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コメント
1件
読了しました…!カンピンかわいすぎてやばいです😭💘柳沢さんの「だーね」口調とネコ愛が全面に出てて、読んでるこっちまでにやにやしちゃいました。越前くんのツンデレな感じと、カンピンの写真を見せてくれる優しさのギャップがたまらない…。最後の写真撮影のシーン、すごくほっこりしました。続きが気になる…!
#ウィンドブレーカー
유키에
50
#テニスの王子様
유리
87
第一章 偶然の出会い
ある日の放課後。
青春学園中等部のテニスコートでは、いつものようにテニス部の練習が行われていた。
一方、そのころ。
不動峰や聖ルドルフとはまた違う、少し離れた場所にある公園のベンチで、聖ルドルフ学院テニス部の柳沢慎也は、ひとりでジュースを飲んでいた。
柳沢慎也は、ベンチの背もたれに体を預けながら、空を見上げた。
柳沢「今日は練習が早く終わっただーね。たまには、のんびりするのも悪くないだーね」
ゴクゴク。
柳沢「ぷはっ! やっぱりジュースはうまいだーね!」
そのときだった。
公園の入り口から、見覚えのある少年が歩いてきた。
緑色のキャップ。
白いシャツ。
そして、少し生意気そうな表情。
柳沢「あれ? あそこにいるのは……」
少年はベンチの近くを通り過ぎようとしていた。
柳沢「おーい! 越前!」
越前「……ん?」
少年――越前リョーマは、足を止めて振り返った。
越前「あれ、聖ルドルフの……柳沢さん?」
柳沢「そうだーね! 久しぶりだーね!」
越前「どうも」
柳沢「どうもって、ずいぶんあっさりしてるだーね!」
越前「別に、普通っすけど」
柳沢「相変わらず生意気だーね……」
越前「それ、よく言われるっす」
柳沢は、思わずため息をついた。
しかし、リョーマの顔を見ているうちに、あることに気づいた。
柳沢「ところで越前、お前、今日はひとりだーね?」
越前「そうっすよ。買い物の帰りっす」
柳沢「へえ。何を買ったんだーね?」
越前「別に、たいしたものじゃないっす」
柳沢「なんだーね、その秘密主義は!」
越前「柳沢さんに教える必要、ないでしょ」
柳沢「うぐっ!」
リョーマは何事もなかったかのように、近くのベンチへ向かった。
そして、柳沢から少し離れた場所に座った。
柳沢(なんなんだーね、こいつ! 年上に対して遠慮がなさすぎるだーね!)
柳沢は文句を言おうとした。
しかし、そのとき。
リョーマがポケットからスマートフォンを取り出した。
そして、画面を見ながら、ほんの少しだけ表情を緩めた。
いつもは生意気そうなリョーマが、珍しく優しい顔をしていたのだ。
柳沢「……ん?」
柳沢は、その変化を見逃さなかった。
柳沢「越前。何を見てるんだーね?」
越前「……別に」
柳沢「いやいや、今、すごく優しい顔をしていただーね!」
越前「してないっす」
柳沢「していただーね!」
越前「してないっつってるでしょ」
柳沢「じゃあ、何を見ていたんだーね?」
越前「……ネコ」
柳沢「ネコ?」
その瞬間。
柳沢の目が、キラリと輝いた。
柳沢「ネコだと!?」
越前「うわっ、声でかいっすよ」
柳沢「お前、ネコを飼ってるんだーね!?」
越前「まあ……そうっすけど」
柳沢「本当か!? 写真はあるんだーね!?」
越前「……なんでそんなに食いつくんすか」
柳沢「ネコはかわいいだーね!」
越前「……は?」
柳沢「ネコはかわいい! それは世界共通の真理だーね!」
越前「大げさっすね」
柳沢「いいから、見せてほしいだーね!」
リョーマは、少し面倒くさそうに柳沢を見つめた。
しかし、やがて小さくため息をつくと、スマートフォンを柳沢のほうへ向けた。
越前「……ほら」
柳沢「おおっ!」
画面には、一匹のネコが写っていた。
白と茶色の毛並み。
丸い目。
小さな前足。
そして、カメラをじっと見つめる、なんとも愛らしい表情。
柳沢「…………」
越前「……何すか?」
柳沢「かわいい……」
越前「……」
柳沢「かわいいだーね……!」
越前「……あんたに、褒められても嬉しくないっす」
柳沢「なんでだーね!?」
越前「なんとなく」
柳沢「なんとなくで傷つけるなだーね!」
リョーマは、ふいっと顔をそらした。
けれど、その口元はほんの少しだけ緩んでいた。
柳沢は、それを見て首をかしげた。
柳沢(……なんだーね? 今、ちょっと笑ったような……)
越前「何、じろじろ見てるんすか」
柳沢「いや、別に!」
越前「変な人」
柳沢「変な人じゃないだーね!」
こうして、柳沢慎也と越前リョーマの、少し不思議な時間が始まった。
そして柳沢は、まだ知らなかった。
この一枚のネコの写真が、自分の毎日を少しずつ変えていくことを。
柳沢は、もう一度スマートフォンの画面を見た。
柳沢「ところで、このネコの名前は何だーね?」
越前「カンピン」
柳沢「カンピン?」
越前「そうっす」
柳沢「なんだか、個性的な名前だーね!」
越前「そう?」
柳沢「そうだーね! でも、いい名前だーね!」
越前「……ふーん」
柳沢「カンピンは何歳なんだーね?」
越前「まだ子ネコっす」
柳沢「子ネコ!? ということは、まだ小さいんだーね!?」
越前「写真、見れば分かるでしょ」
柳沢「そうだけど、実物はもっとかわいいに決まってるだーね!」
越前「勝手に決めつけないでほしいっす」
柳沢「抱っこしたことはあるんだーね?」
越前「ありますけど」
柳沢「うらやましいだーね……!」
越前「……柳沢さんって、そんなにネコ好きだったんすか?」
柳沢「もちろんだーね! ネコは気まぐれで、自由で、かわいくて、見ているだけで癒やされるだーね!」
越前「それ、ネコの説明っすか?」
柳沢「そうだーね!」
越前「……変な人」
柳沢「二回目だーね!?」
リョーマは、今度こそ小さく笑った。
柳沢は、その笑顔を見て、なぜか一瞬だけ言葉に詰まった。
いつもは生意気で、何を言っても涼しい顔をしている越前。
そんな彼が、自分の前で少しだけ笑っている。
柳沢(……なんだーね。こいつ、笑うと意外と……)
越前「何すか?」
柳沢「な、なんでもないだーね!」
越前「さっきから、そればっかりっすね」
柳沢「うるさいだーね!」
越前「はいはい」
リョーマは再び画面を操作した。
越前「……こっちも見る?」
柳沢「えっ?」
越前「カンピンの写真。ほかにもあるんすよ」
柳沢「見たいだーね!!」
越前「声、大きいっす」
リョーマが見せてくれたのは、カンピンが毛布の上で丸くなっている写真だった。
次は、箱の中にすっぽり収まっている写真。
その次は、おもちゃのボールを前足で押さえている写真。
さらに、リョーマの膝の上で眠っている写真まであった。
柳沢「うわあああ! これは反則だーね!」
越前「何がっすか」
柳沢「この寝顔! この前足! この丸まった姿! 全部かわいいだーね!」
越前「……そんなに?」
柳沢「そんなにだーね!」
越前「ふーん」
柳沢「越前は毎日こんなかわいいネコと暮らしているのか……!」
越前「まあ、そうっすね」
柳沢「いいなあ……」
その言葉は、思ったよりも素直に口から出ていた。
リョーマは、少しだけ柳沢を見た。
越前「……今度、見に来ます?」
柳沢「えっ!?」
越前「だから、カンピン。見たいんでしょ?」
柳沢「い、いいのかだーね!?」
越前「別に。カンピンが嫌がらなければ」
柳沢「もちろんだーね! カンピンに嫌われないように、礼儀正しく接するだーね!」
越前「ネコに礼儀正しくって……」
柳沢「大切なことだーね!」
越前「……まあ、いいっすけど」
そう言いながら、リョーマはスマートフォンをしまった。
柳沢は、胸の中が妙に温かくなるのを感じていた。
ネコに会えるのが嬉しい。
それは間違いない。
しかし、それだけなのだろうか。
柳沢(……いやいや、何を考えてるんだーね! ネコに会えるから嬉しいだけだーね!)
