💚side
練習後、俺の家に翔太を呼んだ。
今日は特別に勉強も休んで朝まで一緒にいるつもりで連れて来た。
翔太もそのつもりだろう。
💚久しぶり、だね
💙うん、久しぶり
久しぶりに二人で会う翔太は、なんだか元気がなかった。
俺と二人でいるのは落ち着かないのか、しきりにあちこちに目線が泳ぐ。
💚ごめんね、連絡あんまりできてなくて
💙いい。阿部が忙しいの知ってるし
キュッと唇を締めて答える翔太が、寂しい気持ちを我慢してることに愚かにも俺はこの時初めて気づいた。
めめに何も言われてなかったら、気づかなかったかもしれない。
💚俺、わかってなかったね、翔太のこと
💙………
💚でも寂しいなら、ちゃんと言葉にしてほしい
💙だって…
💚ん?
💙だって阿部の邪魔したくないから
可愛い。
翔太ってこんなに可愛かったっけ?
俺は久しぶりに胸がキュン、とした。
俺が日常の予定に追われているうちに、翔太をこんなにも寂しがらせてしまったのだと思うと、反省とともに、少し嬉しい気持ちも起きた。
💚俺の邪魔したくなくて黙ってたの?
翔太が頷く。
💙だって、阿部は俺と違うし
💚違う?
💙寂しいとか、思わないだろ?
💚うーん
俺は言葉に詰まってしまった。
翔太の目が曇るのがわかる。あ、これは悲しませたなと思っても、リカバリーの気の利いた台詞が出て来なかった。
💙ほら。俺ばっかり、阿部が好きなんだ
とうとう翔太は拗ねてしまった。
ボキャブラリーは人よりあるつもりなのに、なんでこんな時に限って翔太を安心させる適切な言葉が出て来ないんだろう。
俺がもどかしさにいっぱいになっていると、それを悪い方に取ったのか、翔太はますますヒートアップしていく。
💙もう俺たち別れる?
💚え?なんでそうなるの?
💙だって阿部、もう俺のことめんどくさいんでしょ
💚そんなことないよ
💙寂しいって言ってくれないし
💚ごめん、それは
💙なんだよ
💚ごめん、正直に言うと寂しくはなかった
💙!!!
💚でも、それは好きじゃないわけじゃなくて
慌てて伸ばした手を俺は乱暴に振り払われてしまった。翔太は完全に傷ついて、俺の言葉に全く耳を貸さなくなる。
こうなるともう会話にならないので、俺はお茶を淹れ始めた。
💙お茶なんていらない
💚翔太
💙ちゃんと話せよ
💚俺、今、ちょっと忙しいんだよね
口をついて出た言葉が、あまりにも配慮に欠けていたのを言った瞬間に気づいて、俺は猛烈に後悔したが、もう手遅れだった。
💙もういい
💚翔太、違う、ごめん、今のは
💙もう聞きたくない。もう帰るから。めんどくさい男で悪かったな!
翔太は一方的にそう言うと、家を飛び出して行ってしまった。
なんであんなこと言ったんだろう。
今度の受験が終わったら、二人でやりたいことがたくさんあるんだよって言ってやればよかった。
後悔してももう遅い。
俺は追いかけることもしなかった。
何を言ってもすれ違いになる気がしたから。
出来上がった二人分のお茶を、俺は飲まずにシンクにそのまま流して捨てた。
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