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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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私とルイスは買い物をするために商店街へ入った。

孤児院の皆を弔う花を購入するためだ。

掴まれていた腕は離してもらい、私はルイスの隣を歩く。

ルイスは私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれた。


「ルイスは毎年、墓参りに行ってたのよね」

「ああ」

「……一人で行ってたの?」

「そうだ」


墓参りは事件の翌年から行っていたらしい。

花屋に着く間、ルイスがその話をしてくれた。

子供の世話役として働いていたルイスは一週間の休暇を貰い、賃金を貯め、トキゴウ村へ帰省していたらしい。


「初めてトキゴウ村へ帰ったらさ、村のおっちゃんやおばちゃん……、泣いて喜んでた」

「それはそうよ。村の人たち、ルイスを自分の子供のように可愛がっていたもの」


ルイスは私たちとは違って、赤子の頃からあの孤児院にいる。

あそこの人たちも四六時中ルイスの世話をしているわけにもいかないし、子供たちに任せるわけにもいかない。

そこで、村長はルイスを赤子のいる家庭に交代で育てさせることにした。

そういった経緯もあり、ルイスのことは村人全員が知っている。


(当時、ルイスのこと羨ましかったなあ……)


私は当時のことを思いだす。

孤児院の中では私に生意気なことをいってたけど、外に出るとルイスは黙々と村人の手伝いをしていた。そして、彼らはルイスのことを我が子のように可愛がっていた。

その様子を別の作業をしながら眺めていたのを覚えている。

ルイスはひとりぼっちになった私とは違う。ずるい。などと、当時は彼に嫉妬していた。


(ルイスだけでも生きていることを知ったら、そうなるでしょうね)


死んだと思われたルイスが、一年後、村へ帰ってきたのだ。

村人たちはルイスの無事をとても喜んだだろう。


「今年はロザリーも一緒だからな。大喜びすると思うぜ」

「……そうかしら」


私がトキゴウ村へ帰ったところで、村人の人たちが喜ぶとは思えない。

あそこには一年しかいなかった。

年長だったこともあって、ルイスと一緒に手伝いをしたけれど、村人たちとの関りはそれだけだ。

赤子の時から知っているルイスと違って、私のことなど記憶に残っていないだろう。


会話が途切れたところで、ちょうど、花屋の前に着いた。

私は別の花屋を利用するから、ここへ来るのは初めてだ。

私が利用している場所より品数は少ないものの、主要な花は置かれているし、色も様々だ。

贈り物や祝い事、そして墓参りに添えるなど、目的は果たせるだろう。

価格も安価で、庶民が利用しやすい。

私たちの前に数組の客が品定めしているところから、そこそこ繁盛しているのだろう。


「――買ってきた」


ルイスは店内に入ると、陳列されている花々に目もくれず、店員に声をかけた。

店員はすぐに花束をルイスに渡し、彼は代金を支払っている。

きっと前日に予約していたものなのだろう。


「次は弁当買うか。お前が買いたい店、どこにあるんだ?」

「反対の方よ。来た道を戻るわ」


よく利用している場所は私たちがいる商店街から反対の位置にある。


「少し歩くと思う」

「全然構わないぜ、案内よろしくな」

「えっ?」

「な、なんだよ……」


普段なら、ここで私を怒らせるようなことを言うのに。

今日のルイスは突っかかってこない。よく笑っている気がする。


「ごめんなさい。なんでもないの」


いつものルイスではない。その違和感をつい口に出てしまった。

どうして今日のルイスは私に優しいのか、弁当を買って、馬車に乗るまでの間に考えても答えは出なかった。



馬車は四人用だが、乗客は私とルイスしかいない。

クラッセル領からトキゴウ村へは定期便はなく、個人で借りるしかない。

それに移動距離も半日あることから、道の途中にある休憩所で何度か馬の足を休ませなければいけない。

これほどの条件であると、御者に高額な賃金を支払うことになるだろう。

子爵貴族である私であれば、父にお願いするだけで用意してくれる。

しかし、平民であるルイスがこれほどの馬車を用意するのは苦労したのではないだろうか。


「あの……、ルイス」


一つ目の休憩所に馬車が止まったさい、私はルイスに声をかけた。

その間、私は屋敷から持ってきた本をずっと読んでいた。

ルイスに話しかけてほしくなかったから。


「なんだ?」

「馬車のお金……、高価だったでしょ? それ、私に払わせてほしいの」

「突然、何を言いだすかと思いきや……」


私はクラッセル子爵から与えられたお小遣いを持っている。

それなのに、ルイスは私に頼ることなく、自分で苦労して貯めたお金を私のために使っている。


「私のお金は、ルイスみたいに苦労して貯めたものじゃない。お義父様が与えてくれたもの。気にすることはないわ」

「お前、本読みながらそんなこと悩んでいたのか?」


私も子爵家の令嬢として、口調、マナー、ピアノとヴァイオリンの演奏など努力してきた。

特にピアノとヴァイオリン、同時に演奏技術を習得するため、マリアンヌより倍の時間、演奏をした。

ヴァイオリンは弦を押さえる指は何度もむけ、とても痛かった。

ピアノは両手が違う動きをすること、右手と左手で楽譜の読み方が違うことを理解するのに苦戦した。

でも、それはルイスより辛くはない。

私は「やめたい」と言えば、いつだって練習を辞めることができた。

けれど、ルイスはそれが”仕事”であり、「やめたい」と告げたら、一瞬にして住む場所を失う。


「たんまり貯金してるから気にするな。使う時だって、トキゴウ村に帰省するときぐらいだしな」

「でも――」


私の頭にルイスの大きな手がポンと置かれた。

今のルイスの発言は本当なのだろうか。私を心配させないための強がりではないだろうか。

私はルイスの顔を見つめる。今も彼は笑っていた。


「俺はロザリーが一緒に来てくれただけでいいんだ。難しく考えるの、やめろ」

「……うん」


私はルイスの言葉に小さく頷いた。

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