そう自分に言い聞かせた柳沢だったが、隣に座るリョーマの横顔が、なぜか気になって仕方がなかった。
夕方。
公園を出る時間になった。
越前「じゃ、俺、帰るんで」
柳沢「もう帰るのかだーね?」
越前「もうって……結構、話したじゃないっすか」
柳沢「そ、そうだーね……」
せっかく話せたのに、もうお別れ。
そう考えると、柳沢は少しだけ残念な気持ちになった。
柳沢(……いや、別に寂しくなんかないだーね!)
越前「それじゃ」
リョーマが歩き出す。
柳沢「あっ、越前!」
越前「何すか?」
柳沢「れ、連絡先……」
越前「……は?」
柳沢「いや、その……カンピンの写真を、また見せてもらいたいというか……」
越前「自分で撮ればいいじゃないっすか」
柳沢「そういう問題じゃないだーね!」
越前「じゃあ、どういう問題っすか」
柳沢「ええと……!」
柳沢は頭を抱えた。
いつもなら、こんなことで慌てたりしない。
相手は後輩だ。
連絡先を聞くくらい、普通のことのはずだった。
それなのに、どうしてこんなに緊張するのだろう。
越前「……別に、いいっすよ」
柳沢「えっ?」
越前「連絡先。交換するんでしょ?」
柳沢「い、いいのかだーね!?」
越前「何回言うんすか、それ」
リョーマはスマートフォンを取り出した。
二人は連絡先を交換した。
画面には、新しい連絡先が表示される。
『越前リョーマ』
柳沢は、その名前をじっと見つめた。
越前「……何してるんすか?」
柳沢「いや、ちゃんと登録できたか確認してるだーね!」
越前「さっきから画面、ずっと同じっすよ」
柳沢「う、うるさいだーね!」
越前「じゃ、今度こそ帰ります」
柳沢「待つだーね!」
越前「今度は何すか?」
柳沢「カンピンの写真……送ってもらってもいいだーね?」
越前「……本当にネコが好きなんすね」
柳沢「そうだーね!」
越前「分かったっす。気が向いたら送ります」
柳沢「ありがとうだーね!」
リョーマは軽く手を振り、帰っていった。
柳沢は、その後ろ姿が見えなくなるまで、なぜかその場に立ち尽くしていた。
そして。
ピロン♪
スマートフォンが鳴った。
柳沢「ん?」
画面を確認すると、越前からメッセージが届いていた。
『カンピン。今日の写真』
添付されていたのは、カンピンが小さな箱から顔を出している写真だった。
柳沢「…………」
柳沢「かわいいだーねええええ!!」
公園に柳沢の声が響き渡った。
通りかかった人が、びっくりして振り返った。
柳沢「はっ!? い、今のは違うだーね!」
もちろん、誰も聞いていなかった。
その夜。
聖ルドルフ学院の寮。
柳沢はベッドの上に座り、スマートフォンを眺めていた。
画面に表示されているのは、カンピンの写真。
一枚。
二枚。
三枚。
柳沢「……かわいいだーね」
もう何度目か分からない感想だった。
柳沢は、写真を拡大した。
柳沢「この耳……!」
さらに拡大する。
柳沢「この目……!」
もっと拡大する。
柳沢「この小さな鼻……!」
柳沢「完璧だーね……!」
そのとき。
ガチャッ。
部屋のドアが開いた。
赤澤𠮷朗「柳沢。何をさっきから騒いでるんだ?」
柳沢「うわっ!?」
柳沢は慌ててスマートフォンを伏せた。
赤澤「……何を隠した?」
柳沢「な、何も隠してないだーね!」
赤澤「怪しいな」
柳沢「怪しくないだーね!」
赤澤は、柳沢のベッドに近づいた。
赤澤「何を見てたんだ?」
柳沢「そ、それは……」
赤澤「見せろ」
柳沢「嫌だーね!」
赤澤「なんだと?」
柳沢「……分かっただーね」
柳沢は観念して、スマートフォンを差し出した。
赤澤「……ネコ?」
柳沢「そうだーね!」
赤澤「これを見て、あんなに騒いでたのか?」
柳沢「カンピンは特別だーね!」
赤澤「カンピン?」
柳沢「越前の飼いネコだーね!」
赤澤「……越前?」
柳沢「今日、公園で偶然会ったんだーね! それで、カンピンの写真を見せてもらったんだーね!」
赤澤は画面を見た。
赤澤「……確かに、かわいいな」
柳沢「だろう!?」
赤澤「でも、お前がここまでネコに夢中になるとはな」
柳沢「ネコがかわいいのは当然だーね!」
赤澤「はいはい」
赤澤は笑いながら、部屋を出ようとした。
しかし、ドアのところで振り返った。
赤澤「ところで柳沢」
柳沢「何だーね?」
赤澤「お前、越前のことを話しているときも、ずいぶん楽しそうだったぞ」
柳沢「……は?」
赤澤「じゃあな」
バタン。
ドアが閉まった。
柳沢「…………」
柳沢「な、何を言ってるんだーね、赤澤は!」
柳沢はベッドの上で頭を抱えた。
柳沢「越前はただの後輩だーね! カンピンの写真を見せてくれた、親切な後輩だーね!」
そう言いながら、柳沢はもう一度スマートフォンを見た。
カンピンの写真。
そして、その写真を送ってくれた越前の名前。
柳沢「……明日も、話せるといいだーね」
小さくつぶやいた言葉は、誰にも聞かれなかった。
翌朝。
柳沢は、いつもより早く目を覚ました。
柳沢「……朝だーね」
スマートフォンを確認する。
新しいメッセージはない。
柳沢「……まあ、そうだーね」
朝から連絡が来るはずもない。
そう思いながら、柳沢は身支度を始めた。
しかし、朝食を食べているときも。
学校へ向かっているときも。
授業を受けているときも。
柳沢の頭の片隅には、昨日の公園での出来事が残っていた。
そして昼休み。
ピロン♪
柳沢「!?」
柳沢は、ものすごい勢いでスマートフォンを手に取った。
画面には、越前からのメッセージ。
『カンピン、今日は箱から出てこない』
添付写真には、段ボール箱の中に収まったカンピンが写っていた。
柳沢「……っ!」
柳沢は口元を押さえた。
柳沢(かわいい……! いや、これは返信しなければならないだーね!)
