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第七十三話 夏の終わりに
「大切に思っているからこそ、言葉にしなければ伝わらないこともある。」
八月の終わり。
蝉の声が少しずつ遠くなり、
夕方になると、
ほんの少しだけ涼しい風が吹くようになった。
夏が終わろうとしている。
湊は机の上にカメラを置き、
今日撮った写真を整理していた。
最近は写真の勉強も始めた。
撮影の依頼を受けるようになってから、
もっと知りたいと思うことが増えたからだ。
構図。
光。
編集。
人との接し方。
覚えることはたくさんある。
楽しい。
けれど、その分だけ時間もなくなっていた。
気づけば夜になっていることも増えた。
スマホを見る。
紬からメッセージが届いていた。
『今日もお疲れさま!』
湊は返信しようとした。
けれど、写真の整理がまだ終わっていない。
『ありがとう。紬もお疲れさま。』
短く返す。
それだけだった。
紬も忙しくなっていた。
大学の活動に加えて、
秋から始まる新しいプロジェクトの準備。
海外から来る学生との交流企画にも
関わることになった。
やりたいことが増えていく。
嬉しい。
でも、全部を同時にやろうとすると、
時間が足りなくなる。
友達から誘われても断る日が増えた。
湊との電話も、以前ほどできなくなっていた。
「今日も電話できないか……。」
スマホを見ながら、紬は小さく呟く。
湊が悪いわけじゃない。
自分が悪いわけでもない。
ただ、お互いの毎日が少しずつ忙しくなっている。
数日後。
湊が写真の勉強をしていると、スマホが鳴った。
#異世界転移
花月夜れん
1,957
200
ユキ
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47
紬からだった。
『今日、少し電話できる?』
湊は時計を見る。
まだやることが残っている。
それでも、久しぶりにゆっくり話したいと思った。
『うん。終わったら連絡する。』
そう送った。
けれど、そのあと作業に集中してしまった。
気づいたときには、
日付が変わりそうになっていた。
慌ててスマホを見る。
紬からメッセージが一件。
『今日はもう寝るね。おやすみ。』
湊は申し訳なくなった。
『ごめん。気づかなかった。おやすみ。』
送信。
既読はつかなかった。
翌朝。
紬はスマホを見た。
昨夜のメッセージ。
湊からの「ごめん」。
「……ううん。」
別に怒っているわけではない。
分かっている。
湊が頑張っていることも。
自分も忙しくなっていることも。
でも、少しだけ寂しかった。
それを自分から言うのも、なんだか違う気がした。
だから、
『大丈夫だよ!』
とだけ返した。
その日の夜。
湊は紬から送られてきた写真を見ていた。
大学の活動で撮ったらしい。
何人かの学生が笑っている。
楽しそうだった。
「頑張ってるんだな。」
湊はそう思う。
自分も頑張っている。
紬も頑張っている。
だから、応援したい。
でも同時に、
もっと話したい。
そんな気持ちもあった。
今までは、離れていても
毎日のように連絡を取っていた。
写真を送り合って。
今日あったことを話して。
眠る前に声を聞いて。
それが当たり前だった。
でも、当たり前だった時間が少しずつ減っている。
湊はスマホを手に取った。
少し迷ってから、メッセージを送る。
『最近、忙しいね。』
しばらくして、返信が来る。
『うん。湊も忙しそう。』
『でも、頑張ってるの分かるよ。』
湊は画面を見つめる。
「ありがとう。」
そう返した。
けれど、本当はもう一つ言いたいことがあった。
寂しい。
その言葉を入力して、消す。
今は言わなくてもいい。
そう思った。
夜。
湊は一人で近所を歩いた。
夏の終わりの風。
少し涼しくなった空気。
街灯に照らされた道。
カメラを構える。
——カシャッ。
撮った写真を見る。
綺麗だった。
でも、なぜか少し寂しく見えた。
写真は、その瞬間を残してくれる。
でも、写真だけでは伝えられない気持ちもある。
湊は今日撮った写真を紬に送った。
『夏の終わりっぽかったから。』
すぐには返事が来なかった。
それでも、送ってよかったと思った。
翌朝。
紬から一枚の写真が届いていた。
朝の空。
淡い色の雲が広がっている。
その下に短いメッセージ。
『私も、夏が終わるのちょっと寂しい。』
湊は笑った。
そして返信する。
『秋になったら、また撮りたいね。』
少しして、
『うん。一緒に撮ろう。』
と返ってきた。
二人の間にできた小さな距離は、
まだ消えていない。
でも、完全に離れてしまったわけでもない。
言葉にしなかった気持ちが、
少しずつ積もっているだけだった。
だからこそ。
次に会ったときには、ちゃんと話したい。
湊はそう思った。
📷 Photo.073「夏の終わり」
撮影日:8月31日
季節が変わるように、
二人の毎日も少しずつ変わっていく。
近くにいた頃には気づかなかったこと。
離れているからこそ、
大切だと気づくこともある。
夏の終わり。
二人はまだ、
同じ未来を見つめていた。
コメント
1件
ああ、第73話……「夏の終わりに」、読んだよ。 なんかもう、じわじわくる感じがすごかった。湊と紬、お互い頑張ってるのに、ちょっとずつすれ違ってるのがリアルで胸がギュッてなったわ。特に「寂しい」って打っては消すとこ、分かりすぎて泣くかと思った。写真のやりとりでちゃんと繋がってる感じは残ってるのが救いだな。次に会ったときにちゃんと話したいって締めくくり、すごく良かった。クラリスさんのこういう距離感の描き方、マジで刺さるわ。続きが楽しみ🔥