彼の面影をいつまでも探している。あの夏の話。ずっと仲良しだと思ってたのに、いきなりいなくなった。彼、景くんとは高校にはいってからの関係だった。僕が、孤立してることを知っていて話しかけてくれた。その後、晴ぬんも引き連れて三人でよく一緒にいた。そんな長尾が突然姿を消した。
「 ねぇ 、藤士郎 。まだ、景のこと探してる? 」
景くんがいなくなって一週間たった頃晴くんに言われたこと 。本気で探していた、甲斐田も。でももう諦めろって大人たちに言われて諦めるしかなくて、一週間も立ったらもうしんじゃってるって、言われたって。
「 探しちゃいけない理由もないのに 、探さないなんて無理でしょ。晴くんはさ 、景くんがいなくなってもいいって思ってるの? 」
「 思ってないけど 、僕も諦めたくはないけど 、これ以上はやっぱり警察に任せた方がいいだろ。藤士郎だって最近森にはいったりしてるし 、傷だらけじゃんか。 」
確かに 、あまり森とか近付かないようにしてた僕ががむしゃらになって森にはいって景くんを探してること、心配するよね。ただでさえ、親友を1人失って、残ったもう1人の親友がいなくなっちゃうかもって不安になるよね。自分のこと綺麗に保とうとしてた僕が、病弱な僕が森に入ったり、真夏の真っ昼間に探し回って、歩いてること知ってるから余計心配してくれてるんだろうな。
「 晴くん、知ってるでしょ。僕が景くんのことどれだけ大事にしてたか。晴くんだって同じくらい大事だよ、だからこそだよ。また3人で並びたいの。大丈夫、無理だってわかったら諦めるから 。 」
「 …でも 、藤士郎までいなくなったら 、僕 ….. 」
「 泣かないでよぉ … 、 大丈夫 。僕はいなくならないから! 」
今、ここで笑顔をみせたって晴くんは安心していってらっしゃいなんて言ってくれないんだよね、知ってるよ。どれだけ晴くんが僕らを大事にしてるのか身に染みてるから。そんな晴くんを悲しませないためにもはやく景くんを見つけ出さなきゃ。
2ヶ月たっても 、見つからなかった。晴くんは学校を休み始めた。11月になったときにはもう完全に不登校になっていた。僕は、沢山の子に心配されて 、探してる最中にできた怪我を可哀想な目で見られた。そんな視線を向けられるたびに景くんのこと忘れたのかよと心底思った。なんでいなくなったのか 、探してくれる人もいなくなって、最後にはお葬式までした。まだ生きてるかもしれないのに。許せなくなった、お葬式には行かなかった。
景くんのお葬式の1ヶ月後 、晴くんがしんだ。飛び降りたらしい。遺書には「ごめん、藤士郎」と書いてあったと聞いた。残された僕に謝っているのか先に景のところに行くよごめんねなのか、全くわからなかった。景くんは生きてるよ、絶対。晴くんのぶんまで、景くんのこと探すから。大丈夫。晴くんのお葬式にも行きたいとは思えなかった。寒い冬なのになんだ変な汗が流れてきて、お葬式には行ったものの 、棺桶をみただけで吐いてしまった。外で待ってなさいと親に言われて外で待ってた。沢山泣いた。涙が凍って頬に張り付いてしまいそうなくらい沢山泣いた。
残された僕だけが3年生になった。受験だのなんだの騒いでる皆。僕だけは大学に行かないと宣言していたためなんともなかった。大学に行かない理由は、卒業の前にもうこの世にはいないからだ。ひそかに思っていた、景くんがいなくなったとき 、この町の人は景くんの両親に心配の声もかけず、大変な世の中みたいな顔をしていた。同級生も景くんがいなくなったことをなにも言っていなかった。そんな町がだんだん嫌いになっていた。だから、考えた。爆弾でこんな町、爆破してやろう。一緒に粉々になって晴くんのところに行こう。この町のどこかに景くんがいるなら多分景くんも一緒に逝ける。
6月になった時にはもう爆弾はできていた。でも爆破するなら景くんがいなくなった日がいいと思った。7月の23日 、ちょうど景くんの誕生日の前日だった。僕の青春が終わったあの日、その日に爆破してやろう。計画を練っていたらすぐに日は過ぎていった。7月22日、午後11時29分、僕は家をこっそりと出た。爆弾を片手にゆっくりゆっくり歩いていった。裏山から爆破したらこの町を巻き込めることを計算して裏山に向かった。初めて景くんと晴くんと三人で出掛けたのも裏山だったなぁ。夏祭りだっけ、確かそうだな。楽しかったんだ、あの日は。景くんが射的で人形をとってくれて 、晴くんは変なお面つけて寒いギャグ言って。皆でかき氷も食べたなぁ。いちごのかき氷、景くんが食べて、口の回りについたのみせて、「藤士郎の口紅と同じ色!」とか言ってたっけなぁ。晴くんはわたあめで口ベタベタにしてたなぁ。楽しかったなぁ 。それが三人での最後の楽しかった思い出。それからはもうずっと苦しかった。笑えなかった。泣けもしなかった。なにも楽しくなかった。景くんがいなくなってから全てが崩れ始めた。晴くんがしんじゃってから、どうでもよくなった。ここまで景くんたちに執着してる自分がおかしいことはきっとどこかでわかってたのに、やめられなかったんだと思う。なんでだろ。