柳沢は慎重に文章を打ち始めた。
『カンピンは箱が好きなんだーね! とてもかわいいだーね!』
送信。
数秒後。
越前『そうっすね』
柳沢「……短いだーね」
それでも、柳沢は嬉しかった。
すぐに次のメッセージを送る。
柳沢『カンピンは、いつも箱に入っているのかだーね?』
越前『日によるっす』
柳沢『なるほどだーね!』
越前『柳沢さん、授業中じゃないんすか』
柳沢「……!?」
柳沢は時計を見た。
授業中だった。
柳沢(しまっただーねえええ!!)
慌ててスマートフォンをしまった。
教師「柳沢。何をしている?」
柳沢「な、何でもないだーね!」
教師「本当に?」
柳沢「本当だーね!」
教師「では、今の問題を答えなさい」
柳沢「えっ!?」
教室に笑い声が広がった。
柳沢は、必死に問題を考えた。
柳沢(カンピン……いや、今は授業だーね!)
なんとか答えをひねり出したものの、柳沢の頭の中は、カンピンのことでいっぱいだった。
そして放課後。
柳沢は、再びスマートフォンを開いた。
越前から新しいメッセージが届いていた。
『今度、カンピンに会いに来るなら土曜でいいっすよ』
柳沢「…………」
柳沢「土曜日……!」
柳沢は、思わず立ち上がった。
柳沢「土曜日だーね!!」
赤澤「うるさいぞ、柳沢!」
柳沢「す、すまないだーね!」
しかし、柳沢の顔は、どうしてもにやけてしまうのだった。
土曜日。
柳沢は、朝から落ち着かなかった。
柳沢「服装はこれでいいだーね?」
鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。
柳沢「いや、こっちのほうがいいだーね?」
着替える。
柳沢「……いや、やっぱり最初のほうが……」
また着替える。
結局、出発するまでに何度も服を選び直した。
柳沢「……何をやってるんだーね、俺は!」
自分で自分にツッコミを入れたあと、柳沢は小さなお菓子の袋を持った。
柳沢「カンピンへのお土産……ではなく、越前の家への手土産だーね!」
そう言い訳しながら、柳沢は家を出た。
待ち合わせ場所には、すでにリョーマがいた。
越前「遅いっす」
柳沢「まだ約束の時間ぴったりだーね!」
越前「俺、五分前からいたんすけど」
柳沢「それはお前が早すぎるんだーね!」
越前「はいはい。じゃ、行きますよ」
柳沢「よ、よろしくお願いするだーね!」
越前「……なんでそんなに緊張してるんすか」
柳沢「緊張なんかしてないだーね!」
越前「声、裏返ってますけど」
柳沢「気のせいだーね!」
二人は並んで歩き始めた。
しばらくすると、リョーマが口を開いた。
越前「柳沢さんって、ネコを飼ったことあるんすか?」
柳沢「実は、飼ったことはないんだーね」
越前「そうなんすか」
柳沢「だから、ネコを飼っている人はうらやましいだーね!」
越前「……毎日、世話するのも大変っすけどね」
柳沢「そうなのかだーね?」
越前「ご飯をあげたり、トイレを掃除したり。遊んでほしいときもあれば、放っておいてほしいときもあるし」
柳沢「なるほどだーね……」
越前「でも、帰ったときに迎えに来てくれると、ちょっと嬉しいっす」
その言葉を聞いたとき、柳沢はリョーマの顔を見た。
リョーマはいつものように淡々としていた。
けれど、カンピンの話をしているときは、どこか優しい。
柳沢「……越前は、カンピンが大好きなんだーね」
越前「……まあ」
柳沢「いいことだーね!」
越前「……何すか、その顔」
柳沢「どんな顔だーね!?」
越前「なんか、変な顔」
柳沢「ひどいだーね!」
リョーマは小さく笑った。
柳沢は、その笑い声を聞きながら、心の中で思った。
柳沢(……越前が笑ってくれると、なんだか嬉しいだーね)
そして、すぐに首を振った。
柳沢(いやいや! 今はカンピンに会いに行くところだーね!)
そう。
今日は、カンピンに会うために来たのだ。
……少なくとも、柳沢はそう自分に言い聞かせていた。
越前家に到着した。
越前「ただいまー」
家の中から、物音が聞こえてきた。
そして。
トタトタトタッ。
小さな足音が近づいてくる。
柳沢「……!」
越前「カンピン、ただいま」
リョーマがしゃがむと、白と茶色のネコが姿を現した。
カンピンは、リョーマの足元に近づき、すりっと体をこすりつけた。
越前「よしよし」
柳沢「…………」
柳沢は、息をするのも忘れそうな勢いで、その光景を見つめていた。
柳沢(本物だーね……!)
写真で何度も見たネコ。
そのカンピンが、今、目の前にいる。
柳沢「……か、かわいいだーね……」
越前「……どうぞ」
柳沢「えっ?」
越前「カンピン、こっちに来てるんで。触りたいんでしょ?」
柳沢「い、いいのかだーね!?」
越前「だから、何回言うんすか」
柳沢は、そっとしゃがんだ。
柳沢「こんにちは、カンピン……。俺は柳沢慎也だーね……」
越前「ネコに自己紹介してる……」
柳沢「大切な第一印象だーね!」
カンピンは、柳沢をじっと見つめた。
柳沢も、じっと見つめ返した。
数秒後。
カンピン「ニャー」
柳沢「…………!!」
柳沢は、両手で口を押さえた。
柳沢「鳴いた……! カンピンが鳴いただーね……!」
越前「普通に鳴きますよ」
柳沢「俺に挨拶してくれたんだーね!」
越前「たぶん違うっす」
柳沢「いや、絶対に挨拶だーね!」
カンピンは、柳沢の靴の近くをくんくんと嗅いだ。
そして、柳沢の足元に座った。
柳沢「……!」
越前「気に入られたんじゃないっすか?」
柳沢「本当かだーね!?」
越前「さあ」
柳沢「さあって何だーね!」
リョーマは笑いながら、カンピンの背中を優しくなでた。
越前「カンピン、怖くないよ。この人、ちょっと騒がしいけど」
柳沢「ちょっとじゃないだーね!?」
越前「……ネコ好きな人だから」
柳沢「……!」
その言葉に、柳沢は少しだけ胸が熱くなった。
カンピンは、柳沢の手に鼻先を近づけた。
柳沢は、リョーマに目で確認する。
越前「ゆっくり触ればいいっすよ」
柳沢「……分かっただーね」
柳沢は、そっとカンピンの頭をなでた。
ふわり。
柔らかな毛並みが、指先に触れる。
柳沢「…………」
柳沢「かわいいだーね……!」
カンピンは嫌がる様子もなく、気持ちよさそうに目を細めた。
柳沢「うわあああ……!」
越前「声!」
柳沢「す、すまないだーね!」
しかし、カンピンは逃げなかった。
むしろ、柳沢の手に頭をこすりつけてきた。
柳沢「カンピン……!」
越前「……気に入られたみたいっすね」
柳沢「ありがとうだーね、カンピン!」
越前「ネコにお礼言ってる……」
柳沢「当然だーね!」
その日、柳沢慎也は人生で初めて、ネコに頭をこすりつけられるという幸福を味わった。
