テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
【鈴木side】
「…」
顔を枕に埋め、完全に再起不能になった体はベッドにインしている。
何故か、常に頭がぼーっとしていて、思考がいちいち停止する。
…砂鉄はなんて言ったんだっけ
…なんだったっけ
別に眠たい訳じゃない。のに、瞼が自然と重みを増す。
「んー、…」
唸りながら、枕に沈めていた顔を横に向け、息ができるように整えた。
「…」
このまま寝れるのかと、試しに目を瞑ってみるが、暗い視界の中に、白いモヤがぽわぽわ浮いているだけで、どうも寝付けない。
「…はぁ」
目を開け、また、ベッド横の壁が映る。
なんのやる気も起きなくて、何をしたいのかも分からない。
このまま永遠に眠っても、どうせ辛いだけな気がする。
天国と地獄があるなら、僕は意地でも地獄へ行く。
凛子に会いたくないのかと聞かれるとそうじゃない。
でも、こんな僕と一緒にいても、凛子は楽しくない。
こんな僕を、凛子は好いてくれない。
『チョモはうちがおらんとダメやね』
…ほんとにダメだ。君がいないと。
『凛子、おれのこと好きなんじゃないの〜?』
『…そうだよ?』
「…っ」
頬を伝う何かが、枕を濡らす。
分かってるよ。
凛子はさ、元気で明るくておバカな僕が
“友達” として好きなんだろ?
「っ、う」
苦しい。
喉が自然と閉まってくる。
「〜っ」
目頭が熱くなってきて、目の前が歪んで見える。
…僕は、なんのために生まれたの?
なんで、大人にならないといけないんだろう?
あのまま時間が止まれば良かったのに。
「っ、うぁ、あぁ…」
冷たい。
寒い。
誰か温めて。
抱きしめて。
ずっとそばにいて。
…貴方の笑った顔が、あの日と重なる。
『酒は持ってくんなっつってんだろ』
それでも、しつこい僕を受け止めてくれた。
『惜しかったよなぁ〜、ふるはうす』
その言葉に虫酸が走ったのをよく覚えてる。
『あはは!!なんでカップ麺しか食ってねぇーんだよ!』
…桐山さんだってよく食べてたのに。
流れてくるのは、全部全部
笑顔、笑顔、笑顔。
…桐山さんの、綺麗じゃない笑顔。
「ゲボッ!ゲッホッ、!っはッ」
…幸せそうでなにより。
「ォ”えっ、」
幸せ…そう
「ッはぁっ、はっぁ、!」
…貴方の隣に、僕は存在してますか?
【桐山side】
あの奇跡みたいな出会いから数ヶ月。
俺らはお互いの部屋を行き来するようになった。
ただの仲良しの先輩後輩で終わらせたくなかった俺は、ずっと隠してた思いを口にすることを決め、ついこの前、仕事終わりに言ってしまった。
『…俺、ミナミと会った時から、ずっとそばにいたいって思ってたんだよね』
その言葉の意味が、理解できているのかいないのか、少し困った顔をした彼女。
その光景はとても綺麗で、夜の星空が負けるくらいに、輝いていた。
『…意味、わかる?』
おずおずとそう聞いてみた。
『…よろしくお願いします』
なんてさ。
断られると思ってたのに、なんでこう変に上手くいっちゃうかな。
おかしい気がするのもあるが、そんなの気にしていられるほど暇じゃなかった。
飛び跳ねるほどとまではいかなかったけど、ミナミの返事は、確かに俺の心をじんわりと温めていった。
で、ロマンチックな雰囲気はここまでとして、実際今、正真正銘の“カノジョ”の家にお邪魔させていただいてるわけで。
「ミナミ、何作ってんの?」
「んふふ、なんだと思います?」
「知らねぇよ!」
「あはは!出来上がるまで秘密デース!」
数分前、夜ご飯は私が作るから!と、俺を机に残してスタスタキッチンへ向かったミナミ。
何を作るのかも言われてないから、聞いてみたものの、意地悪そうに笑ってこちらを見てくる彼女。
そういう、何も教えてくれない感じとか、意地悪そうに笑うところとか、本当、鈴木ちゃんみたいだなってつくづく思う。
その笑顔が若干癖になってる自分はやばいのかもしれない。
「はい!出来ました!!」
「え、早くね」
以外にも、料理が凄く上手いのは、元々栄養士を仕事としていたからなんだそう。
関係あるのかないのかは知らないが。
お互い、机を挟んで真正面に座る。
「いただきまぁす」
久しぶりに、普通の飯食べた気がする。
そんで、文句ないぐらい完璧に美味しい。
「…どうですか…?」
首を斜め45度ぐらい左に傾け、心配そうな目でこちらを見つめる。
手に持った箸が固まったまま。
自分が食べる前に、先に事実を知っておきたいってか?
