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✦ 森の奥で見える“先輩の記憶の断片”
きのこちゃんの後ろ姿を追いながら、私は森の奥へ進んでいった。
光が少しずつ薄くなり、代わりに静けさが濃くなる。
「もうすぐだよ」
きのこちゃんはそう言って、
言葉の前にほんの一瞬だけ眉を動かした。
先輩が、何か大事なことを言う前にする癖。
胸がまたざわつく。
やがて、木々が途切れた。
そこだけぽっかりと空が開けていて、
落ち葉ではなく、柔らかい苔が一面に広がっていた。
「ここ……?」
「うん。座ってみて」
きのこちゃんは、
少し後ろに重心をかける立ち方で私を待っていた。
その姿勢が、先輩が休憩中に立っているときと同じで、
私は胸の奥がきゅっとなる。
私は苔の上に座った。
すると、風がふっと吹いて、
目の前の空気がゆらいだ。
次の瞬間──
景色が変わった。
森の奥に、小さな光の粒が浮かんでいる。
それは、まるで“記憶の欠片”のように見えた。
「……これ、なに?」
きのこちゃんは答えない。
ただ、私の隣に座った。
光の粒がひとつ、ふわりと近づいてくる。
触れた瞬間、胸の奥に映像が流れ込んだ。
──先輩が、誰かの資料を直してあげている。
眉が少し動く。
優しい声。
あの、落ち着いた話し方。
光が消える。
次の粒が近づく。
──先輩が、廊下で誰かを待っている。
立ち方は、少し後ろに重心がいっていて、
片足に軽く体重を預けている。
その姿勢は、きのこちゃんと同じだった。
光がまた消える。
最後の粒が近づく。
──先輩が、誰かの話を聞いている。
考えるときに、ほんの一瞬だけ目を上に向ける。
その癖が、きのこちゃんとまったく同じだった。
光が消えた。
私は息を呑んだまま、動けなかった。
「……これ、全部……」
きのこちゃんは、私の方を見た。
そのとき、
眉がふわっと動いた。
まるで「気づいたね」と言うみたいに。
でも、何も言わない。
私は震える声で言った。
「……先輩、だよね」
きのこちゃんは、
否定も肯定もしなかった。
ただ、
考えるときの癖で、ほんの一瞬だけ目を上に向けた。
それだけで十分だった。
私は確信した。
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