そして、その様子を見ていたリョーマは、いつもより少しだけ楽しそうだった。
しばらく遊んだあと、リョーマは柳沢をリビングへ案内した。
越前「お茶、飲みます?」
柳沢「いただくんだーね!」
越前「そんなにかしこまらなくてもいいっすよ」
柳沢「いや、越前の家にお邪魔しているんだから、礼儀は大切だーね!」
越前「……普段からそれくらい礼儀正しかったらいいのに」
柳沢「何か言っただーね?」
越前「別に」
リョーマがお茶を用意している間、カンピンは柳沢の近くで丸くなっていた。
柳沢は、何度もカンピンを見てしまう。
越前「……そんなに見てたら、カンピンも落ち着かないっすよ」
柳沢「す、すまないだーね!」
越前「ほら、こっち」
リョーマはテーブルにお茶とお菓子を置いた。
柳沢「ありがとうだーね!」
二人は向かい合って座った。
柳沢「越前、今日は本当にありがとうだーね。カンピンに会えて、すごく嬉しいだーね!」
越前「……そんなに喜ぶとは思わなかったっす」
柳沢「本当だーね!」
越前「……ふーん」
リョーマはお茶を飲んだ。
そして、少し迷ったように口を開いた。
越前「……また来てもいいっすよ」
柳沢「えっ?」
越前「カンピン、柳沢さんのこと嫌がってないみたいだし」
柳沢「ほ、本当かだーね!?」
越前「ただし」
柳沢「ただし?」
越前「カンピンが寝てるときに、大声を出さないこと」
柳沢「……!」
越前「あと、勝手に抱っこしないこと。嫌がってるときは、追いかけないこと」
柳沢「もちろんだーね! 約束するだーね!」
越前「なら、いいっす」
柳沢は、何度もうなずいた。
すると、カンピンが立ち上がり、リョーマの膝の上に乗った。
越前「お、どうした?」
カンピンは、リョーマの膝の上で丸くなった。
柳沢「……いいなあ」
思わず、口から言葉がこぼれた。
リョーマが顔を上げる。
越前「……何すか?」
柳沢「いや、その……カンピンに膝の上に乗ってもらえるのは、うらやましいだーね」
越前「……柳沢さんも、座ってればいいじゃないっすか」
柳沢「えっ?」
越前「そのうち来るかもしれないし」
柳沢「……そうだーね!」
柳沢は、嬉しそうに笑った。
リョーマはその顔を見て、なぜか目をそらした。
越前(……本当に、変な人)
しかし、その口元には、小さな笑みが浮かんでいた。
その日の夕方。
柳沢は越前家をあとにした。
柳沢「今日は本当にありがとうだーね!」
越前「はいはい。また連絡してください」
柳沢「カンピンにもよろしく伝えてほしいだーね!」
越前「ネコに伝言っすか?」
柳沢「大切なことだーね!」
越前「……分かったっす」
柳沢は手を振りながら帰っていった。
家に帰ると、スマートフォンを開く。
すると、リョーマからメッセージが届いていた。
『今日はどうも。カンピン、柳沢さんが帰ったあとも玄関のほう見てた』
添付写真には、玄関の近くに座るカンピンが写っていた。
柳沢「…………」
柳沢「カンピン……!」
すぐに返信する。
柳沢『カンピン、俺のことを覚えてくれたんだーね!』
越前『たぶん、外の音が気になっただけっす』
柳沢『夢がないだーね!』
越前『現実的って言ってほしいっす』
柳沢は笑った。
そして、少し考えてから、もう一通メッセージを送った。
柳沢『越前も、今日はありがとうだーね。お前と話せて楽しかっただーね』
送信してから、柳沢は固まった。
柳沢「……っ!?」
柳沢「な、何を送ってるんだーね、俺は!」
今さら取り消すわけにもいかない。
柳沢はスマートフォンを握りしめ、返信を待った。
一分。
二分。
三分。
そして。
越前『……別に。俺も、まあ、楽しかったっすよ』
柳沢「…………」
柳沢は、ゆっくりとベッドに倒れ込んだ。
柳沢「……楽しかった、だーね」
胸が、妙に落ち着かない。
ネコに会えたから。
そうだ。
きっと、カンピンに会えたから嬉しいのだ。
しかし。
柳沢は思い出してしまった。
リョーマがカンピンをなでていた姿。
リョーマが笑っていた顔。
そして、帰り際に言ってくれた「また連絡してください」という言葉。
柳沢「…………」
柳沢「……越前と、また会いたいだーね」
口に出した瞬間、柳沢は自分の言葉に驚いた。
柳沢「……え?」
しばらく沈黙。
柳沢「いやいやいや! カンピンに会いたいだけだーね!」
そう叫んだものの、誰もいない部屋で、自分自身をごまかすのは思ったより難しかった。
月曜日。
聖ルドルフ学院のテニス部。
柳沢は、練習の準備をしながら、スマートフォンを何度も確認していた。
赤澤「……おい、柳沢」
柳沢「何だーね?」
赤澤「さっきから何を見てるんだ?」
柳沢「何でもないだーね!」
観月はじめ「ふふっ。何でもない人間は、そんなに頻繁にスマートフォンを確認しませんよ」
柳沢「か、観月!」
観月「相手は誰ですか? 昨日から、ずいぶん機嫌がいいようですが」
柳沢「べ、別に誰でもいいだーね!」
観月「なるほど。誰でもいい相手なのに、顔が赤くなるんですね」
柳沢「赤くなってないだーね!」
赤澤「……まさか、好きな奴でもできたのか?」
柳沢「なっ!?」
観月「おや」
赤澤「図星か?」
柳沢「ち、違うだーね!」
観月「では、名前を聞いても問題ありませんね?」
柳沢「そ、それは……!」
赤澤と観月が、じっと柳沢を見つめる。
柳沢は逃げ場を失った。
柳沢「……越前だーね」
赤澤「越前?」
観月「青春学園の越前リョーマですか?」
柳沢「……そうだーね」
赤澤は目を丸くした。
赤澤「お前、いつの間に越前と仲良くなったんだ?」
柳沢「公園で偶然会ったんだーね。それで、あいつの飼ってるネコの写真を見せてもらって……」
観月「ネコ?」
柳沢「そうだーね! カンピンという名前で、とてもかわいいんだーね!」
赤澤「……それで?」
柳沢「それで、家に遊びに行って、カンピンと遊んだんだーね!」
観月「……柳沢」
柳沢「何だーね?」
観月「あなた、ネコの話をしているときと、越前の話をしているときで、表情が違いますよ」
柳沢「……は?」
観月「ネコの話をするときは興奮している。越前の話をするときは、少し照れている」
柳沢「そ、そんなことないだーね!」
赤澤「……観月の言うとおりかもしれないな」
柳沢「赤澤まで!?」
観月は、意味ありげに微笑んだ。
観月「まあ、恋愛感情かどうかは、あなた自身が考えることですけれどね」
柳沢「…………」
赤澤「焦る必要はないだろ。まずは普通に話せばいい」
柳沢「……普通に?」
赤澤「ああ。お前は考えすぎなんだよ」
観月「そうですね。越前がどう思っているかも、少しずつ知っていけばいいでしょう」
柳沢は黙り込んだ。
