなのを必死で押さえている。


「ないこ……なんか、今日めっちゃキレイやな」


「ちょっと、いきなり何よ」


「いや、普通に思っただけやし。ほら、任務の一環として褒めたほうがええんかなって」


「……そんな気使われたら逆に困るんだけど」


 照れたようにそっぽを向くないこ。

 その横で、まろはネクタイをぎゅっと締め直した。


(なんでないこ相手やと、こんな緊張するんやろ……敵の時は平気やったのに)


 二人は“距離1.8m以内”の範囲を維持しつつ、会場内へ進む。


 ある男が近づいてきた。


「お嬢さん、お一人ですか?」


 軽い口調。

 ないこはすぐに任務モードに入り、人差し指で髪をくるりと巻く。


「えぇ、そうですけど……?」


 甘く柔らかい声。その瞬間、男の顔が緩んだ。


 だが、後ろから野生の熊みたいな気配が漂う。


「誰がお一人さんやねん」


 低い声でまろが迫り、男の肩をがしっと掴んだ。


「えっ……あ、えっと……!?」


「この子は、うちの連れなんで」


 ないこは小声で噛みつく。


「ちょっと、仕事の邪魔しないでよ!」


「はぁ!? おまえが知らん男に微笑むからやろ!」


「仕事なの!」


「仕事でも嫌や!」


「嫌とか言わないで!!」


 二人は小声でバチバチに火花を散らしながら張り合う。

 だがそれが逆に、異様に“親密な雰囲気”を生み出してしまっていた。


「え……なんか、すごく情熱的なカップル……?」


 先ほどの男は勝手にそう解釈し、カタカタ震えながら退散していった。


「……あのね。あたしが誘惑しなきゃならない相手がいるのよ」


「知っとる。でも、ああいうナンパは許せへん」


「は!? なにそれ」


「……なんか腹立つねん」


 ふいに、ないこの心臓が跳ねた。


(なんで……なんでちょっと、そんな言い方するの……!?)


 気のせいだ。たぶん気のせい。


 そう自分に言い聞かせるが、胸の高鳴りは消えない。


――――――


 今回狙うのは、闇オークションをひっそりと仕切る情報屋、

 “黒狐のエンジ”。


 濃紺スーツを着た切れ長の目を持つ男だ。


「ないこ、いくんか?」


「ええ。あたしが行くわ」


 まろは拳を握りしめた。


「危なくなったらすぐ合図しろよ」


「わかってるわよ」


 ないこはエンジの前に歩み寄り、ドレスの裾を揺らしながら声をかけた。


「こんばんは。お一人ですか?」


 エンジは目を細め、ないこを一瞥した。


「……見ない顔だね。緊張してるように見えるけど?」


「あら……バレちゃいました?」


 ないこは、ゆっくり胸元に指を添える。

 まろのほうから「やめろやめろ!」という心の声が聞こえそうだった。


「実は、こういう場所って初めてで……案内してくれたら、嬉しいなぁって」


 エンジの表情が緩み始める。


(よし……いい感じ。このまま情報を──)


 その瞬間。


「ないこ、肩出しすぎちゃうか?」


「はぁぁぁあ!?!?!?」


 突然、まろが間に割り込んできた。


「おまえ、さっきから肌出してんの気になってしゃーないねん」


「ちょっ……まろ!!! 今は任務中!!」


「任務でもあれはアカンて!!」


 エンジがポカンと二人を見る。


「……君たち、カップルかい?」


「違います!!」


「違うわ!!!」


 声が揃った。


 しかし──


 二人の顔は真っ赤だった。


 エンジは肩を揺らして笑う。


「いやいや、いいよ。楽しませてもらった。それで、僕に何か用だろ?」


(……バレてる!?)


