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「降りるよ」

「ほ~い」

電車を乗り継いで目的の場所に移動する。アーケードがある商店街へと。

ホームに一歩足を踏み入れた瞬間からずっと人混みが絶えない。のんびりと歩いていたら誰かにぶつかってしまいそうなぐらいの過密具合だった。

「へぇ。結構広い場所じゃない」

「ここなら雑貨屋、飲食店、ゲームセンター。大抵の物なら揃ってるよ」

「丸1日時間潰せそうね。とりあえずあっちに行くわよ」

「へい…」

電車に乗っている間は互いに無言状態。まるで他人を装うように。

「そういえば服買うお金って…」

「ちゃんと母さんから預かってるよ。そんなに高くないのなら何着か買えるハズ」

「そ、そう。じゃ行こっか」

しかし繁華街に着いた途端に状況が変化。ご機嫌になった相方が饒舌に喋り始めた。

「わぁぁ、可愛い」

ファッション店が並んでいる通りを2人で歩く。彼女が歩いているすぐ後ろを自分が付いて行く形で。ショーウィンドウには綺麗なワンピースやジャケットが置かれていた。

「ちょっとこのお店見て来るわね」

「あぁ、うん」

「アンタは入ってくんじゃないわよ!」

「……はいはい。分かってますとも」

立ち入り禁止命令を出されてしまう。仕方ないので入口で待つ事に。

「げっ…」

ケータイを弄っていると様子を窺ってくる女子高生達と視線が衝突。居心地が悪いので少しズレた場所に避難した。

「……はぁ」

数日前までは一緒にお出掛け出来ると浮かれていたのに。今は不安と苛立ちしか湧いてこない。

「お待たせ」

「遅いよ。入ってから20分も経ってる」

「うっさいわねぇ。男がグダグダ文句言うんじゃないわよ」

「いやいや…」

しばらくすると彼女が店から出てくる。皮肉を込めた言葉を投げ掛けたが逆に責め立てられてしまった。

「次に行くわよ」

「えぇ……まだ廻るんですかぁ」

「なに言ってんのよ。まだ2軒しか行ってないでしょうが」

「別に今日全ての店に寄る必要は無いじゃん」

「文句言わない。アンタは黙って付いてくれば良いの!」

「ちぇっ…」

理不尽極まりない。こんな事なら仮病を使ってでも自宅に残っていれば良かった。

「あ…」

「ん? どしたの?」

人混みを歩いている途中で華恋さんが立ち止まる。ビルの入口で。

「入りたいの? ここ」

「は、はぁ? んなわけないでしょ。何言ってんのよ」

「いや、だって今見てたじゃないか」

「見てないし。どんなお店があるかなぁって眺めてただけよ」

「その違いが分からない…」

彼女の視線の先を追跡。そこにはあったのはアニメ等のグッズが売られているお店の看板だった。

「向こうに入口あるって。回って行けば入れるみたいだよ」

「だから興味ないって言ってんでしょ。入りたきゃアンタ1人で行って来い!」

「え? ちょ…」

気を遣って誘うが拒まれてしまう。無愛想な態度で。

「……まだかなぁ。遅いよ」

その後もファッション店を何軒か訪問。もちろんその間、従者は外で待ちぼうけ。

1軒辺り平均して10分近くは時間を使っていた。お気に召さない場所は入ってすぐに退散しているが、それでも店舗数が多いので苦痛の行脚だった。

「結構オシャレな服あるわね」

「ねぇ、そろそろ買っちゃわない? もう10軒近く廻ってるよ」

「だって買った後にそれより気に入ったの見つけちゃったらどうすんのよ? 払い戻し出来るか分からないのよ」

「それはそうだけどさぁ…」

歩き回っているから足の裏がもう限界。ふくらはぎもパンパン。日頃の運動不足を思い知らされた。

「あぁ、もう分かったわよ。次の店で最後にするから。それで良いでしょ」

「本当? 男に二言は無い?」

「本当よ。つーか私、男じゃねーし」

「やった!」

これで終わりと言うのなら我慢も出来る。不機嫌そうに歩いて行く後ろ姿を追いかけて歩行を開始。

「服見るんじゃないのかぁ…」

しかし彼女が入って行ったのはファッション店ではなく別の空間。小物等が置かれた雑貨屋だった。

「はぁ…」

結局、1着も買っていない。見事と言いたくなるぐらいの本末転倒具合。

不満を垂らしながら窓ガラス越しに中の様子を窺う。そこには無邪気な笑顔でアクセサリーを物色している女の子の姿があった。

「お待たせ~」

「もう良いの?」

「え? まだ見てても良いの?」

「いや、もう疲れたから勘弁してください…」

しばらくすると彼女が出てくる。疲労を感じさせないハイテンションで。

「ねぇ、今日なんにも買ってないんだけど」

「そういえばそうね」

「これだとここまで来た意味がないんだが」

「……ん~」

本日の成果といえば運動不足を解消してくれそうな散歩だけ。他はストレスしか生み出していなかった。

「さっき入った店に気になるのがあったんだけど」

「何か欲しいのがあるの?」

「うん。ダメ……かな?」

「うっ…」

唸りだした彼女が小声で懇願してくる。プラス幼さを感じさせる上目遣いも付け加えながら。

「じゃ、じゃあそのお店に寄って行こっか」

「やった!」

「……ははは」

そんな言動を見てあっさりと前言を撤回。情けなさすぎる手のひら返しを披露した。

「さっき言ってた気になるヤツってどれ?」

「ん~と、コレとコレ」

「ほうほう」

「どっちが良いかな…」

彼女が2着の服を手に持つ。黒い生地のゴスロリシャツと清楚系の白いブラウスを。今回は精算があるので一緒に入店した。

「その2つが欲しいヤツなの?」

「うん。どっちも可愛くて甲乙つけ難いっていうか…」

「いくら?」

「え~と…」

値札を確認する。どちらも4000円前後の商品と判明。

「その2着で良いんだね」

「へ? 両方とも良いの?」

「足りるから大丈夫。んじゃ、さっさと精算済ませちゃおう」

店の中は女性ばかりなので居心地が悪い。一刻も早く立ち去りたかった。

「ありがとうございましたぁ~」

支払いを済ませるとそそくさと退店する。店員さんの恥ずかしい見送りを受けながら。

「はいよ」

「あ、ありがと…」

買ったばかりの商品は本人に献上。お礼の言葉と共に照れくさそうな表情が返ってきた。

「じゃあ帰ろっか」

「そうね。充分楽しめたし」

「あーーっ、疲れた」

両手を空に掲げて背を伸ばす。これでお役御免だと思うと肩の荷が降りた。

「あっ…」

「ん?」

用を済ませた後は前後にズレて繁華街を歩く。その途中、相方の微かな異変を察知。

「……やっぱり気になるんじゃんよ」

彼女は先程見つけたアニメ専門店を眺めていた。意地を張ったものの興味を惹かれているのだろう。けどここならまたいつでも来る事が出来る。なので立ち止まる事なく駅へと向かった。

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