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ペトラの家に着いた頃には、すっかり日も落ち、街は月明かりに包まれていた。
二人は扉を開け、声を重ねる。
「「ただいま」」
ぱたぱたと軽い足音が響き、
ペトラの母が顔を出す。
「二人ともおかえり。疲れたでしょう? ご飯できてるから、荷物を置いたらすぐ食べなさいね」
奥から漂うのは、香ばしい焼きたてのパンの匂いと、 トマトの甘酸っぱいスープの香り。
それだけで、胸がほどけるようだった。
⸻
四人で食卓を囲む。
「「いただきます」」
温かな灯りの下、笑顔が交わる。
「ん〜! やっぱりお母さんの料理は絶品!」
「うん……おばさんの料理は、いつ食べても美味しい。 それに、すごく温かい」
レイは、少しだけ柔らかい声でそう言った。
その後も、
2人は久々の家庭料理に目を輝かせながら、
次々に料理を平らげた。
「よほど腹が減ってたんだなぁ」
「そんなに美味しそうに食べてもらえたら、作りがいがあるわ」
2人の様子を見て、
両親は目を細めて笑う。
⸻
やがて、ペトラの父がふと尋ねた。
「ところで2人とも、調査兵団に入ってからどうなんだ?」
一瞬、空気が変わった。
「……毎日、大変だよ」
ペトラの表情が引き締まる。
「厳しい訓練に壁外調査。 報告書に後始末。
何より、巨人と戦う以上、常に死と隣り合わせで、心的疲労もかなりある。」
穏やかな娘の顔から、
戦場を知る兵士の目に変わる。
「壁外に出るたびに、仲間が一人、また一人と亡くなる」
「立場が違えば、今ここにいないのは自分だったかもしれない」
静かに続ける。
「……死ぬのは、怖い」
食卓に、重い沈黙が落ちる。
けれど、ペトラは顔を上げて言った。
「でも、調査が進むたびに、自分が人類の役に立ててるって実感できるのも事実。」
「それが、何より嬉しい。 調査兵団に入って良かったって、心から思える」
誇りを宿したその横顔に、父は目を潤ませた。
「立派になったな、ペトラ……」
「本当に、大きくなって」
温かな空気が、再び戻る。
⸻
「それと! レイってば凄いんだよ!」
「……えっ」
突然話を振られ、レイは目を瞬かせる。
「新兵なのにリヴァイ班に抜擢されて、 任務じゃ兵長と常にセット。雑務も一緒にこなしてるんだから!」
ペトラは自分の事のように、
レイの凄さを嬉々として語る。
「なに!? あのリヴァイ兵長の班か!」
「すごいじゃない、レイ!」
両親は心から喜んだ。
レイは少し身を縮める。
「……私は、ただ兵長の目にたまたま留まっただけで」
「違うよ!」
ペトラが言い切る。
「兵長が直々に指名したんだよ?
それは、レイの実力が本物だから」
「たったの数ヶ月で、巨人討伐数は10体以上。 討伐補佐も5体。 同期が全員集まっても、同じ数捌けるか怪しいくらい」
しかし、レイは静かに首を振る。
「……でもまだ、兵長には及ばない」
その瞳が、熱を帯びる。
「私は――あの人の隣で、堂々と立っていられる兵士になりたい」
揺るがぬ決意が、そこにはあった。
「……相変わらずだね、レイは」
ペトラは微笑む。
「現状で満足しない、その姿勢……俺は感動した……」
酔っている父が泣き出し、
その様子に母が呆れながら水を差し出す。
「レイは本当に真面目なのね。
こんな立派な娘が2人もいるなんて、お母さん達は誇らしいわ」
その言葉に
ペトラとレイは顔を見合わせ、
静かに笑った。
⸻
「あら、ペトラったら寝ちゃったの?」
さらに夜が更けた頃。
いつの間にかペトラは眠ってしまっていた。
「この子は夜に弱いからなぁ」
レイは、寝息を立てる彼女を見つめる。
「訓練兵の時も、野営の見張りで瞼が閉じかけてた」
遠い過去を思い出すかのように、レイが呟く。
その表情は、柔らかかった。
「はは、ペトラはずっとレイに助けられてるな」
父は豪快に笑い、レイの背中を叩く
「……おじさん、酔すぎ」
「……あと、逆だよ」
レイは静かに話し始める。
地下街から出て直ぐに訓練兵になり、
人との関わり方もろくに知らないまま
周りと距離が出来ていたこと。
孤立しかけていた自分に、
最初に手を差し伸べたのがペトラだったこと。
そのお陰で周りの人達とも打ち解けられ、
“仲間”が出来たこと。
家族という居場所をくれたこと。
その全てを語った。
「私は、ペトラに何かあったら必ず助けに行く」
眠る手を、そっと握る。
「もちろん、おじさんとおばさんに何かあった時も、必ず駆けつけるから。」
両親は顔を見合わせる。
「……レイ。俺たちにとっては、お前も大切な娘なんだ」
「だから、また“2人で”帰ってきてくれ」
「それが、俺たちの何よりの願いだ。」
レイは、ほんの少し目を伏せ――
それから、微笑んだ。
「ありがとう。お父さん、お母さん」
2人は驚き、そして嬉しそうに笑った。