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「そういえば、さっき、圧縮袋を開けてみたら、ケセランパサランが圧縮されてたんですよ」
メダルゲーム機からチラチラ老婆を窺いながら、壱花は言った。
「なんだって?」
と倫太郎が訊き返してくる。
「予備に持ってきていた下……」
下着、とはさすがに言いづらく、壱花は言い換えた。
「服が入っていた圧縮袋を開けてみたら、ケセランパサランが一緒に圧縮されてたみたいで」
うちに一緒に帰ってたんですかね? と壱花は小首をかしげる。
「……家に一匹入ったら、ぞぞぞぞっと増えていきそうだぞ」
「じゃあ、今頃、船内で増えてるかもしれませんね」
それ、あのあやかしより危険じゃないか? と言われる。
「でも、ケセランパサラン増えても、ただ可愛いだけですよね」
「埃だらけみたいに見えるだろうが……。
そういえば、ケセランパサランを箪笥に入れておくと、着物が増えるとか昔言われてたらしいぞ」
「今なら服が増えるんですかね? 嬉しいですけど。
同じ形のケセランパサランが増殖してくみたいに、箪笥の中にあるのと同じ服が増えていきそうで、怖いですよね」
断捨離の敵ですね、と言ったとき、老婆が動いた。
「行きましょう、社長」
と言ったが、倫太郎は動かない。
「待て。
まだメダルが残っている」
壱花は立ち上がり、冨樫のところに行った。
「行きましょう、冨樫さん」
「なにを言ってるんだ、風花っ。
このイルカ、ここまで引っ張ってきたんだぞっ」
……あなたがなにを言ってるんだですよ、と思ったが。
まあ、頑張ったクレーンゲームを諦めた次の瞬間、続けてやりはじめた人に一発でとられてしまったときのむなしさはよくわかる。
壱花は倫太郎と冨樫を置いて、ひとり老婆を追って行った。
ケセランパサランでも連れてくればよかったな……と思いながら。