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「___み!……君!大丈夫か!!」
目を開けると、視界いっぱいに人の顔が映った。
……誰だろうか、この人は。
というか、ここはどこ?森?…わからない。自分の名前も、何もかも思い出せない。
「っ!目が覚めたんだね!良かった…奇跡だ!ああ、奇跡だ………っ!!」
…………きせき?…奇跡。
なんだろう、なんだか、とても大切な言葉だった気がする。なんだっけ……。
……ああそうか、僕の名前だ。
うん、きっとそうだ。だって、こんなに大切なんだから。
まわらない頭で納得する。 ああそれにしても、お腹空いたなあ。
……この人達、美味しそうだヨナア。
本能のまま牙を剥き出して、目の前の男に飛びかかろうとしたその時だった。
いきなり、後ろ襟を引っ張られた気がした。
ぐらりと傾いて尻もちをつくと、指先になにかが触れた。反射的にそちらを見ると、そこには指輪が落ちていた。それは、青い宝石のはまった、美しい指輪。
それが一瞬、強く輝いたように見えた。
眩さに思わず一つ瞬きをして、それからもう一度指輪を見た時。それは、何の変哲もないた指輪に戻っていた。
途端に興味を失い、ふいと視線を外してさっきの男を見た時、不思議なことに、僕はもうそれを美味しそうだとは思わなかった。
「……辛かったね、もう大丈夫だ。君の家には帰らなくて良いさ。一緒に行こう」
男が手をさしだす。その手をとると、ああ、『あの人』の方が温かかったな、とぼんやり思った。一体誰のことを思い出したのか。それはついぞわからなかった。
そうして、この街から悪魔の噂は無くなった。
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この街には、悪魔が棲んでいる。
その名も『奇跡』。
でも、その名を呼ばれて振り返る者はもういない。
悪魔は今日もこの街で、人間の名を名乗り、人間に紛れて生きている。