大丈夫だよ、充分美味しい。
「めっちゃ美味いよ」
「ホントですか!」
良かったと口からこぼれてもおかしくない表情。
強ばった顔は、ふにゃっと笑顔に戻る。
笑顔自体は、別に鈴木ちゃんに似てない。
ミナミは、どっちかっていうとふんわり系の笑顔だ。
でも、たまに見せる仕草とか、喋ってる途中でチラッとよそ向いたりとか、そこら辺が…。
「…?…桐山さん?」
「え、あ、いや?なんもない」
「まだなんにも言ってませんよ」
俺が、ミナミをガン見してたせいか、彼女から指摘代わりに名前を呼ばれる。
そして、クスッと笑ってみせる。
…そういうとこ。
俺は、その笑顔にやられ、目をそらして黙々と食べ進める。
「…ごちそうさま」
「私も、ごちそうさま」
「作ったのミナミだけどな」
「あははっ」
平凡だけど、輝いてるこの毎日が続いて欲しい。
あの時も、そんなふうに思ってた。
他愛ない会話が途切れて無くなるくらいなら、俺は無理矢理にでもこっちに引き戻す。
そんな気持ちでいたのにな。
もう引き戻せやしないし、戻したくない。
また繰り返して苦しむだけなんだから。
俺は、ミナミと皿を持っていき、シンクで一緒に洗う。
横から飛び散る水は、そっと俺を和ませた。
皿を洗い終えると、少し眠たくなってきたのか、ミナミは目をこすって座っている。
「…大丈夫そう?」
そう問いかけると、彼女は大丈夫だと言わんばかりに、勢いよく立ち上がり、「シャワー浴びてから寝ます…」と風呂場へ向かった。
この会話が、凄く心地よく感じた。
何故かって?
風呂に入るなんて報告は、同棲してないとほぼ出てこない言葉だから。
同棲なんてしてないけど、同棲してるって思わせる、そんな言葉が、ちょっと嬉しい。
…普通、シャワー浴びるなんて言われたら、男全員が一度は想像するそういう行為。
でも今、別にやりたいなんて思わないし、思ったことないなー、なんて考えてると、自然と耳にシャワーの音が入ってくる。
ミナミとこうして気楽に過ごせたらそれでいい。
でも、向こうが求めるんならそれはそれでしてあげようと思う。
キスだってやってないし。
向こうがやりたいんなら、俺は構わない。
だんだん眠気が襲ってきた。
「…ちょっとだけ…」
そう言って俺は、机に突っ伏して目を閉じた。
ミナミが上がってくる前に寝てしまうと、ミナミも起こすの大変だろうけど、でも、彼女に起こされたい感はあった。
それに風呂だって、家で先に入ってきたから別に良い。
流石に風呂を借りるのは迷惑かけるので、家に行くという連絡を入れたあとすぐに入った。
数分、意識はあるけど、何となく寝てる感じのまま、ミナミに起こされる。
「桐山さん!起きてください!」
「…ん?…あぁ、ごめんごめん」
「はは、疲れてたんですか? 」
無邪気なその子供らしさ。
『桐山さん、寝不足ですか?さっきめちゃくちゃ寝てましたよ』
…あ、思い出した。
その笑顔で俺に言ったんだっけ。
本名はチョモって名前なのに、鈴木ちゃんと呼んでたもんだから、つい鈴木ちゃんって言ってしまう。
まぁ、いないから別にいいか。
…いないのか
「ミナミ…」
「…はい…?」
「…一緒に寝てもらってもいい?」
少しだけでいいから。
コメント
6件
初コメ失礼します。 一気に読ませていただきました🥰 小説の書き方とか表現の仕方が本当に好みすぎます。 本当に大好きです💕 続き楽しみにしときます~~