 ないこは焦り、まろは拳を強く握った。


「……おっさん、変な目でないこ見とったやろ」


「ほう?」


 エンジの表情がわずかに変わる。


「君……彼女の護衛か何か?」


「護衛ちゃうけど、近い立場ではあるな」


「あら、まろ。あたしのこと守る気?」


「そら守るに決まっとるやろ」


「え……」


 一瞬、ないこの頭の中が真っ白になった。


(今……“守る”って……)


 エンジが笑みを深めた。


「じゃあ、こうしよう。君が僕から“彼女を守れるなら”情報を渡す」


「は?」


「ちょ……そんな賭け、聞いてないわよ!」


 エンジは懐からナイフを取り出し、ヒュッと投げた。


 まろの足元、わずか数センチ先に突き刺さる。


「守れるかどうか、試してあげる」


「上等や」


 まろの瞳が鋭くなる。


「うちのバディに手ぇ出したら、容赦せんで」


 ないこは心臓が跳ねた。


(バディ……って、そんな真剣な顔で言われると……)


――――――


 エンジが動くと同時に、まろも動いた。

 空気がびりっと震える。


 ないこは後ろへ下がりながら叫ぶ。


「まろ! エンジはナイフの扱いが上手いわ!」


「知っとる! あいつ、足取り軽いタイプや!」


 カシャンッ。


 刃と拳のぶつかる音が響く。


「ほんとに素手で止めるの!?」


「うちは素手にこだわり持っとんねん!!」


「意味わかんないわよ!!」


 しかし──


 その拳は、確かにエンジの動きを読んでいた。

 攻撃を弾き、足払いをかけ、目の前へ迫る。


「くっ……!」


 エンジは後退しながら息を切らす。


「……噂以上だね、君」


「そらどーも」


 まろは笑みを浮かべる。


 ないこは、その笑みに胸が高鳴った。


(なんで……なんでこんなに……)


 敵の時にはただ“やりづらい相手”だったのに。

 今は──


(……ちょっと、かっこよすぎでしょ)


 自分で自分にツッコみたくなる。


―――――


 エンジは大きく息を吸い、ナイフを構えた。


「最後の一撃だ!」


 だが、まろが先に動いた。


 足音すら聞こえない。


 風を裂く拳が、エンジのナイフを弾き飛ばした。


「!!?」


 ナイフは床を滑り、遠くで止まった。


 エンジは観念したように両手を上げた。


「……参った。君の勝ちだ。情報を渡そう」


「最初っからそうしてくれたらええのに」


 ないこは胸を押さえた。


(……終わった)


 安堵した途端、膝から力が抜けそうになる。


 その時。


「ないこ、大丈夫か?」


 ふいにまろが腕を回してきた。


「ひゃっ……!!?」


「おまえ、顔色悪いで。倒れそうやないか」


「ち、違うのよ……! こ、これはただ……任務で緊張して……!」


「うちのせいやったらごめんな」


 まろの横顔は真剣そのものだった。


(ほんと……なんで急にこんな優しいの……)


 ないこの胸に、熱いものが広がる。


――――――――――


 オークション会場を後にした二人。


 帰り道、ないこは黙ったまま歩いていた。


 まろが心配そうに覗き込む。


「……ないこ。ほんまに調子悪いんか?」


「ちが……違うのよ。そうじゃないの」


「ならよかったけど……」


 ないこはゆっくり顔を上げた。


「……なんで、あんなに必死に守ってくれたの?」


「そら……」


「バディだから?」


「……バディやからもあるけど」


 まろは、小さく息を吐いた。


「それ以上に……おまえが危ない目に遭うん嫌なんや」


「っ……」


 ないこの耳まで真っ赤になる。


 まろは照れ隠しのようにぼ scratches his cheek.


「うちは殴るだけしかできんけど……それでもおまえを守るくらいはできる。せやろ?」


「……あたし、守られてばかりじゃ嫌なんだけど」


「ほな、今度はないこがうちを助けてくれたらええ」


「……うん」


 二人は自然と、歩く距離が近くなった。

 契約上の“1.8m以内”なんて関係なく。


 そして、ないこは思う。


(……こんなふうに隣を歩くの、悪くないかもしれない)


 少しずつ、敵からバディへ。

 そしてその先へ。


 二人の距離は、知らぬ間に縮まり始めていた。











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