テラーノベル
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その夜。
〇〇は部屋にいても落ち着かなくて、そっとベランダに出た。
夜風が髪を揺らして、少しだけ昼間の胸のざわつきを和らげてくれる気がした。
でも――心の奥のモヤモヤは消えてくれない。
(……なんであんなに気になっちゃったんだろう。 ただ亮が優しくしてただけなのに……)
自分でも理由がわからなくて、戸惑う。
そして気づけば、視界が滲み始めていた。
「……やば泣きそう……」
〇〇は慌てて目をこする。
そのとき。
「〇〇?」
驚いて顔を上げると、隣のベランダから亮が心配そうに覗いていた。
亮を目にしてすぐに胸がいっぱいになる。
「大丈夫か?なんか泣きそうな顔してる」
亮は真剣な目で、見つめてくる。
〇〇は慌てて笑顔を作ろうとする。
「だ、大丈夫……ちょっと風に当たりたくて」
「本当に?」
疑うように優しい声で問いかけられると、胸がまた締めつけられる。
言いたいことはあるのに、言えない。
家族のこともあるし、こんな気持ちは知られちゃいけない。
だから、〇〇は小さく首を振るだけだった。
亮はしばらく黙って見つめていたけれど、ふっと笑って言った。
「……何かあったら、俺に話して。無理に言わなくてもいいけど、俺は〇〇の味方だから」
その言葉に、涙がまた零れそうになる。
だけど今は、ただ夜風に紛らわせるように小さく頷いた。
夜も更けて、〇〇はそっと亮に声をかけた。
「ねぇ、ちょっとコンビニ行かない?」
亮はすぐに笑顔で頷く。
「いいよ。俺も少し歩きたかったし」
二人で外に出ると、夜風がまだ少し肌寒く、〇〇は肩をすくめる。
亮はさりげなく自分のジャケットを広げて、〇〇に羽織らせてくれた。
「ありがと、」
○○が照れながら礼を言うと亮は目を逸らし頷く。
歩きながら、〇〇は勇気を出して小さな問いかけをしてみる。
「……亮って、私のことどう思ってるの?」
亮は少し考えて、にやりと笑った。
「うーん……〇〇はさ、可愛い妹みたいな存在かな」
その軽い言葉に、〇〇の胸はぎゅっと締め付けられた。
“妹みたい”…。
その言葉の裏にある距離感と、自分の想いとのギャップに、涙が止まらなくなる。
「……そっか……」
〇〇は小さく吐息を漏らしながら、足早に歩き出した。
亮は驚きながらも黙って後ろを歩き、そっと手を差し伸べたくなる衝動を抑える。
街灯の下で二人の影が並ぶけれど、〇〇の心の中は切なさでいっぱいだった。
亮の言葉は優しくて、でも自分の気持ちはまだ伝わらない――そんな夜。
第8話
〜完〜
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