自分は、本当に越前のことが気になっているのだろうか。
ただ、ネコ好き同士として仲良くしたいだけなのか。
それとも。
柳沢(……分からないだーね)
その答えは、まだ見つからなかった。
その日の夜。
柳沢が宿題をしていると、スマートフォンが鳴った。
越前からのメッセージだった。
『カンピンの動画、見ます?』
柳沢「見るだーね!!」
思わず声に出してから、慌てて周囲を確認する。
誰もいない。
柳沢はすぐに返信した。
柳沢『ぜひ見たいだーね!』
送られてきた動画には、カンピンがおもちゃのボールを追いかけている様子が映っていた。
小さな前足でボールを押さえようとする。
しかし、ボールが転がっていってしまう。
カンピンは不思議そうに首をかしげた。
柳沢「……かわいいだーね……」
動画の最後には、カンピンが遊び疲れて、リョーマの膝の上で眠ってしまう場面があった。
柳沢は、何度も動画を見返した。
そして、ふと気づいた。
動画の途中で、リョーマの声が入っていたのだ。
『カンピン、そっちじゃないって』
『あーあ、また転がしちゃった』
『……しょうがないな』
最後に、小さく笑う声。
柳沢「…………」
柳沢は、動画を止めた。
柳沢(……越前の声、こんな感じだったんだーね)
普段、テニスの試合で聞く声とは違う。
穏やかで、優しくて。
カンピンを大切にしていることが、伝わってくる声だった。
柳沢は、ゆっくりと返信した。
柳沢『カンピン、本当にかわいいだーね! それに、越前も優しいんだーね』
送信。
数秒後、既読がついた。
越前『……ネコの世話してるだけっすよ』
柳沢『それでも、優しいと思うだーね!』
越前『……そう』
少し間が空いた。
そして、新しいメッセージが届いた。
越前『柳沢さんって、意外とちゃんと人のこと見てるんすね』
柳沢「…………」
柳沢は、その一文を何度も読み返した。
柳沢「……意外と、か」
少しだけ複雑な気分だった。
しかし、同時に嬉しかった。
自分のことを、越前が少しでも知ってくれた気がしたから。
柳沢は、スマートフォンを胸元に置いた。
柳沢「……もっと、越前と話してみたいだーね」
その気持ちは、もう、カンピンの写真だけでは説明できなくなっていた。
数日後。
放課後から雨が降り始めた。
柳沢は、駅へ向かう途中で雨宿りをしていた。
柳沢「まったく、急に降るとは思わなかっただーね……」
傘を持ってくるのを忘れてしまったのだ。
そのとき。
「……柳沢さん?」
聞き覚えのある声がした。
振り向くと、リョーマが立っていた。
越前「何してるんすか?」
柳沢「見てのとおり、雨宿りだーね!」
越前「傘、ないんすか?」
柳沢「……ないだーね」
越前「……何やってるんすか」
柳沢「うるさいだーね!」
リョーマは、自分の傘を少し持ち上げた。
越前「駅までなら、一緒に入ります?」
柳沢「……え?」
越前「この雨だし。濡れたくないでしょ」
柳沢「い、いいのかだーね?」
越前「またそれっすか」
柳沢「す、すまないだーね……!」
二人は、一本の傘に入って歩き始めた。
いつもより近い距離。
肩が触れそうになるたびに、柳沢は落ち着かなくなった。
越前「……柳沢さん、歩きにくいっす」
柳沢「えっ!?」
越前「そっちに寄りすぎ」
柳沢「す、すまないだーね!」
越前「逆。もっとこっちに寄って」
柳沢「……え?」
越前「そっち、雨に濡れてるじゃないっすか」
柳沢は、自分の肩を見た。
確かに、少し濡れていた。
柳沢「……ありがとうだーね」
越前「風邪ひかれたら困るんで」
柳沢「……俺が風邪をひいたら、困るのかだーね?」
越前「……カンピンの写真、送れなくなるでしょ」
柳沢「…………」
越前「何すか?」
柳沢「いや……」
柳沢は、少しだけ笑った。
柳沢「そうだーね! 風邪をひかないように気をつけるだーね!」
越前「そうしてください」
雨音が二人を包んでいた。
しばらく歩いてから、リョーマが口を開いた。
越前「……柳沢さん」
柳沢「何だーね?」
越前「今度、またカンピンに会いに来ます?」
柳沢「……!」
柳沢「もちろんだーね!」
越前「……じゃあ、また連絡します」
柳沢「楽しみにしているだーね!」
リョーマは前を向いたまま、小さく笑った。
その笑顔を見て、柳沢は思った。
カンピンに会えることは、もちろん嬉しい。
でも。
こうしてリョーマと一緒に歩けることも、同じくらい嬉しかった。
その夜。
越前家。
リョーマは、ソファに座りながらカンピンをなでていた。
カンピンは、気持ちよさそうに喉を鳴らしている。
越前「……カンピン」
カンピン「ニャー」
越前「柳沢さんって、変な人だよね」
カンピン「ニャー」
越前「ネコの写真見ただけで、あんなに喜ぶなんてさ」
カンピンは、リョーマの手に頭をこすりつけた。
越前「……でも」
リョーマは、少しだけ考え込んだ。
初めて会ったとき、柳沢はとても騒がしかった。
カンピンの写真を見ては、大声で喜び。
ネコの話をするたびに、目を輝かせて。
最初は、少し面倒くさいと思った。
けれど。
柳沢は、カンピンを無理に抱き上げようとはしなかった。
自分が教えたことを、ちゃんと守ってくれた。
そして、カンピンが近づいてくるまで、じっと待っていた。
越前「……ちゃんと、優しいんだよな」
自分でも、なぜそんなことを考えているのか分からなかった。
リョーマはスマートフォンを手に取った。
連絡先を開く。
『柳沢慎也』
画面をしばらく見つめる。
越前「……別に、用事はないけど」
そう言いながら、リョーマはメッセージを打った。
『今日は傘、ありがとうございました』
少し考えてから、もう一文を付け足した。
『またカンピンに会いに来ていいっすよ』
送信。
リョーマはスマートフォンを置いた。
数秒後。
ピロン♪
返信が来た。
『ありがとうだーね! 次に会うのが楽しみだーね!』
リョーマ「……本当に、分かりやすい人」
そう言ったリョーマの頬は、ほんの少しだけ赤くなっていた。
カンピンが、リョーマの膝の上で丸くなる。
リョーマは、その背中をなでながら、静かにつぶやいた。
越前「……次は、何を話そうかな」
カンピンは、気持ちよさそうに目を閉じた。
翌日。
柳沢は、いつもより真剣な顔でテニスの練習をしていた。
赤澤「……おい、柳沢」
柳沢「何だーね!」
赤澤「今日は妙に集中してるな」
柳沢「当然だーね! テニスは真剣勝負だーね!」
観月「それはいつも言ってほしい言葉ですね」
柳沢「観月まで……!」
赤澤は笑ったあと、少しだけ真面目な顔になった。
赤澤「ところで、越前とはどうなんだ?」
柳沢「……!」
観月「まだ連絡を取っているんですか?」
