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【鈴木side】
「…」
視界が暗い。
気づけば辺りに掛け布団が落ちていた。
どれだけ暴れたのか、それとも寝相か。
自分じゃ検討もつかない。
そのくらいパニックだったんだと今更気づく。
「…はぁ」
上半身だけゆっくり起こすと、そのまま自分の足元をじっと見る。
電気を消した記憶はないのに、部屋が暗いのは、きっと砂鉄が消しに来たんだと思われる。
でも、砂鉄は僕をパニック状態から引き戻してない。引き戻された記憶がない。
なら、僕が寝ていた時に電気を消した。そう考えるのが一番しっくりきた。
そして、同時に僕は気付かぬうちに寝ていたという事実が発覚。
近くの時計に、瞳孔だけを動かして目に入れる。
深夜2時。
何故こんな中途半端な時間帯に起きてしまったのか。
そんなことなら朝まで寝ていた方がマシだ。
「はぁ」
もう一度ため息をつき、下半身を布団の外へ出す。
体が勝手に…とは言わずとも、意味もなく歩いていき、気づけば目の前は洗面所の鏡。
目の前に映った自分の顔。驚くとまではいかないけれど、疲れているのはぱっと見ただけでもわかった。
「…」
何がしたいんだろう。僕は。特にやることも無いし、暇って訳でもない。ただ寝たいとも思わないし、まず生きるってことがもうダルさを増してる。
自分の頬に触れ、少し引っ張る。
無理やりだが、そうやって引っ張ってやれば、笑顔に見えるのは嘘じゃない気がした。
急に部屋に戻りたくなって、また足を運ばせる。
またベッドの上に座るが、やっぱり居心地が悪い。落ち着かない。
足をじたばたさせて、何となく体を動かす。
が、それも飽きてすぐ辞める。
不意に、脳裏に幸せそうな笑顔の桐山さんが映る。
もう、昨日のように気持ち悪いとは思わない。
ただ、どこか手を伸ばせば届きそうなところに居れば、僕は確実に桐山さんの首を絞めていた。
そのくらい、自分にダメージを負わせたものだと今更理解する。
…あの幸せは一体どこから?
昨日はこの思考から狂ったと、自分の中ではっきりしていた。
僕のそばで眩しすぎる笑顔の彼。
そんな夢を見たことないとは言いきれなくて。
気温的には寒くない。寒くないんだけれど。
何となく、体を縮めて体操座りになる。
そのまま顔の半分を膝に埋める。
…ずっと何かが開きそうで。
でもすぐに閉じていくから。
開けばきっと壊れるから。
無視をしていた。
けど、今ならもうなんでもいい。
あの人がそばに居た事実、あの人が笑顔で僕の隣で笑ってた。
その笑顔さえ、僕は素直に受け止めなかった。
いや、受け止めきれなかった。
綺麗だったのに、どこか汚く見えて。
彼の誹謗中傷はどこまで広がるか。
そんなことに気を取られて。
…今、何をどこで、誰とどんな思いで、どんなふうにどんなことをして、生きる理由を見つけるのか。
誰と、生きていけるのか。
『うちがおらんとダメやねチョモは』
そうだったら良かった。
『チョモ、これみて!』
笑った顔が、もう思い出せない。
凛子の、笑った顔が。
隣に居たのは、きっと君なのに。
『鈴木ちゃんかよ、びっくりした。ビビらせんなよ!』
そうやってなんでも受け入れた彼が。
『あははっ!!お前これヘッタクソ!!やったことねぇの??』
そうやって何気ない会話が。
僕の重いものを、弱く、でも確実に削っていった。
…だから、一緒にいるのは嫌だった。
「…は、?」
…なんでなんだろうね。
「っ、」
…どうして。
「はぁ、っ、う、」
…どうして。
貴方の温もりがないだけで苦しまなくちゃいけないんだろう?
