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「うん、そうだよ。ただいま!」
「いやいやいや……『ただいま!』じゃなくてですね……そもそもあの泥に触れて大丈夫だったんですか?」
「?うん、ピンピンしてるよ?」
風夜は泥塗れだが痛みがある様子も動きに支障がある様子もない。風夜はピョンピョンしながら話を続ける。
「でも……あの【嘆きの泥】は“普通の人間”が触れたら無事じゃ居られないね。多分だけどすまない“くん”でも無理だ。少なくとも肉体は生身なんだからね」
ブラックは眉を顰める。
「では貴方は“生身ではない”とでも言うつもりですか?」
「ふふ……ブラックは案外耳ざといね。そう、僕の肉体は生身じゃない」
するとすまない先生が前に出た。
「やっぱり僕の推測はあってたんだね?」
風夜はゆっくりと頷く。
「うん、すまないくんは正解だった。ごめんね、あそこまで否定しちゃって」
そう言うと二人の方に向き直る。そして人間を明らかに超越した者の笑みを浮かべた。
「僕は“風夜”……またの名を____
【世界の過去を写す魔導書】だ」
ブラックはしばらく呆然とし一言。
「実在したんですね……」
それに風夜は
「え、酷い。一年前に声だけではあるけど会話したじゃん」
と返す。風夜は先程とはまるで違ったオーラを纏っていた。人間達には絶対に到達することのできない、神の風格とでも言うべきものが風夜を包んでいる。
「……そういえばそうでしたね。すまない先生を拉致ったのは許しませんけど」
「別に少し話をしたかっただけって言ったじゃん。傷一つ付けずに何なら真実を教えただけで帰したのに酷いな」
風夜は自分の顔に付いた泥を拭いながら抗議する。ブラックは溜息を吐きつつそこについて話を続けるのはやめた。代わりに
「他に取り戻した記憶はありますか?」
と問うた。風夜は少し考えるそぶりを見せた後、そういえば、と言うような顔をした。
「多分だけど“一回目”のすまないスクールの記憶なら取り戻した」
「一回目、ですか?」
「うん」
風夜は少し悲しそうな顔をした。
「すまないくんは途轍もなく長い時を生きる中で、何度も君達生徒との出会いを別れを繰り返しているんだ。そして何度もすまないスクールの先生をしている。僕は恐らくほぼ毎回編入してるけど、そのうちの一回目の記憶なら取り戻したよ」
風夜は笑う。
「……面白いですね……」
ブラックは目をキラキラさせている。
「僕も知りたい!」
すまない先生も興味津々のようだ。風夜は困ったように笑い
「曖昧な所も多いからね」
と前置きをして話し始めた。
「あれは、もう何千年前になるかな……」
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