「 、やっと 、着いた。 」
7月23日午前0時14分。夜風は涼しいような気持ち悪いような風で嫌になった。晴くん、飛び降りたときどんな気持ちで飛び降りたんだろう。謝りながら飛び降りたのかな。でもね、知ってるんだ。晴くんが景くんと一緒にいた理由。いじめられてたんでしょ、晴くん。それを景くんが庇ってたんでしょ。だから景くんいなくなっちゃったんじゃないかな。晴くんのこといじめてた子が景くんが邪魔で消したかったから消しちゃったんじゃないかって、思ったんだ。晴くんの遺書、みた時大人が気付いてないもう一枚を僕はみた。「 藤士郎へ。気付いてくれたら、お願いがある。僕をいじめてた奴ら、多分景のことを殺した奴ら。そいつらに復讐なんて絶対しないでほしい。あいつらのトップはこの町の偉い人の子供だ。復讐したら藤士郎がなにされるかわからない。お願い。僕のことは忘れてほしい。景のことは、諦めて。これ以上、自分を追い込まないでほしいんだ。 」その後は晴くんの涙が滲んでて読めなかった。晴くん、辛かっただろうな。どんな気持ちで僕に諦めないのなんて聞いてきたんだよ。ほんとは一番見つけたかったくせに。
「 晴くん 、大丈夫 。 僕はなにもされないよ 。だってこの町ごと全部いなくなっちゃうから。晴くんは優しすぎるんだ。僕に言ったら僕がその人たちになにかしちゃうからって死ぬときまで黙ってたんでしょ。ずるいよね 、ほんと。景くんも景くんだよ 。酷いよ。黙って消えちゃうなんて。 」
「 ほんと、長尾サイテー! 」
久しぶりに聞いた声に驚いた。あの声、今でも忘れられない。僕と晴くんの唯一の光だった。晴くんのいじめが自分に来てもいいと思って晴くんを庇った優しい、嫌、優しすぎる彼。景くんの声だ。幽霊なのかもしれない、丑三つ時みたいなやつかもしれないと思っても期待は隠せなかった。振り向いた、そこには体のどこも透けていない生身の、制服のままの彼がいた。ほら、生きてるじゃないか。僕だけだ。彼が生きてるとこの1年間信じ続けて探していたのは。彼は昔と変わらないような顔をしていた。涙が溢れてきた。晴くんのお葬式いらいだろうかちゃんと泣いたのは。いや、晴くんのお葬式もちゃんと泣けてないな。今、大声を出して子供みたいに泣いてる僕。その目の前にいる景くんが優しく微笑んでいる。
「 藤士郎、まだ時間あるし 、話さね? 」
「 うん 、うん … 、話したい 、 」
「 … 、藤士郎さ 、ずっと俺のこと探しててくれた?ごめんな 、上手く逃げきんなきゃダメだったからさ 、1年も遠くにいたんだわ。晴も黙って消えてった感じー?酷いなぁ、晴も。で、藤士郎も今俺に黙って消えようとしてたわけ?ひでぇな、 」
「 景くんもでしょ 、酷いよ 。 景くんも黙って消えたくせに 。酷いよ全部。晴くんの自殺も 、景くんも 。この町を爆破したくてたまらないんだよ僕は。このままじゃ生きられないから 、 」
「 うん、そうだな。俺も。いきらんねぇよ 、こんな町。ごめんな、先に逃げちゃって。藤士郎の青春も晴の人生もぶっ壊して消えて、ごめん。藤士郎なんて 、1人残されてさ。俺って最低だよな 、 」
久しぶりに会話した彼は昔と変わらず子供みたいで昔よりも大人になっていた。僕だけが去年の夏に囚われているとずっと考えてた。けど、彼もそうらしい。景くんは全て自分のせいにしてる。だからこそ僕がここでなにかをいってあげないといけないのに。
「 辛かったよな 、藤士郎 。ごめん、ほんと。爆弾まで作らせて 」
「 いい。辛くてもいい 、苦しさも 、全部僕のものだし。それに 、僕は昔の自分とこの町の全員を消したいだけ。景くんはさ、ずるいんだよ。優しさってやつちらつかせてさ 、ずるいんだよ全部 。青春の全部には景くんがいるんだよ 、だからこそ後悔してた。もっと笑えばよかったなぁとかもっと話したり、遊んだりすればよかったなって。戻りたいってずっと、この一年間考えてた。考えない日なんてなかったし、毎回夢に景くんが出てくるくらいには呪われてたんだと思う。夜がずっと苦しかったんだ。だからこんな夜 、爆破してやりたい。景くんと晴くんのことだけ覚えてればそれでいいんだ 、ねえ、景くん。爆破しちゃおうよ 。 」