苦しいんだ。
ずっと。ずっと苦しい。
いっそのこと、僕じゃなくて彼が死ぬ運命なら良かったって思う。
「っ、〜、は、」
声にならない叫びが、自分の腹の中で響く。
頬を伝う何かが、自分の服を濡らし、布団を湿らせ、枕をぐしゃぐしゃにする。
鳴り止まない嗚咽。
昨日とは違う。何かが違う。
分からない。
「…っ、きりやま…さん」
分からないんだ。
助けてよ。
嘘でもなんでもいい。
「っオ゛ぇ、」
気持ち悪い。
腹が立つ。
「…桐山さんっ、」
布団を掻き乱し、シーツを引きちぎれるまで強く引っ張った。
口の中に沢山指と毛布を詰めた。
じゃないと、どんどん溢れるから。
「…ゲホッゴホッゴホッ…ゥ゛え、」
吐き戻して入れ直す。
それの繰り返し。
やだよ。
認めたくない。
僕の横にいるのは凛子だよ。
桐山さんじゃないはずだから。
大丈夫、
大丈夫、
「…桐山さん、」
何回繰り返したのか。
何度貴方の名前を呼んだか。
「っ、うゎ、あ、っ、」
もう止まれなかった。
わかっていた。
自分が苦しいのは自分のせいだって。
でも認めたくなかった。
だって、
それを認めたら…
「あぁぁあああぁっ!!」
…好きだって言ってるようなもんだから。
「違うっ、違う、なんでもないっ、そうじゃないっ、!!!」
「チョモっ?!!なに?!開けるよ!! 」
砂鉄の声が聞こえる。聞こえたことはわかってる。でも、何故か何を言ったかまでは聞き取れない。
扉が開く音と同時に僕の隣に砂鉄が飛び込んでくる。
違う。違うから。
砂鉄じゃないんだ。
「大丈夫かよ?!ほら、息吸えって。何があったんだよ」
…寝てただろうに。僕のところにいち早く飛んできて、今背中をさすってくれているのが、砂鉄なんだ。
そういう奴なんだ。
馬鹿みたい。
「…落ち着いた…??」
砂鉄は、僕の顔を覗き込んで、しっかり目を合わせようとしてくる。
まるで小さな子供と目線を合わす親のように。
「ゲホっ、は、ん、大丈夫、もう」
さっきまで寝ていたからか、目がまだしっかり空いてない砂鉄。
僕が正気に戻ったっていう安心でもあるのかもしれないけれど。
「なぁ?昨日のこと?」
罪悪感からか、昨日のことを引っ張り出して問いかける。
罪悪感があるのは僕の方だと言いたい。
「違うよ」
ほんとに違うことだし、ひとりでこうなっただけ。
彼にこれ以上探られるのはごめんだった。さっさと寝てもらおうと、砂鉄に言い訳にもならない大丈夫を言い続けた。
「…砂鉄。もう大丈夫だから。いいよ。寝てて。起こしてごめん」
「…ほんとに?」
僕が無理してるとでも思っているのか、まだ心配そうにこちらの顔を伺う彼。
心配してくれてるのはわかってる。
でも、今はその心配さえ心地の悪さと苛立ちを覚える。
さっさと独りにして欲しいといいただいけど、それじゃあ砂鉄が理不尽な目にあう。
何を言っていいか分からず、僕はもう一度言う。
「…ほんとに大丈夫だから…」
「…わかった」
砂鉄は、それから黙って立ち上がる。さっさと帰ったと思ったのに、どこか名残惜しいというような歩き方だったのを、はっきり頭に焼き付けられた。
「…」
落ち着けたのはいい。ただ、まだ気持ち悪さが感覚的に残っていることが問題。
…多分…もうわかってる。
今、僕が怖いのは分からないことじゃない。
わかってしまってることに、気づいてしまってることに対して恐怖を感じてるんだと、分かってる。
「……はぁ…」
…なるほど。そういう事か。
今までずっと、何をしても、何を言っても、彼が頭から離れないのは。
いつからかは明確には分からないし知らない。
“いつの間にか”なんてありきたりなのかもしれない。
…そっか。
「…っ…」
全てが腑に落ちた瞬間、自然と涙が流れた。
今度は静かに。
コメント
16件
続きまってますだいすきです‼️‼️
更新待ってました~💕 本当に表現がすごすぎてなんかこっちまで苦しくなってきました(?) また待ってます!!
はる。です! 第12話、読んだわ…。もう、なんだろうこの胸がぎゅっと締め付けられる感じ。 鈴木くんの、深夜に一人でぐるぐるしてる感じとか、荒ぶる感情とか、全部がリアルで苦しい…。 特に、「認めたら好きだって言うみたいだから」っていうところ、すごく刺さった。わかってるのに認めたくない、でも止まれない、その感じがひしひしと伝わってきたよ。 最後の「…そういう事か。」で腑に落ちた静かな涙も、めっちゃ印象的だった。いいお話だった!