柳沢「そ、それは……」
赤澤「別に隠さなくていいだろ」
柳沢はラケットを握り直した。
柳沢「……また、カンピンに会いに行くことになっただーね」
観月「そうですか」
赤澤「よかったじゃないか」
柳沢「……うん」
自分でも驚くほど、素直な返事だった。
赤澤「じゃあ、今度はカンピンのことだけじゃなくて、越前のこともちゃんと知ってこいよ」
柳沢「……越前のこと?」
赤澤「ああ。好きなものとか、苦手なものとか。どんなことを考えてるのか、とかな」
柳沢は、少し黙った。
これまで自分は、カンピンの話をすることばかり考えていた。
でも、リョーマ自身については、まだ知らないことがたくさんある。
柳沢「……そうだーね」
観月「ただし、質問攻めはやめてくださいね。越前君に嫌がられますよ」
柳沢「分かってるだーね!」
赤澤「本当か?」
柳沢「……たぶん」
観月「まったく、先が思いやられますね」
三人は笑った。
柳沢は、ラケットを構え直した。
柳沢(……もっと、越前のことを知りたいだーね)
その気持ちは、もう隠す必要のないものになり始めていた。
翌週の日曜日。
柳沢は、再び越前家を訪れた。
越前「どうぞ」
柳沢「お邪魔するだーね!」
玄関に入ると、カンピンがトコトコとやってきた。
柳沢「カンピン!」
カンピン「ニャー」
柳沢「覚えていてくれたんだーね!」
越前「……前にも会ってますからね」
柳沢「それでも嬉しいだーね!」
柳沢がしゃがむと、カンピンは自分から近づいてきた。
そして。
柳沢の膝に、ちょこんと前足を置いた。
柳沢「……!」
越前「お、珍しい」
柳沢「な、何がだーね?」
越前「カンピン、自分から膝に乗る相手、そんなに多くないんすよ」
柳沢「……本当かだーね!?」
越前「本当っす」
柳沢は、感激のあまり固まった。
柳沢「カンピン……! 俺たちは、もう友達だーね……!」
越前「ネコ相手に大げさすぎるでしょ」
柳沢「大げさじゃないだーね!」
カンピンは、柳沢の膝の上に乗ると、くるりと体を丸めた。
そして、目を閉じた。
柳沢「…………」
柳沢「寝ただーね……」
越前「……そうっすね」
柳沢「俺の膝で……」
越前「……そうっすね」
柳沢「カンピンが……!」
越前「だから、声!」
柳沢は慌てて口を押さえた。
カンピンを起こさないように、そっと背中をなでる。
柳沢「……かわいいだーね」
その声は、いつもの大きな声とは違っていた。
とても小さく、優しい声だった。
リョーマは、その様子を静かに見ていた。
そして、少しだけ目を細めた。
越前「……気に入られたみたいっすね」
柳沢「……うん」
越前「……よかったじゃないっすか」
柳沢「……ありがとうだーね」
二人は、しばらく静かにカンピンを見守った。
いつもなら、柳沢が騒ぎ、リョーマがツッコミを入れる。
そんなやり取りが続いているはずだった。
でも、このときだけは違った。
穏やかな時間が、ゆっくりと流れていた。
カンピンが眠ってから、二人はリビングで話をした。
越前「……柳沢さん」
柳沢「何だーね?」
越前「最初に会ったとき、俺がカンピンの写真を見せたじゃないっすか」
柳沢「もちろん覚えているだーね!」
越前「そのとき、かわいいって言ってましたよね」
柳沢「言っただーね!」
越前「……あれ、本当にそう思ってたんすか?」
柳沢「当たり前だーね!」
越前「……へえ」
柳沢「何だーね、その反応は!」
越前「いや。柳沢さん、誰にでもかわいいって言うのかなって」
柳沢「そんなことないだーね!」
越前「……そうなんすか?」
柳沢「カンピンは本当にかわいいだーね! それに……」
柳沢は、言葉を止めた。
越前「それに?」
柳沢「……その写真を見せてくれたのが、越前だったからだーね」
リョーマは、目を瞬かせた。
越前「……は?」
柳沢「いや、その……お前が大切にしているネコなんだろう? だから、もっとかわいく見えたというか……」
柳沢は、急に恥ずかしくなった。
柳沢「……変なことを言っただーね。忘れてほしいだーね!」
しかし、リョーマはすぐには返事をしなかった。
しばらくして、ぽつりと言った。
越前「……別に、変じゃないっすよ」
柳沢「……え?」
越前「俺が大切にしてるものを、ちゃんと大切にしてくれるのは……悪くないと思います」
柳沢「…………」
越前「……それだけっす」
リョーマは、お茶を飲んだ。
その横顔はいつもどおりだったが、耳の先が少し赤くなっていた。
柳沢は、何も言えなかった。
胸が、じんわりと温かくなる。
柳沢(……ああ、そうか)
自分は、カンピンが好きだ。
それは本当だ。
でも、カンピンを大切にしているリョーマのことも、もっと知りたい。
一緒に話したい。
また会いたい。
そして、できることなら。
リョーマにも、自分と一緒にいる時間を楽しいと思ってほしい。
柳沢「……越前」
越前「何すか?」
柳沢「また、遊びに来てもいいだーね?」
リョーマは一瞬だけ驚いた顔をした。
それから、いつものように少し生意気な笑みを浮かべた。
越前「……カンピンがいいって言うなら」
柳沢「それは、カンピン次第だーね!?」
越前「そうっすね」
柳沢「……まったく、意地悪だーね!」
越前「ふふっ」
今度は、はっきりと笑った。
柳沢は、その笑顔を見て、自分も笑った。
数日後。
柳沢は学校の帰り道、スマートフォンを確認していた。
すると、リョーマからメッセージが届いた。
『今週の日曜、時間あります?』
柳沢「……!?」
柳沢は立ち止まった。
越前から誘ってくるなんて、珍しい。
柳沢は慌てて返信した。
柳沢『あるだーね! どうしたんだーね?』
越前『カンピンのおもちゃ、買いに行こうと思って』
柳沢『なるほどだーね!』
越前『ひとりだと、どれがいいか分からないんで』
柳沢「…………」
柳沢は、スマートフォンを見つめた。
柳沢「……俺を誘ってくれたんだーね」
すぐに返信する。
柳沢『もちろん、一緒に行くだーね!』
越前『じゃ、駅前で』
柳沢『了解だーね!』
メッセージは、それだけだった。
けれど、柳沢の心は弾んでいた。
今度は、リョーマのほうから誘ってくれた。
ネコのおもちゃを買いに行く。
ただそれだけのことなのに、どうしてこんなに嬉しいのだろう。
柳沢「……日曜日が楽しみだーね!」
その声を聞いた通行人が、ちらりと振り返った。
柳沢は慌てて咳払いをした。
柳沢「……何でもないだーね」
しかし、その顔には笑みが浮かんでいた。
日曜日。
駅前で待ち合わせた二人は、ペット用品店へ向かった。
越前「こっちっす」
柳沢「分かっただーね!」
店内には、さまざまなネコ用品が並んでいた。
ボール。
ぬいぐるみ。
猫じゃらし。
