テラーノベル
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護衛任務での一件から数日。
マナは以前にも増してライを意識してしまっていた。
廊下で会えば嬉しい。
目が合うと少し緊張する。
二人きりになると落ち着くのに、同時に心臓がうるさくなる。
そして何より。
あの日の言葉が頭から離れなかった。
『怖かったんだよ』
あんな顔をするライを初めて見た。
護衛としてではなく。
執事としてでもなく。
ただ、自分を大切に思ってくれている人として。
「……重症かも」
書斎の椅子に座りながら呟く。
誰にも聞かれていないはずだった。
しかし。
「何がですか」
「うわあっ!?」
振り返る。
当然のようにライがいた。
最近本当に気配を消すのが上手い。
「驚きすぎでは」
「ライが急に出てくるから!」
「ノックしました」
「聞いてない!」
いつもの流れだった。
ライは少し笑う。
その笑顔を見てマナの心臓が跳ねる。
もう駄目だ。
完全に好きだ。
認めたくなかったけれど。
もう誤魔化せない。
「……はぁ」
「ため息?」
「何でもない」
「怪しいですね」
「怪しくない」
「怪しいです」
「ライ」
「はい」
「黙って」
「失礼しました」
素直に引き下がるライに少し笑ってしまう。
そんなマナを見てライも笑った。
最近はこんな時間が増えた。
何気ない会話。
意味のないやり取り。
でも、それが何より楽しかった。
⸻
その日の夜。
空には満天の星が広がっていた。
雨上がりだからだろう。
いつも以上に綺麗に見える。
マナは庭園のベンチに座りながら空を見上げていた。
すると後ろから足音が聞こえる。
振り返らなくても分かった。
「ライ」
「正解です」
隣に座る。
少しだけ距離を空けて。
けれど以前よりは近い。
二人ともその距離に慣れてしまっていた。
「綺麗だね」
「そうですね」
しばらく沈黙が流れる。
静かな夜。
噴水の音。
風の音。
そして隣にいるライ。
不思議なくらい落ち着く。
「ライ」
「何ですか」
「ずっと執事やるの?」
ライが少し首を傾げる。
「急ですね」
「気になっただけ」
ライは夜空を見上げた。
「そうですね……」
少し考える。
「マナ様が必要としてくださる限りは」
「仕事だから?」
マナは何気なく聞いた。
しかしライはすぐには答えなかった。
「……最初はそうでした」
「最初は?」
「仕事でした」
風が吹く。
ライの前髪が揺れた。
「でも今は違います」
マナの胸がどきりと鳴る。
「違うの?」
「ええ」
ライは少し笑った。
優しい笑顔だった。
「放っておけないんです」
「ひどい」
「事実です」
「失礼」
「退屈だと言いながら問題を起こして」
「起こしてない」
「起こしています」
「起こしてない」
子供みたいな言い合い。
二人とも笑う。
そして再び静かになった。
星空を見上げる。
その時だった。
「マナ」
ライが呼んだ。
自然なタメ語。
マナが顔を上げる。
「ん?」
ライは少し迷ったような顔をしていた。
珍しい。
いつもならもっとはっきりしているのに。
「どうしたの?」
「……いや」
言いかけてやめる。
だが。
マナは待った。
ライが言葉を選ぶのを。
しばらくして。
ライは小さく息を吐いた。
「この前のこと」
「護衛の時?」
「うん」
完全にタメ語になっている。
本人も気付いていない。
「本当に怖かった」
低い声だった。
「お前が怪我するかもしれないって思った瞬間」
マナは何も言えない。
胸が苦しい。
嬉しくて。
苦しくて。
どうしていいか分からない。
「だから」
ライが続ける。
「無茶はするな」
真っ直ぐな視線。
誤魔化しも嘘もない。
ただ純粋な想い。
マナは思わず笑った。
「何で笑う」
「だって」
嬉しいから。
そう言いたかった。
でも恥ずかしくて言えない。
だから。
「ライって過保護だなって」
そう言った。
ライは呆れた顔をする。
「今さらか」
「今さら」
「知ってるだろ」
「知ってる」
二人とも笑う。
そして。
自然に肩が触れた。
どちらも離れない。
以前なら慌てていたかもしれない。
けれど今は違う。
その距離が心地よかった。
「なあ」
今度はライが先に話しかける。
「何?」
「もし将来」
少しだけ真面目な声。
「俺が執事じゃなくなったらどうする」
マナは驚いた。
そんなこと考えたこともなかった。
「嫌だ」
即答だった。
ライが目を丸くする。
「即答かよ」
「嫌だもん」
「どうして」
マナは少しだけ視線を逸らした。
本当の理由は言えない。
まだ。
だから。
「ライいないと退屈だし」
ライは吹き出した。
「何だそれ」
「本音」
「光栄だな」
優しく笑う。
その笑顔を見て。
マナは改めて思う。
好きだ。
本当に。
どうしようもなく。
そしてたぶん。
ライも少しだけ同じ気持ちなのだろう。
確信はない。
でも。
期待してしまう。
星空の下。
二人の距離はあと少し。
手を伸ばせば届くところまで近付いていた。
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コメント
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しろまるさん、第7話読ませていただきました…! 星降る庭園の静かな夜、自然に肩が触れる距離、もうすっかり二人の空気感が変わってきていて胸がきゅっとなりました。ライが「怖かった」と本音をこぼす場面、あのぎこちなさと優しさが混ざった空気が本当に好きです。マナの「嫌だもん」即答も可愛かった…! 互いに言えない気持ちが確実に近づいている余韻、とても沁みました。続きも楽しみにしています🌙