ルイスとの外泊の許しをクラッセル子爵から貰った私は、すぐにルイスに手紙を出した。
すぐにルイスに届けたかったので、義父から外泊の了承を得たこと、待ち合わせる場所など、文面は必要最低限にとどめた。
書いた手紙はすぐに封をし、メイドに明日の朝に届けるよう頼んだ。
「ふう……」
やり遂げた私は、深く息を吐いた。
身体の力を抜いたさい、ふらっと眠気を感じたのでベッドに横になる。
ふと、クラッセル子爵に押し倒されたことを思いだし、頬が熱くなる。
(もし、あれがルイスだったら――)
私はそんなこと起こるわけがないと首を激しく横に振った。
日々のルイスとのやり取りを思い出すに、恋愛小説にあるような展開が起こることはまずない。
何かあれば、私がイラッとするようなことを口にするし。
そんなルイスが、私を押し倒すなんてあるわけがない。
「あれは、お義父さまが心配しているだけよ」
自分に言い聞かせるように独り言を呟いた。
☆
私の中にあるルイスに対してももやもやは消えることなく、当日を迎えた。
お金と一日分の着替え、時間潰しのための本を詰めたトランクを持ち、街の噴水広場前でルイスを待っていた。
(服装……、これでよかったのかしら)
自分の身に着けている服をみる。
墓参りということもあり、黒いワンピースを着てゆこうと思ったのだが、マリアンヌに反対され、明るい服が多い、彼女の洋服を借りてきてしまった。
半袖の桃色のワンピース。
胸元にフリルやレースがあしらわれ、背には大きなリボンがついている。
どう見ても、コンクールで着るような服装だ。
髪型も、いつもはお下げにしているが、メイドの手によって綺麗に結わえられている。
装飾品もとマリアンヌは薦めてきたが、私はきっぱりと断った。
(目的が墓参りだし、この格好をルイスが見たら、浮かれてるとか皮肉を言われるんじゃないかしら)
私とルイスは互いに突っ込む点があれば、互いに言い合う。
同行していたマリアンヌに「いい加減にしなさい」と注意されたほどだ。
今回は指摘してくれる同行者もいない。
(ルイスに何を言われようとも、私が冷静にならなきゃ……)
ルイスのペースに乗っかってはいけない。
何か言われても、くっと堪え、反射的にではなく考えて発言しようと私は心に留めた。
「待たせたな」
「いいえ、私が少し早かっただけ」
約束の時間ちょうどにルイスは現れた。
ルイスは白いシャツ、黒いパンツに黒い上着と目的に合った服装をしていた。
私と同じくらいのトランクを持っており、一泊分の荷物を持っていた。
(私――)
家族ではない人と外泊するのは初めてだ。
でも、相手は一年間共同生活を送った人。
一緒の寝室で眠っていたこともある。
けれど、それは五年前。
私もルイスも身体的にも精神的にも成長した。
「――おい、聞いているか?」
ルイスの声が突然聞こえて、私ははっとする。
いつの間にか、自分の世界に入り込んでいたようだ。
「ごめんなさい。ぼーっとしていたわ」
「わかった。もう一回話すわ」
私は正直に話を聞いていなかったことをルイスに告げる。
ルイスは私の態度にため息をつき、私が聞き逃した話をもう一度話してくれた。
「馬車は用意してある。だから、ここで花と弁当を買いに行こうぜ、ってさっき言った」
「お花とお弁当ね」
「花のほうはいつも買っている店があるからそこにするとして、弁当は何か希望あるか?」
「家族でひいきにしている場所があるわ。そこに頼みましょう」
「……そこ、高くないよな?」
ぼそっとルイスが私に聞く。
私が言った店は、個人で利用したことはなく、いつもクラッセル子爵が支払っていた。
意識したことが無かったため、弁当の代金がどれくらいか記憶にない。
「どうかしら。でも、お金は持ってきたから、お弁当代は私が――」
「い、いや!! 高くても俺が払う!!」
記憶になくとも、二人分の弁当を購入できるくらいのお小遣いは持ってきた。
私が選んだお店だから、自分がルイスの分も支払うと告げると、彼は「自分が払う」と言い出した。
私はルイスの言動に眉を顰める。
「さっきは値段のこと、気にしてたのに……」
「つい、いつもの癖でな。今日は違うんだった」
「なにそれ、変なルイス」
会話が途切れると、ルイスは私の腕を掴む。
「こっちの話だから。気にするな」
ルイスはニッと笑った。
昔はそんな笑顔を私に向けることなかったのに。
相手はあのルイスなのに、胸がドキドキと高鳴っている。
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