小さなトンネル。
そして、ネコが遊べる仕掛けのおもちゃまである。
柳沢「……すごいだーね!」
越前「どれがいいと思います?」
柳沢「うーん……」
柳沢は真剣に商品を見比べた。
柳沢「カンピンは、ボールで遊ぶのが好きだっただーね?」
越前「そうっすね。でも、ひもがついてるおもちゃも好きっす」
柳沢「なら、これなんかどうだーね?」
柳沢が手に取ったのは、羽根のついた猫じゃらしだった。
越前「……よさそうっすね」
柳沢「本当かだーね!?」
越前「はいはい」
リョーマは、別の棚から小さなボールを手に取った。
越前「これも買おうかな」
柳沢「おおっ! カンピン、喜びそうだーね!」
越前「……柳沢さん、もうカンピンのこと詳しくなってきましたね」
柳沢「そ、そうだーね!」
越前「最初は写真を見ただけだったのに」
柳沢「……何度も写真を見せてもらったからだーね」
越前「……ふーん」
リョーマは商品をかごに入れた。
そのあと、二人はネコ用の小さなクッションも見つけた。
柳沢「これはどうだーね?」
越前「カンピン、気に入るかな」
柳沢「きっと気に入るだーね!」
越前「……じゃあ、これも買いますか」
柳沢「決まりだーね!」
買い物を終えると、二人は店の外へ出た。
越前「……付き合ってくれて、ありがとうございました」
柳沢「どういたしましてだーね!」
越前「思ったより、楽しかったっす」
柳沢「……!」
その言葉を聞いた柳沢は、思わず笑顔になった。
柳沢「俺も楽しかっただーね!」
越前「……また一緒に来てもいいっすね」
柳沢「もちろんだーね!」
リョーマは前を向いたまま、少しだけ笑った。
柳沢は、買い物袋を持つリョーマの横を歩きながら思った。
今日は、カンピンのおもちゃを選びに来た。
でも、自分にとって一番嬉しかったのは、リョーマと一緒に過ごせたことだった。
越前家に着くと、リョーマは買ってきたおもちゃを取り出した。
越前「カンピン、ほら。新しいおもちゃ」
カンピンは、興味深そうに近づいてきた。
柳沢「さあ、カンピン! 気に入るだーね!」
越前「……そんなに期待すると、遊ばなかったときに悲しいっすよ」
柳沢「大丈夫だーね!」
リョーマは、猫じゃらしをゆっくり動かした。
カンピンの目が、羽根を追いかける。
そして。
ピョン!
カンピンは、前足で羽根を捕まえた。
柳沢「おおおっ!」
越前「お、気に入ったみたいっすね」
カンピンは、夢中になって遊び始めた。
左右に動く羽根を追いかけ、くるりと向きを変え、前足で押さえる。
柳沢は、その姿を見て大喜びした。
柳沢「やっただーね! カンピンが喜んでるだーね!」
越前「……柳沢さんが選んだおもちゃ、正解だったみたいっすね」
柳沢「本当かだーね!?」
越前「本当っす」
柳沢「……よかっただーね!」
そのとき、カンピンが猫じゃらしを追いかけた勢いで、柳沢の足元にやってきた。
そして、柳沢の膝に前足をかけた。
柳沢「……えっ?」
カンピンは、ひょいっと膝の上に乗った。
柳沢「…………!!」
越前「……あ」
柳沢「カ、カンピンが……!」
越前「また乗りましたね」
柳沢「俺の膝に……!」
越前「……気に入られたんじゃないっすか?」
柳沢「…………」
柳沢は、そっとカンピンをなでた。
カンピンは、満足そうに喉を鳴らした。
柳沢「……ありがとうだーね」
その声を聞いて、リョーマは小さく笑った。
越前「……カンピン、よかったね」
カンピン「ニャー」
柳沢は、顔を上げた。
柳沢「……越前」
越前「何すか?」
柳沢「今日は、本当にありがとうだーね」
越前「……別に。俺も楽しかったんで」
柳沢「……うん!」
二人は笑った。
カンピンは、その間で気持ちよさそうに丸くなっていた。
夕方。
柳沢が帰る時間になった。
越前「駅まで送ります?」
柳沢「いや、大丈夫だーね!」
越前「そうっすか」
柳沢「今日は、本当に楽しかっただーね。カンピンも喜んでくれたし……」
柳沢はそこで、言葉を止めた。
リョーマが、じっとこちらを見ていたからだ。
越前「……それだけ?」
柳沢「……え?」
越前「カンピンのことだけ?」
柳沢「…………」
リョーマは、少しだけ視線をそらした。
越前「……俺も、柳沢さんと出かけるの、楽しかったっすよ」
柳沢「……!」
越前「だから……」
リョーマは、ほんの少しだけ言いよどんだ。
越前「……また、一緒に出かけてもいいっす」
柳沢は、しばらく言葉を失った。
胸の中で、何かが大きく跳ねた気がした。
柳沢「……本当かだーね?」
越前「……またそれっすか」
柳沢「す、すまないだーね!」
越前「……本当っすよ」
柳沢は、ゆっくり笑った。
柳沢「……ありがとうだーね、越前」
リョーマは、顔をそらしたまま答えた。
越前「……どういたしまして」
少しの沈黙。
そして、リョーマが付け加えた。
越前「……あと」
柳沢「何だーね?」
越前「最初にカンピンの写真を見せたとき、かわいいって言ってくれたじゃないっすか」
柳沢「……うん」
越前「……あれ、ちょっと嬉しかったっす」
柳沢「……え?」
リョーマは、すぐに言い直した。
越前「……カンピンのことを、かわいいって言ってくれたのが、って意味っすよ」
柳沢「……そ、そうだーね!」
リョーマ「……何でそんなに嬉しそうなんすか」
柳沢「う、嬉しくなんかないだーね!」
越前「顔に出てますけど」
柳沢「うるさいだーね!」
二人は笑った。
そして、柳沢は帰り道へ向かった。
今日は、カンピンのかわいい姿をたくさん見ることができた。
リョーマと一緒に買い物もできた。
そして何より、リョーマが「また一緒に出かけてもいい」と言ってくれた。
柳沢は、歩きながら空を見上げた。
柳沢「……越前と、もっと仲良くなりたいだーね」
その言葉は、もう自分の中で、はっきりとした願いになっていた。
数日後の放課後。
柳沢は、公園のベンチに座っていた。
初めてリョーマと出会った、あの場所だ。
柳沢「……あの日から、ずいぶん経った気がするだーね」
実際には、それほど長い時間が過ぎたわけではない。
けれど、柳沢にとっては、いろいろなことがあった。
カンピンの写真を見せてもらったこと。
初めて越前家を訪れたこと。
カンピンが膝の上で眠ってくれたこと。
そして、リョーマと一緒に買い物へ行ったこと。
柳沢はスマートフォンを取り出した。
画面には、リョーマから送られてきたカンピンの写真が並んでいる。
箱の中で眠るカンピン。
おもちゃで遊ぶカンピン。
リョーマの膝の上で丸くなるカンピン。
どれも、柳沢にとって大切な写真になっていた。
ピロン♪
新しいメッセージが届いた。
越前『カンピン、今日も新しいおもちゃで遊んでます』
