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第3話「嬉しい」
――夜。
ベッドの上でスマホを握りしめたまま、俺はしばらく動けなかった。
知り合いからの一言――「あの約束」。
その瞬間、記憶の奥底に深く刻まれた言葉が鮮明に蘇ってきた。
「……“10年後、また会おう。絶対に”」
その言葉だけは、不思議と忘れていなかった。
記憶喪失になって、家族の顔も、過去の景色も消え去ったのに。
胸の奥に燃えるように残っていたのは、その約束だけだった。
俺はすぐにメッセージを打ち込んだ。
『……“10年後また会おう。絶対に!”のことか?』
既読がつき、すぐに返事が返ってきた。
『お前、それだけ覚えてんのかよw そうだよ』
「……だよな」
自分でも笑ってしまいそうになる。怖いくらいだ。
同級生も同じ気持ちらしく、
『それは俺がいちばん言いてえわwww』と返してきた。
少し救われた気がした。
『なぁ……お前、他の3人の連絡先、持ってないのか?』
俺は期待を込めて聞いた。
だが、返事は残酷だった。
『小学生の頃の仲間だぞ?持ってるわけねぇだろw』
「……だよな」
わかっていた。わかっていたけど。
肩の力が抜けるような、胸が締め付けられるような感覚。
だが、すぐに追い打ちをかけるように、同級生がにやりと笑う顔が浮かぶようなメッセージを送ってきた。
『でもさ、俺の知り合いの中に、1人だけ繋がってるやついるかもな』
「……ほんとか?」
心臓が跳ねる。
しぼんでいた胸に、また期待がふくらんでいく。
『今すぐ連絡しろ!』
俺は即答した。
『おけおけwww』
その後の10分間が、やけに長く感じられた。
スマホの画面を何度も確認し、呼吸が浅くなる。
「早く……早く返事来い……」
ようやく通知が鳴った。
『連絡繋がったぜぇーー! 多分お前覚えてねぇと思うけど、1人だけ連絡先持ってるやついた!』
「……っ!!」
血が逆流するみたいに体が熱くなる。
俺の手は震えていた。
『誰だ!?』
食い気味に送信する。
少し間をおいて、返ってきた名前は――
『“白川ゆいな”だ』
胸がドクンと高鳴る。
白川……ゆいな。
昨日、親や知り合いから聞いた名前のひとつ。
“俺の大切だった友達”。
俺はすぐに連絡先を受け取り、迷わずメッセージを送った。
『……俺のこと、覚えてる?』
心臓の鼓動がうるさくて、手汗でスマホが滑りそうになる。
数秒後、すぐに返信が返ってきた。
「何お前、喧嘩売ってんの??」
……え?
画面を見つめる俺の目は、完全に固まっていた。
嬉しさから一気に冷水を浴びせられたような衝撃。
何が起こったのか理解できず、ただ言葉を失った。
―――4話に続く。
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