驚いた顔をする景くんを見て、また涙が溢れてきた。晴くん、多分晴くんは辛さとか苦しさに耐えれなくなったんじゃなくてその辛さとかを僕に気付かれたくなかったんだよね。知ってた。知ってて無視してたんだ、晴くんと一緒にいたくて無視してた。ごめんね、晴くん。景くんもそう。僕がちょっとした嫌がらせうけててそれ知って僕に話しかけてくれたから、景くん嫌がらせうけてたんでしょ。知ってたのにさ、僕だめなんだやっぱり。弱いんだ。弱いからこそ、今この町を爆破してやりたい。僕は景くんの辛さをうんだ、晴くんを殺したこの町を許せない。爆破しないと気が済まない。景くんをこんなことに巻き込むのは気が進まないけど 、景くんは絶対僕が1人でやるのを許してくれないから。どうせ、消えちゃうんだったらもう、いいんだ。
「 … 藤士郎 、強くなったよなぁ 。 」
「 なに、そのおじさんみたいな言い方。 」
顔が緩む。心のそこから笑ったのは1年ぶり。人とこんなに話したのも一年ぶり。何もかもがあの日から失われてた。景くんのことどこかで恨んでたのかもしれないし、景くんに呪われてたのかもしれないし、逆に晴くんのことを呪ってたのかもしれない。僕ら三人は呪いあってたのかもしれないし 、恨みあってたのかもしれない。それが僕ら三人の友情のかたちになってしまった。それをこの町は許してくれなかった。だから三人の絆を引き裂き、晴くんと僕を一緒にして景くんを追い出した。そして、晴くんを殺して僕を1人にした。そしたら綺麗に三分割。多分、喜んだ人もいるんだろうな。元々、景くんも僕も晴くんも好かれてるような感じじゃなかったし、その分僕らもこの町も学校の皆も大人も嫌いだったんだろうな。こんな関係も今日で終わりになるんだ。嬉しい。
「 んは 、じゃ 。もう朝だし 、やっちまうか 。 」
「 その前にさ 、景くん。お願いがあるんだけど 、 」
「 ん?なんだよ 、 」
「 僕のこと 、それから晴くんのこと忘れないでね。 」
「 …っは 、当たり前だろ。 」
にか、と笑う景くん。愛おしい。こんな感情は初めてだった。ぎゅ、と抱き合った。なんだか晴くんにも抱き締められてるような感覚になり嬉しくなった。嗚呼、晴くん。まっててね、そっちにいったら景くんにお説教してやろ。それで晴くんにもお説教かなぁ、僕のこと置いてった罪があるからなぁ。僕も怒られたいな、二人に。泣きながら景くんと話したことも全部晴くんに話すね 、僕がどれだけ晴くんのこと大好きだったかも、仕方ないから話してあげるよ。それから、そうだなぁ。晴くんのお葬式の話もしてあげようかな 、景くんのお葬式があった話もしちゃお。それから2人に抱き締めてもらって 、それでその後に、また夏祭りいこうね。今度は三人お揃いの浴衣着たいな。かき氷も食べたいし 、わたあめも。また射的で人形とってほしいし 、もういろんなことしたい。まぁ取り敢えずそっちにいってから考えるね 。じゃあ 、
「 吹き飛んじまえ 」
___ 23日午前1時頃 、裏山で山火事が発生。男子高校生二人の遺体を発見。片方の男子高校生の手には爆弾の破片と思われるものが握られており、自殺と判断。火事は町の方にも広がり、数100人が火傷をおうなどの負傷。死亡した人はいないとのこと 。警察は詳しいことを調べています 。
「 あーあ 、やっぱり景くんと抱き合ってたのがダメだったのかなぁ。 」
「 かもな 、でもほら晴のこといじめてたヤツ、大火傷だってさ。 」
「 僕をいじめるからだ!ばーかばーか! 」
「 めっちゃ調子乗るじゃん 、まだお説教終わってないよ?晴くん 、 」
「 … はい。 」
「 じゃ、俺は散歩でも … 」
「 景くんも終わってないでしょ、? 」
「 … はい。 」
追記 ¦だいぶ遅くなりましたが新作です!愛及屋烏はもうちょっと待ってください!!!そして5600文字も読んでくれてありがとうございます!あとフォロワー様40人も感謝です!ヨルシカ様の爆弾魔をもとにしておりマンモス!いい曲なので是非!ここも読んでくれてたらマジ神ですね。これからも名無しのわたしをよろしくお願いします!
コメント
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素敵…!いじめを庇う長尾も解釈一致だし、何より最後の終わり方が😊