写真には、買い物の日に選んだ猫じゃらしで遊ぶカンピンが写っていた。
柳沢は、思わず笑った。
柳沢『本当だーね! 気に入ってくれてよかっただーね!』
越前『……柳沢さんが選んだやつ、気に入ってるみたいっす』
柳沢『よかっただーね!』
越前『……今度、また遊びに来ます?』
柳沢「…………」
柳沢は、画面をじっと見つめた。
そして、ゆっくりと返信した。
柳沢『もちろんだーね!』
送信してから、柳沢は顔を上げた。
公園の木々が、風に揺れていた。
初めて会ったあの日。
リョーマは、ネコの写真を見せてくれた。
柳沢は、思わず言った。
「かわいい、だーね」
するとリョーマは、こう返したのだ。
「あんたに、褒められても嬉しくないっす」
あのときは、ただの冗談のようなやり取りだった。
けれど今では、その言葉さえも、柳沢にとって大切な思い出になっていた。
柳沢「……本当に、生意気な後輩だーね」
そう言いながら、柳沢は笑った。
でも、その声には、少しも嫌そうな響きはなかった。
柳沢「……また、会えるといいだーね」
すると。
ピロン♪
越前から、もう一通メッセージが届いた。
『次はカンピンと一緒に写真撮りましょうよ』
柳沢「…………!」
柳沢は、スマートフォンを握りしめた。
柳沢「……もちろんだーね!」
思わず声が大きくなった。
周囲の人が振り返る。
柳沢「……な、何でもないだーね!」
しかし、柳沢の顔には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。
次の日曜日。
柳沢は、再び越前家を訪れた。
玄関のドアが開く。
越前「……いらっしゃい」
柳沢「お邪魔するだーね!」
その声に反応して、カンピンが走ってきた。
トタトタトタッ。
カンピン「ニャー!」
柳沢「カンピン!」
柳沢がしゃがむと、カンピンは迷わず近づいてきた。
そして、柳沢の足元にすり寄った。
柳沢「……覚えていてくれたんだーね」
越前「……もう、すっかり慣れたみたいっすね」
柳沢「嬉しいだーね……!」
リョーマは、カンピンを抱き上げるのではなく、柳沢の隣にしゃがんだ。
越前「……じゃ、写真撮りますか」
柳沢「えっ!? 今かだーね!?」
越前「今じゃなかったら、いつ撮るんすか」
柳沢「そ、そうだーね!」
リョーマはスマートフォンを取り出し、カメラを起動した。
越前「ほら、カンピン。こっち」
カンピンは二人の間に座った。
柳沢は、少し緊張しながらカメラを見た。
柳沢「……こ、こうかだーね?」
越前「普通でいいっすよ」
柳沢「普通って何だーね!?」
越前「……もう、いいから」
リョーマは、くすっと笑った。
そして。
カシャッ。
写真が撮れた。
画面には、カンピンを真ん中にして並ぶ二人の姿が写っていた。
柳沢は満面の笑み。
リョーマは、いつもの少し生意気そうな表情。
けれど、その口元には、小さな笑みが浮かんでいた。
そしてカンピンは、まるで二人のことをよく知っているかのように、のんびりと座っていた。
柳沢「……いい写真だーね!」
越前「……そうっすね」
柳沢「大切にするだーね!」
越前「……そんなに?」
柳沢「もちろんだーね!」
リョーマは写真を柳沢に送った。
柳沢のスマートフォンに、二人と一匹の写真が保存された。
その写真を見つめながら、柳沢は静かに言った。
柳沢「……越前。ありがとうだーね」
越前「……何がっすか?」
柳沢「カンピンに会わせてくれたこと。それから……一緒に過ごす時間を作ってくれたことだーね」
リョーマは、少しだけ驚いたように柳沢を見た。
そして、すぐにいつもの表情に戻った。
越前「……別に。俺も、柳沢さんといるの、嫌いじゃないんで」
柳沢「……!」
越前「……何すか、その顔」
柳沢「いや……嬉しいだーね!」
越前「……だから、声が大きいっす」
柳沢「す、すまないだーね!」
リョーマは笑った。
柳沢も笑った。
そのとき、カンピンが二人の間に入り込み、柳沢の膝の上にちょこんと乗った。
柳沢「おおっ! カンピン!」
越前「……本当に気に入られたんすね」
柳沢「カンピンは、俺のことが好きなんだーね!」
越前「……調子に乗らないでください」
柳沢「ひどいだーね!」
二人の笑い声が、部屋に響いた。
窓の外では、穏やかな風が吹いていた。
柳沢は、膝の上で眠り始めたカンピンを優しくなでた。
そして、隣に座るリョーマを見た。
柳沢(……これからも、こうして一緒に過ごせたらいいだーね)
まだ、二人の関係に名前はついていない。
柳沢自身も、自分の気持ちをすべて言葉にできるわけではなかった。
ただ、ひとつだけ分かっていることがあった。
カンピンの写真を見せてもらった、あの日。
柳沢は、ただ「かわいい」と思った。
けれど今は、それだけではない。
カンピンを大切にする越前のことも。
生意気なくせに、ときどき優しい越前のことも。
一緒に笑って過ごす時間も。
全部、もっと大切にしたいと思っていた。
越前「……柳沢さん」
柳沢「何だーね?」
越前「……また来週も、来ます?」
柳沢「……もちろんだーね!」
越前「……じゃあ、決まりっすね」
リョーマは立ち上がり、カンピンのおもちゃを手に取った。
越前「カンピン、遊ぶぞー」
カンピン「ニャー!」
柳沢「俺も遊ぶだーね!」
越前「……柳沢さんは、カンピンのおもちゃを振り回しすぎないでくださいよ」
柳沢「分かってるだーね!」
越前「本当かなあ……」
柳沢「信用してほしいだーね!」
越前「……はいはい」
また、いつものやり取りが始まった。
カンピンは楽しそうにおもちゃを追いかけ、柳沢は大喜びし、リョーマはそんな柳沢にツッコミを入れる。
その光景は、これからも続いていくのだろう。
そして、いつか。
柳沢が自分の気持ちをはっきりと伝える日が来るかもしれない。
リョーマが、その気持ちにどんな返事をするのかも、まだ分からない。
でも、今はそれでよかった。
一緒に笑えること。
一緒に過ごせること。
そして、二人の間には、いつも小さなネコがいること。
それだけで、今日という日は十分に特別だった。
柳沢「……カンピン、今日もかわいいだーね!」
越前「……あんたに、褒められても嬉しくないっす」
柳沢「なんでだーね!? カンピンは嬉しいはずだーね!」
越前「カンピンに聞いてみれば?」
柳沢「カンピン! 俺のこと、好きだーね!?」
カンピン「ニャー」
柳沢「ほら! 好きだって言ってるだーね!」
越前「……絶対、違うと思うっす」
柳沢「ひどいだーねえええ!」
リョーマの笑い声が響いた。
柳沢も、つられて笑った。
カンピンは二人の間で、のんびりと目を細めていた。