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#ブラフラ
なみゃ
20
skbn
11
て ぃ あ ら 。
2,081
8
翌朝、彼女は何事もなかったかのように平然と朝ごはんを鼻歌交じりに作っていてくれた。
「あのさ、昨日はごめんな。俺が何かを忘れて、君を悲しませてしまって。」
俺はドアに背を預けて頭を掻いた。謝るのに慣れていなかったのだ。
「その…ごめん。」
ふてくされていたのをやめ、しっかりと頭を下げて謝罪した。すると、鼻歌が止まって彼女がこちらにやって来た。数十秒の沈黙の後、彼女は俺の頭を無作為に撫で回した。
「ふっ…そんなにちゃんと頭を下げるなんて。君は君のままがいいよ。」
頭を上げると彼女は優しく微笑んでいた。俺を撫で回すその右腕には俺と色違いのピンクのアクセサリーが朝日に照らされ、キラキラと輝いていた。
その手に自分の左手を重ねたその瞬間、2つのブレスレットの飾りが磁石で引き寄せられて一つになった。
―こんなに簡単に心も一つに通じあえたらいいのに。
そう願ってしまった。人は皆他者のことを受け入れるだけで本当は理解なんかしていないのだ。理解というもの自体、本当は存在しないのかもしれない。
「ねぇ、本当に何も覚えてない?」
「…え?」
自分自身、何を忘れてしまったのかすらわからなかったのだ。
「気づいてない…よね。わかった、ちょっと話そっか。」
俺はそのまま彼女に腕を引かれてソファーまで連れて行かれ、並んで腰を下ろした。
「あのね、気づき始めてるかもしれないんだけど“もう一人の君”について話すね。」
「もう一人の俺…?」
言われてみれば、少女に会い、見慣れない字体のカルテ、不思議な森に行ったりと、この一連の流れは明らかにおかしい。俺はどうかしてしまったのだろうか…。
―まさか…。
「…俺は解離性同一性障害なのか…?」
解離性同一性障害。多重人格障害と呼ばれた精神疾患だ。一人の人間の中に、全く異なる性格や記憶を持つ複数の人格(交代人格)が存在し、それらが交代で現れる病気だ。原因としては強いストレスやトラウマから自分自身を守るために生じるとされている。
なんとなく自覚はあったが改めて気づいてしまうとつらかった。
「…ごめんね。教えてあげられなくて。」
「いつからだ…?」
「…前の病院で働いていた頃からだよ。」
前の病院。つまりは3ヶ月以上前から俺は病に冒されていたのだ。
彼女いわく、本当に人格が移り変わっているかわからなくって、信じたくなくて口にしなかったのだと言う。
俺は頭を抱えた。
―これからどうすればいいのだろう…。
仕事だってまともにできるかわからないし、生活に支障が出る。いくら同居人がいるとしても同じ医師だからこそ、いつ家にいるかもバラバラだ。
そこでふと、少女の言葉が頭の中をよぎった。
『私、もうすぐ消えるんです。』
彼女が単なる自殺願望者ではなく、俺の中に居た一つの人格で、消えるとすれば…?
自分の中で嫌な妄想を膨らませてしまった。今想像したことが真実ならばと思ってしまうたびに胸が締め付けられる。次はいつ俺があの森に沈んでしまうかわからない。その恐怖だけが心にまとわりついた。
「寛奈、ごめっ…。」
顔を上げるとすでに思考の森の中に居た。その真実だけで今にも膝を折って泣き叫んでしまいそうだった。
ただ、唯一目の前に自分と似ていて同じ服を着ているヤツがいたからそれをこらえた。
「おい…あんたは気づいてたんだろ。」
低い声で思った以上に声が震えてしまった。涙をこらえた代償か、それとも真実を受け入れたくないのか。
太い木の下に腰掛けて眠っていたそいつはゆっくりと目を覚ました。
「目を覚ましてそうそう大声を出さないでくれ。」
不機嫌そうにしつつも立ち上がるのを俺はじっと見ていた。
俺と同じ容姿のくせに、そいつは同じ長い襟足を髪留めで縛り、銀のフレームのメガネを掛けていた。同じようで同じじゃない。話し方もちょっとした容姿も。それが逆に自分が病であると語っているようで俺は拳に指が白くなるほど力を込めた。
「質問に答えろ!」
俺はそいつの胸ぐらをつかんだ。
「知っていた。」
そいつは俺の腕を振り払い、服の皺を伸ばし始めていた。俺は絶望に飲み込まれて床に膝を折って俯いていた。
「お前は頭冷やしておけ。私はお前の代わりに仕事に行く。」
床に広がる黒い大穴の中に彼は飛び降りて姿を消した。
俺はただその様子を見ることすらできずに声を出して泣いていた。
俺はそのまま目をつぶって夢を思い描いた。来るはずもないかもしれない夢を。
コメント
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うわあ、第9話、重かったですね…。主人公が「解離性同一性障害」という診断を自覚するシーン、胸が締め付けられました。特に「もう一人の君」という彼女の優しい言葉と、実際に現れた別人格の冷めた態度のギャップが切なかったです。ブレスレットが磁石で一つになる描写も印象的で、心が通じ合えたらいいのにという願いが逆に痛々しかった。続きがすごく気になります。