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そんな風にしてスッタモンダを経て夫がいなくなって半年が過ぎようと
していたがあっけないものだ。
寂しいとか恋しいとか思わない。
そして3人の生活と仕事場で両親に毎日会う生活が当たり前の
日常になっていった。
もう駄目だなぁ~って気持ちはあった。
あったけど……最後の踏ん切りが付かないまま日々を過ごしていた。
そんな時、一週間に一度あるかないかのメール連絡があり
将康がインフルエンザに罹って寝込んでいるという。
勝手に行ってしまったとはいえ、ひとり身でのインフルは堪えるだろうと
流石にモヤモヤしてしまい、母に相談ではないが、そのことをつい
話してしまった。
母から子供たちは見ててあげるから、看に行ってきなさいと
言われるんだろうなぁ、なんて話した後で少し後悔があったのだけれど
なんと……
「あらっ、たまたま将康さんの赴任先に所用があるから、明日早めに
家を出て将康さんの所に様子見に行ってあげるわよ」
と言われた。
「いいの? なんだかお母さんに行ってもらうなんて申し訳ないわ。
行くなら私が行くべきだと思うしぃ……」
17-2
「ふふっ、ほらほら、そんなこと言ったってあなた進んで
行きたいって訳でもなさそうだし?
わかってるって。
単身赴任には反対だったのに勝手に行かれたっていう思いが
まだまだなくなってないから、しようがないわよね。
だから、わだかまりを残したままのあなたが行くより
他の用事のついでなんだし、ちょうど私が見に行くのが
今回はいいんじゃないかな?
あなたもいろいろやきもきしなくてすむだろうしね。
私へはまたおいしいものでも食べに連れて行ってくれればいいわよ」
母は私の心情をよく理解してくれているようで、行って見てきて
くれると言う。
所用のついでだということもあって、ここは母に甘えることにした。
「将康さんに何かことづけるモノがあれば、持って行くわよ」
母がそう言ってくれたので私は新しいワイシャツ2枚とネクタイ2本
を急いで買いに行き、荷物になって申し訳ないけどとお願いした。
まぁ、成り行きでという感じだったにせよ最後になるかもしれない夫への
プレゼントを直接ではないにせよ、自分が見立てて渡せることになったので
離婚を見据えていた私には、心残りがひとつ減ったような気持ちに
なった。
単身赴任して8年の歳月が流れ……
まさか単身赴任が8年もの長きになるとは流石に想像できなかった。
それこそ、思いの限りやりたいだけ仕事をしつくしたと言えるだろう。
あんなに仕事やりたい症候群に捉われていた自分も本社に戻れば
モーレツ社員は返上して普通の仕事量でやっていこうと思えるように
なっていた。
この8年、妻の申し出に甘えて家には一度も帰っていない。
帰りの新幹線の中で少し不安になってきた。
家が近づくにつれ、嘗てない感情に捉われはじめてもいた。
8年間も家族の顔を見ないで過ごしてきた……
過ごしてこれた……
俺は、どうなんだろう?
一般的に……
世間的に……
仕事しか目に入らない、入らなかった自分が、そのモーレツな思いから
解き放たれた途端、気になりだしたのだ。
これまでの8年間というものを。
だが、ここでそんな思いを捉われたとて何になろう。
今さらだ。
大丈夫だ、由宇子とは月に2~3度メールでだが近況のやりとりは
していたりのだから、と自分を鼓舞して……
鼓舞しないといけないっていうこと自体おかしいよなって……
頭のどこかで警鐘が鳴っている。
家に近づくに連れて離れた時の子らの顔と妻の顔が浮かんでは消えた。
俺らしくもなく、少し胸がドキドキもしてくる。
そして、家族と一緒に暮らせる喜びと期待が胸に湧いてくる。
胸がやたらと高鳴っているのがわかる。
8年俺は仕事一筋真面目にモーレツに頑張った。
収入も倍以上増えるし役職にもつける。
妻の由宇子に早くこの話を届けたい。
◇ ◇ ◇ ◇
それなのに家に着くと、俺を出迎えてくれるはずの家族は誰もいなかった。
出てきたのは、知らない人間だった。
「え~と、どなたですか?」
「えっ? ここに住んでる大倉ですが」
「何おっしゃるの、7~8年も前からここに住んでるのは
わたくしたちですよ」
「えっ……そんな。」
奥さんと問答していると後ろから旦那らしき人物が現れ……
「私たちの前の持ち主が確か大倉って言ってなかったかい?」
と、奥さんと俺に向けて言った。
何がなにやらさっぱりわからなかったが、ひとまず知らないとはいえ
不躾なことを言ってるのはこちら側なのかもしれないということが
朧げに分かった為、失礼しましたと告げてその場を離れた。
俺はすぐさま、由宇子に電話した。
「もしもし……」
「もしもし……」
「驚かせようと思って詳しい日時を言ってなかったんだが
今日赴任を終えて帰ってきたよ」
「あらっ、帰ってきたんだ」
「あらって、どうして俺の家に知らない家族がいるのか
説明してくれないだろうか」
俺は少し怒りと疲れの為、問いかけるのが強い言い方になってしまった。
「あなたと私はとっくの昔にもう離婚して他人だからよ」
「な、何言ってんだ!」
「戸籍調べてみれば?」
妻と話していてものらりくらりで、どうにも話が進まない。
意図的に進まないようにもっていってるのだろうが。
しょうがないので義親家に連絡をとり、どういうことなのか
そして妻と子らが今どこに住んでいるのかを聞くために疲れた足を
引き摺るようにして出向いた。
お義母さんは、一度は本人同士会って膝突き合わせて話をするべきと
あっさり今由宇子たちが住んでいる住所を教えてくれた。
良かった。
由宇子たちは彼女の実家のすぐ近所に住んでいたからだ。
これからまた、数時間かけて行かないととなるともう今の俺には
疲れていて無理だった。
離婚て、離婚て、そんな簡単に一方の決定だけで出来ないだろうに全く
と憤懣遣る方無い気持ちで俺はまだ見知らぬ家へとモヤモヤした気持ちを
抱えて向かった。