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最新話ありがとうございます。話の流れが凄すぎる…!brの言葉がグロくて最高です…😢 好きだけど相手のこと知ってるから余計辛くて堪らないの可愛いです。 今回はWTメンみんな登場してて配役も素敵すぎて大好きです。 続きも楽しみに待ってます!
kn視点
「おはよー、きんとき…ってどうしたのその隈⁉︎」
「あぁ、きりやん…おはよ…」
4限の終わり。
昼休みに学食で休んでいると、後ろからきりやんに声をかけられた。
きりやんは俺の顔を見るなりギョッとしたような顔をする。
「隈ひど…ちゃんと寝てんの?」
確かに、最近は4時間も寝れてない。
でも、そんなに酷い顔をしているのだろうか。
「最近までなかったじゃん…なんかあったの?」
「あー…バイトのシフト、増やしちゃって…」
「バイト?そんなにお金に困ってたっけ?」
「いやー、まぁ…」
歯切れの悪い俺の回答に、きりやんの視線が鋭くなる。
「…」
「あはは〜…」
「きんとき。」
「……ハイ。」
笑ってはぐらかそうとしても、きりやんには通じないみたいだ。
眼鏡のレンズ越しに見える真剣な瞳に当てられ、俺は素直に先日のことを白状した。
たしか、先月の新歓のあとだったかな。
Brooooockに誘われて、彼の家に行った。
少しだけ酒の匂いが籠る部屋のベッドの上で、ボケーッとテレビを見ていると、Broooockが口を開いた。
「ねぇ、きんさ~ん。」
「!」
情けない声と共に、Broooockが俺の手を握った。
高めの体温が指先から伝わって、心臓がドクッと跳ねる。
「どうしたの?」
俺の質問に答えず、俺の手を自身の頬に擦り付けたり、軽く口付けたり。
子供が甘えるみたいな仕草に頬が緩む。
(今日は一段と甘えたがりだな…)
「やっぱきんときと居るのが1番落ち着くかも~」
「…ほんと?」
優しく微笑むけど、心の中はBroooockの発言に歓喜していた。
…決して互いに好きとは言わないこの関係。
直接的な言葉で埋めれない心の隙間は、Broooockの何気ない発言で埋めるしかない。
滅多に埋まらない隙間がBroooockの言葉に埋まる瞬間。その瞬間が1番幸せに感じる。
喜ぶけど、絶対に顔には出さない。
顔に出したら、セフレ以上の感情を抱いてるってバレたら、捨てられてしまうから。
ひとしきりゆっくりした後、Broooockが再度口を開いた。
テーブルの上に置かれたグラスの水面が静かに揺らぐ。
「ねぇ、きんとき。」
「なに?」
「お金、貸してくれない?」
「…え?」
お金…?
お金って言った…?
「な、なんで…?」
驚いてBroooockの方をみる。
すると、Broooockがわざとらしく眉を下げた。
「全然シフト入れなくてさ~、今月お金足りないんだよ~!」
「で、でも…」
「家賃で精一杯なんだよぉ。ねぇ、きんとき、助けてくんない?」
「お、れも、今月は…」
「……駄目なの?」
「っ…」
Broooockの声が冷たくなる。
温度のない声を聞いて、喉がひゅっと鳴った。
「えっと…」
「………はぁ。」
俺が渋っていると、Broooockはため息をついて、スマホをいじり始めた。
彼の視線がスマホに移る。
明らかに機嫌が悪くなったBroooockに、頭が焦りでいっぱいになった。
なんで、俺といるのにスマホ見るの…?
もしかして、女の子と連絡とってる…?
だんだん、吸う息が浅くなる。
…もし、他の女の子がBroooockに金渡しちゃったらどうしよう。
……俺、いらないじゃん。
さっきまでクリアだった視界がぼやけた。
じゃあ、
捨てられる…?
