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結婚式の後、ハワイへハネムーンに行ったらしい。
貴君とニシちゃんの両方から写真が送られてきた。
それから一週間後、既婚者となった貴君が、仕事に戻ってきた。
「どう?新婚さん!」
「なんだか、自分の家に家族以外の人間がいるのが不思議な感じ」
「は?何言ってるの?奥さんは家族でしょ?」
「あ、そっか」
「大丈夫なの?それで。若いお嫁さんだから大事にしてあげてよ」
「まぁ、そこそこ大事にするよ。あ、これお土産」
ほい、と投げてよこしたのは木彫りの人形のようなものだった。
「それね、なんかお守りなんだって、キーホルダーになってるでしょ?バイクのキーでも付けといて」
「ふーん、なんかちょっと不気味だけど、ありがとう」
「ちぇっ、やっぱそれ、うれしくない?嫁さんが、それ可愛くないからやめとけって言ってたんだけど、不気味か」
直立不動といった姿の木彫りの人形は、わざと焦がしてあるような感じだった。
「お守りというより、なんかのおまじないみたいだけど」
「そのうち可愛くなるから」
そう言いながら私の頭をポンポンとする。
「やめてくれっ!気安く触らないの!」
「なんで?」
「貴君はもう結婚したんです、だからそんなやたらに女に触らないの!」
「えーっ、冷たいなぁ」
「冷たくない、奥さんが見たら誤解するでしょ?」
「それはなんか大丈夫な気がするよ、未希ちゃんのこと気に入ってたみたいだし」
「私が気になるから」
お土産をポケットに入れて、工具箱を取り出した。
「さぁ、仕事しましよう、ハネムーンの間に仕事たまってるよ」
「はいはい、やりますよ」
ホテルのバイト先には、ニシちゃんも復活。
「お休みいただいて、ありがとうございました。これ、お土産です」
はい、と渡されたのは貝殻で作られたフォトフレームだった。
「なんか、思ったよりいいのがなくて。いっそのこと、ヤシの実とかのほうがよかったかな?」
「これよりはマシでしょ?」
私は貴君からもらったキーホルダーを見せた。
「うっわ、マジでそれをお土産にしてたんですね、やめとけって言ったのに」
「ちょい不気味だもんね。でも2人のお土産だから使わせてもらってるよ、ほら」
キーホルダーには車の鍵と家の鍵を付けていた。
「お守りでありますように」
「私もそう願うよ」
ふふっと2人で笑った。
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど」
お昼休み。
貴君の新婚生活の話で盛り上がる中、確認したいことがあった。
「なに?」
「奥さんもバイクの免許とったら、一緒にツーリング行けるからさ、教えてあげなよ」
「お?いいねぇ、奥さんにツーリングチームに入ってもらうと、一気に平均年齢が若返るし」
「田口さん、ごめんね、平均年齢上げてるのは私で」
あかんべをしながら答える。
「あ、いや、未希ちゃんはマドンナだよ、でもさ、アイドルもいたらいいかなって。貴、バイク教えてあげなよ」
「んー、本気でやりたがってたらいいけど」
「あまり乗り気じゃないの?貴君が」
タバコに火をつけながら言葉を選んでいるようだ。
「バイクは俺の趣味だからなぁ、それは別でもいいかなって思ってるんだけど」
「なるほどね、奥さん抜きの趣味があってもいいか。わかる気がするな」
田口さんが同意している。
「そう言われれば、そうかもしれないけど。一緒の趣味もいいかなと思ってね。奥さん、やりたそうだったし」
「確認してみるよ。やりたがったら仲間に入れてやって」
そこで休憩が終わった。
仕事に戻る途中、LINEが届いた。
ぴこん🎶
《バイクは未希さんとがいいから》
貴君からだった。
〈私は、みんなで行くのが楽しいから〉
そう返した。
私は貴君の特別にはなりたくない。
せっかく落ち着いた気持ちをざわざわさせたくなかった。
もしかすると、貴君は結婚しても満たされない何かを私で満たそうとしてるのかもしれないな、離婚する前の私のように。
まだ結婚したばかりなのに、それは早すぎると思う。
一度、きちんと話しておこう。
「帰りに、あのカフェに寄れる?ちょっと話があるから」
LINEではなく、仕事をしながら話しかけた。
隠すことでもないのだからと。