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一緒に北海道に行けるなら行きたい。
でも、やっぱり無理だよ。
何もかも中途半端なままじゃいけない。
「こんなことならもっと早くあんこさんに告白すれば良かったな。そしたら一緒に……」
真剣な顔になり、言葉を探してるようだった。
「大丈夫?」
「あ、ああ、すまない。何と言えばいいか。怖かったんだ。あいつが若い男と出ていった時のこと考えたら……」
あいつ? 男と出ていった?
「もしかして、奥さん……のこと?」
「前の……な」
私は、この人の奥さんだった人のことを知らない。
それに、離婚の理由も。
だから、今聞いて、ちょっと動揺してる。
「もちろんあいつには未練は一切ない。1ミリだってない。正直、思い出したくもない。新しい恋愛もしなきゃいけないと思ってはみたけど、あれから女性を愛することが怖くなって……というか、面倒くさくなって。いろいろ逃げてた」
東堂社長のこんな気持ち、全然知らなかった。
ううん、私もわざと聞かないようにしてきたっていうのが正解だ。
「それが……『杏』に来るようになって、自然にあんこさんのことを意識するようになった」
私も……同じ。
『杏』を守るために恋愛なんてしてる暇ないと思ってた心を、ちょっとずつ溶かしてくれたのがあなただった。
「でも、いざとなったら勇気が出なくて。こんなおじさんが、一回りも年下の女性に告白するなんて厚かましいとか、もし付き合ったとしても、また逃げられるんじゃないかとか。いろいろ臆病になってしまって……」
「年齢の差は関係ないよ。おじさんというなら、私だっておばさんだしね。それに、私は結婚した相手がいるのに他の人と出ていくなんて、そんなことするような女は嫌いだよ。大嫌い」
って、私……
まるで告白してほしいみたいな言い方してない?
「と、とにかくさ、一緒には行けないけど、ずっと友達なんだからさ。いつでも連絡してきて。寂しいだろうから、いっぱい愚痴とか言ってきてよ。電話なら、いつだって話せるんだし」
この人が遠くに行くのは、本当は寂しい。
すごく……寂しい。
それに、向こうで新しく好きな人ができるかも知れない。
この人は見た目が良くて、優しくて、おもしろい人だからモテないわけがないしね。
自分の好きな人が誰かと幸せになるなら、それもいいんじゃないかって……無理やりそんな風に思おうとしてる自分もいるけど……
だけどさ、北海道から電話が掛かってきて「結婚するんだ」なんて、もしそんなことを突然言われたりしたら、私、大丈夫なの?
ちゃんと祝福できるの?
ダメ、落ち着いて考えないと。
私には『杏』があるじゃない。
何よりも大切な物が。
だから……何があっても大丈夫だよ。
きっと、大丈夫。
これからもここでみんなと一緒に頑張っていく。
それが、私の選んだ人生なんだから。