…気づけば、考えるより先に声を出していた。
「い、いくら、ほしいの…?」
震え声の俺の言葉を聞いて、Broooockはパアッと顔を輝かせた。
その顔を見て、ホッと安心する自分がいた。
「お金くれるの!?」
「……うん。」
「3万くらいあれば助かるかも!」
「3万…」
「…無理?」
「いや…、いけるよ…!大丈夫…」
言って、しまった…
息を吸い込んだ途端、後悔がドッと押し寄せてきた。
どうしよう、まだ、今からならまだ、断れる…
ギュッ
「えっ?」
声を出そうとした瞬間、体がギュッと抱きしめられた。
暖かい体に包まれ、目を見開く。
「やっぱきんときが1番だよ~!」
「っ…」
耳元で、優しく囁かれる。
脳に直接語りかけるような、優しい声に、脳が蕩けてしまいそうになった。
俺が1番…
脳が馬鹿になって、正常な思考が出来なくなる。
「ありがとう、きんとき。」
お礼と言わんばかりに、首筋やうなじにキスをされる。
Broooockの首元から香る甘い香りには、気づかないフリをして彼の背中に手を回した。
「…それで、貸したの?」
「…うん。」
「……きんときはさ、」
「?」
「なんで、そんな顔して笑えるの。」
「え…?」
きりやんの暖かい黄色の瞳が、真っ直ぐ俺を見る。
「きんときは、今、幸せ?」
「っ…」
そんなの、
…そんなの、
「俺も、わかんないよ…」
「っ…、きん、とき…」
昼休みも中盤に入って、周りに人が多くなる。
でもそんな騒がしい雰囲気も、今の俺には気にならなかった。
頭の中は、ぐちゃぐちゃで、でも真っ白で、、
自分でもよく分からなかった。
俺、幸せなのかな。
「きんとき……」
「…きりやん。」
「…うん。」
「俺、Broooockのこと好きなんだよ。」
「…知ってる。」
「…なんで、こうなっちゃったのかな。」
全部、自分が選んだ道だ。
自業自得だし、今の関係に文句言う権利は俺にはない。
…でもちょっとだけ。
つらい、かも。
「ごめんね、きりやん。」
「…うん。」
「きりやんには迷惑かけないから、」
もう少しだけ、夢見させて。
「ねぇ、きんとき。」
しばらく沈黙が続いたあと、きりやんが空気を変えるように元気よく言葉を放った。
「ご飯食べ行かない?」
歩きやすい凹凸の少ない道を2人で歩く。
「俺、金ないよ…?」
「いいよ、俺が奢る。」
「でも…」
渋る俺の腕を引っ張ってきりやんの背中を見つめる。
きりやんが気を使ってくれてるのがわかって、胸が苦しくなった。
迷惑かけたいわけじゃないんだけどな…
「ついたよ。」
「!ここ…!」
「え、知ってる場所?」
きりやんが足を止めたのは、俺の家から近いところにあるお店。
シャケが働いているお店だった。
「知り合いが、働いてて…」
「あ、そうなの?コーヒーが美味しいらしいから来てみたかったんだよね。」
そんな会話を交わしながらドアを開ける。
「いらっしゃいませー!…って、きんときさん!」
ドアを開けて店に入るなり、床をほうきで掃いていたNakamu君がこちらを見る。
「久しぶり。一回来ただけなのによく覚えてるね。」
「俺、記憶力はいいんで!」
「ふふ、そっか。」
ニカッと愛想のいい笑顔を浮かべるNakamu君にこちらも頬が緩む。
「すげー、中めっちゃお洒落じゃん。」
「お友達ですか?」
「そー、大学の。」
「カウンター席でも大丈夫です?」
「いいよ。」
「はーい、こちらどうぞー!」
Nakamu君に案内され、カウンター席に座る。
「ご注文どうされますか?」
「俺、ブラックと…お、カツサンド美味しそー、きんときは?」
「カフェラテと…フレンチトーストかな。」
「はーい、ご注文繰り返しまーす!」
ガチャ
「!」
Nakamu君が注文を繰り返していると、カウンター奥のスタッフルームの扉が開いた。
「え…」
「あ…」
中から黒い頭が顔を出す。
ドアの隙間から見知った顔が見えて、こちらも思わず声が出た。
俺らの方を見て驚いたように目を見開いたのは、制服に着替えたシャケだった。