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新婚さん2人を囲んで写真を撮る。
ガヤガヤと騒がしい中、ニシちゃんの耳元で小さく話す。
「結婚するって言ってなかったじゃん!」
「職場ではちょっと言えなくて。離婚しようとしてるマユちゃんがいたりするから…」
「そっか。じゃあ、バイト辞めるの?」
「辞めませんよ、面白いですから。バイトを続けることも結婚の条件です。あ、貴さんと同じ職場だったんですね?バイトのことは内緒にしときます」
ニカッと笑うニシちゃんは、あのニシちゃんだった。
次のグループが写真を撮りにきたから、そこで私は離れた。
なんだ、いい子でよかった、なんて親心のような心境だった。
私と貴君の関係も、私とニシちゃんの関係も、知っているのは私だけ。
大丈夫だ、これならきっと上手くやっていける。
私は貴君の幸せを願うし、ニシちゃんにも幸せになって欲しい。
2人並ぶ姿を見ていたら、ストンと気持ちが落ち着いた。
披露宴が終わって、二次会へ移動する。
参加するつもりはなかった二次会だったけど、ニシちゃんがお嫁さんだとわかったら、参加したくなった。
柔らかいピンク色のスーツのニシちゃんに確認してみる。
「ね、結婚してもニシちゃんて呼んでいい?」
「もちろん!戸籍上の名前が変わって、ニックネームも変わってしまったら、私という人間が消えてしまいそうだから、ぜひ、そのままで」
「わかった。じゃ、改めて、乾杯!おめでとう」
「ありがとうございます」
シャンパンが冷たくて美味しい。
そこへ新郎がやってきた。
「あれ?なんか2人とも親しげだよね?」
「え?あ、職場での貴君の失態とか、教えとこうと思って…」
「マジか、警戒しなきゃいけないのは田口さんだけじゃなかったか」
「なんだよ、俺がどうしたって?」
グラスとビール瓶を持った田口さんも加わった。
わいわいと話が盛り上がる。
その盛り上がりを避けて、ニシちゃんが小声で言った。
「未希さん、私に教えてくださいね、上手な離婚の仕方ってやつを」
ぶっ!とシャンパンを吹き出した。
「え?そんなこと今?」
「前から詳しく聞きたいなぁって思ってたんですよ、上手に離婚して今は幸せだ、みたいなこと言ってたから」
あ、確かに。
旦那が料理をするとか、家はシェアしてるとか、休憩時間にしゃべってた気がするけど。
「でもまたなんで?もう不満があるの?」
「いえいえ、保険です。いざそんなことになった時は、こうすればいいんだってわかっていれば、気が楽だなと。それだけなんで」
「まぁね、お嫁さんって束縛が多い、特に貴君みたいに、旧家の後継に嫁ぐとね。少しずつ教えてあげるね」
「何を教えるんだよ、未希ちゃん、あっちの方か?」
赤い顔して下ネタに走る田口さんは無視しておいた。
「そうだ、私、離婚したこと会社に話してないんだよね。事務手続きはしたけど、知ってるのは事務員さんだけ。あれこれ言われたくないし、名前変わるのめんどくさいから」
「あー、わかる気がする。夫婦別姓にしとけばよかった」
「そんな、離婚前提に話さない!!」
あははと笑い合う。
ニシちゃんと話しながら考えていた。
私が貴君に抱いた感情は何だったのか?
それが今は何故、こんなふうに落ち着いてしまったのか?
ぴこん🎶
《何時ごろ行けばいい?》
旦那からのLINEだった。
タクシーで帰るつもりだったけど、迎えに来てくれると言うので甘えることに。
〈後30分くらい、楽しんでもいい?〉
ぴこん🎶
《オッケー。タロウの餌を買いに出てるから、終わりそうになったら連絡して。あ、時間は気にしないでいいよ、たまには楽しんできて》
〈ありがとう。また連絡するね〉
スマホをしまって、もう少しお酒を飲むことにした。
そっか。
私、旦那に満たされない何かを貴君に求めてたんだ。
それが何だったのか?
セックスとか、ドキドキとか、優しいとことか、面白いこととか。
今はそのほとんどが、満たされている気がする。
離婚したことで、誰となにをしても自由だし、程よい距離でお互いに穏やかでいられる。
結婚もいいけど、離婚もいいよって、ニシちゃんに教えてあげなきゃ。
「あ、そうだ!ニシちゃん、バイクは乗る?」
「私、免許ないんですよ」
「免許とってさ、ツーリング行こ、気持ちいいよ」
「そうですね、考えてみます」
そこに貴君がやってきた。
「何の話?」
「ん?花嫁さんもバイクに乗ろうよって話。一緒にツーリング行ったら楽しそうじゃん?」
「あ?う、うん、そうだね、免許とってみる?ちょっと難しいかも?だけど」
なんだか歯切れの悪い返事。
「大丈夫!私ができたんだから。なんならサポートするからね」
「はい、よろしくお願いします」
貴君は、ニシちゃんがバイクに乗るのは反対なのかな?ふとそう思った。