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めう💭🎀
59
温室での出来事から数日後。
マナは少し困っていた。
「……なんか最近変なんだよな」
書斎の机に突っ伏しながら呟く。
原因は分かっている。
ライだ。
いや、正確には自分自身だった。
以前からライと一緒にいるのは好きだった。
でも最近は少し違う。
ライが笑うと嬉しい。
ライが他の人と話していると気になる。
二人きりになると妙に緊張する。
そして。
頭を撫でられたことを思い出してしまう。
「うわあああ……」
机に顔を埋めた。
あの日以来、思い出すたびに変な気持ちになる。
「何を唸っているんですか」
「うわっ!?」
突然後ろから声がして飛び上がる。
振り返るとライが立っていた。
「ライ!?」
「はい」
「ノックして!」
「しました」
「聞いてない!」
「返事もありませんでした」
図星だった。
マナは視線を逸らす。
ライは少し不思議そうな顔をしていた。
「最近様子がおかしくありませんか」
「おかしくない」
「おかしいです」
「おかしくない」
「おかしいです」
「……」
完全に子供扱いされている。
悔しい。
けれど反論できない。
「ところで」
ライが話を変えた。
「今日は街へ行かれる予定でしたね」
「あー、そうだった」
近くの街で慈善事業の視察がある。
当主として顔を出さなければならない。
面倒だが仕事だ。
「準備はできています」
「優秀だねぇ」
「誰かさんと違って」
「失礼」
ライが少し笑う。
それだけで心臓が跳ねる。
本当に困る。
⸻
昼過ぎ。
二人は馬車で街へ向かった。
街はいつも通り賑わっていた。
市場には人が溢れ、商人たちの声が飛び交う。
「人多いなぁ」
「離れないでください」
「子供じゃないんだけど」
「知っています」
そう言いながらライは自然にマナの少し前を歩く。
周囲を警戒しているのだ。
護衛として。
その姿を見ると、マナは少しだけ誇らしくなる。
ライは強い。
剣術も護衛技術も一流。
屋敷の誰もが信頼している。
もちろんマナも。
「ライー」
「何ですか」
「お腹空いた」
「仕事が終わってからです」
「けち」
「護衛です」
「便利な言葉だなぁ」
そんなやり取りをしながら歩いていた、その時だった。
人混みの向こうで何かが騒がしい。
「ん?」
マナが振り返る。
次の瞬間。
馬が暴れた。
「危ない!!」
誰かの叫び声。
荷車を引いていた馬が驚き、人混みに突っ込んできたのだ。
周囲は大混乱になる。
悲鳴。
逃げ惑う人々。
そして。
マナは反応が遅れた。
気付いた時には馬がすぐ目の前まで来ていた。
「っ!」
体が動かない。
まずい。
そう思った瞬間。
強い力で腕を引かれた。
「マナ!!」
聞き慣れた声。
次の瞬間にはライの腕の中だった。
ドンッ!!
大きな音が響く。
荷車がすぐ横を通り過ぎていく。
あと少し遅ければ巻き込まれていた。
「……っ」
マナは息を呑んだ。
ライの腕が肩を抱いている。
かなり強く。
離さないように。
守るように。
「ライ……」
返事がない。
顔を上げる。
すると。
ライが今まで見たことがない顔をしていた。
青ざめていた。
怒っているようにも見える。
怖がっているようにも見える。
「……何してんだよ」
低い声だった。
完全なタメ語。
周囲のことなんて忘れているような。
そんな声。
「え……」
「危なかっただろ」
掴む力が少し強くなる。
「俺がいなかったらどうするつもりだった」
マナは何も言えなかった。
ライがこんな顔をするのは初めてだった。
怒っている。
でも違う。
それ以上に。
心配している。
本気で。
「ごめん」
小さく謝る。
するとライは目を閉じた。
そして大きく息を吐く。
「……怪我は」
「ない」
「本当に?」
「うん」
ライは数秒黙った。
それからようやく腕を離す。
けれど表情はまだ固いままだった。
⸻
帰りの馬車。
いつもより静かだった。
マナはちらりと向かいを見る。
ライは窓の外を見ている。
まだ怒っているらしい。
「ライ」
返事がない。
「ライ」
「何ですか」
冷たい。
完全に怒っている。
マナは少ししょんぼりした。
「ごめん」
ライの視線が動く。
「……」
「心配かけた」
静かになる。
やがてライは大きくため息をついた。
「分かっているならいいです」
「まだ怒ってる?」
「少し」
「少しだけ?」
「かなり」
「うわ」
ライは珍しく眉をひそめた。
そして。
「怖かったんだよ」
ぽつりと呟く。
マナは目を見開いた。
ライが視線を逸らす。
「……お前が怪我したら」
二人きりだからか。
感情が漏れていた。
執事ではなく。
一人の人間として。
「本当に嫌なんだ」
その言葉に。
マナの胸が大きく鳴った。
嬉しい。
そう思ってしまった。
自分でも驚くほど。
「……ライ」
「何」
「ありがとう」
ライは少しだけ笑った。
いつもの優しい顔だった。
「次からは気を付けて」
「うん」
「約束な」
「約束」
その瞬間。
自然と二人とも笑った。
そしてマナは思う。
もしあの時ライがいなかったら。
そんなことは考えたくない。
だって。
自分はきっと。
思っている以上にライのことが好きだから。
まだ恋だとは気付いていない。
けれど。
二人の距離はもう、主人と執事だけでは説明できないところまで近付いていた。
コメント
1件
しろまるさん、更新お疲れさまです〜🥀 今回の話もすごく良かったです…!マナがライのこと意識しちゃってる感じ、読んでてこっちまでドキドキしました。特に「お腹空いた」「けち」ってやり取りの後に、馬の事故でライがタメ口で本気で怒るところ、めちゃくちゃグッときました。「怖かったんだよ」ってぽつり零すライ、強くてかっこいいだけじゃなくて人間っぽくて好きです… まだ恋って自覚してないマナ、これからどうなるんだろう。続き楽しみにしてます🌙