ホテルから出ると紫色の雲り空から霧雨が降っていた。俺は、乱暴に扱われて痛む腰をさすりながら空を見上げていた。1秒でも早く離れたくて、相手を部屋に残したまま出てきたが、家に帰るまで少し濡れることになりそうだった。
意を決して雨の中飛び出すと、背後から今は聞きたくなかった人の声が聞こえてきた。
「あれ?りぃちょ?」
「あ……ニキニキ……やっほ」
「お前……そんなとこから出てきて……女?」
「あー……うん、そんなとこ……かな?」
今は出来れば会いたくなかった。テキトーにひっかけたオッサンに抱かれて、金を受け取って出てきたところなんて…好きな人には見られたくなかった……。
俺が少し口どもりながら答えると、ニキニキは少し訝しげな顔をしながら、それならいいけど……と小さく呟いた。
「遊ぶのはいいけど、程々にしとけよ?」
「えーいいじゃんwきもちーこと好きなんだもん」
「お前は……そのうち刺されるぞ……」
務めて明るく言う俺に、ニキニキは心底呆れた顔をした。
「そういうニキニキだって、なんでここに?」
「あー俺は、近道だから通っただけ」
「あ、そうなんだ…」
少しだけほっとした自分がいた。ニキニキが誰かと身体を重ねている訳では無いということに…。俺、最悪じゃん…。そう呟いた時、最悪なタイミングで声をかけてきた奴がいた。
「あ、まだいた!よかった。これ、忘れ物」
「チッ……」
さっき相手したオッサンだった。その手には俺のピアスが1つ乗せられていた。俺は溜息をつきながらそれを受け取り、小さくお礼を言った。
「またよかったら相手してよ」
「いや…あんた下手だからもう次はないかな」
「ひどいなぁ…あ~次はその男の子かな?」
「は?」
「次の相手はその子なんでしょ?ほんとお盛んだなぁ」
そう言って下卑た笑いを残してオッサンは去っていった。最悪だ…ニキニキにだけは知られたくなかった。俺は、ニキニキの顔を見られなくて下を俯いていた。
「りぃちょ…お前…」
「はぁ…なぁに?」
「あんなのの相手してんのか?」
「あーまぁね。相手見つかんない時はね」
呆れたような溜息が聞こえてきて、足先や指先から血の気が失せていくのを感じた。本当に嫌われてしまった…。もうこれで終わりだ…。
「そんなにしたいの?」
「あーまぁうん…」
「じゃあ、俺が相手になるよ」
「え?好きな人いるって言ってなかったっけ?」
「いるよ。でも、相手に気持ち伝えられなくて俺も溜まってんだよねww」
「俺がその相手ってことは……?」
「ないないww相手男だけど、お前じゃないわw」
「あ……そっか……」
ワンチャン…狙って聞いてみたら撃沈した。まぁ、そんな気もしてた。結構前からニキニキに片思いしているけど、他の人のことを見てる気がしていた。それが誰かもなんとなく予想がついている。多分…両思い何じゃないかな…。でも悔しいから教えてあげない。
知らないフリをしていれば、好きな人に抱いてもらえる…。だったら、俺は卑怯だってわかってても知らないフリをする。その瞬間だけでも求められている気分に浸りたいから……。
「じゃあ…俺を抱いてよ」
「ふふw俺でも抱かれていいんだww」
「まぁ……仕方ないからねw抱かれてあげるw」
虚しくて泣きそうな気持ちをヘラヘラとした笑顔で隠した。ニキニキも笑ってる…。俺は嫌な気持ちを振り払いたくて、ニキニキの腕に自分の腕を絡めた。
「ね、試しに今からやってみる?」
「今から?wお前さっきやったんじゃないの?」
「下手くそでさぁ…全然満足できてないんだよね」
「あーwwじゃあやるかぁww」
「やったww」
コメント
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最高です👍