テラーノベル
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午後の授業、円や葉道(はど)、士は寝て過ごした。
「おーっ…わったぁ〜!!」
円が背もたれに寄りかかりながら伸びをする。
「終わったな」
「遊びの時間だ」
「「ふぅ〜!!」」
シェイクダンスを踊るように、某芸人さんの「ウウェ〜イ」のように肩を振るわせる円と葉道。
「終わったぁ〜…」
一方、こちらも台詞は同じだが、テンションが全然違う職員室。鳥愛(とあ)が自分のデスクに項垂れていた。
「お疲れ様です」
天美(あみ)が後ろの鳥愛のほうを向いて言う。
「んんー。この後も残って仕事だー」
「あ、そうなんすか?」
「うんー。今日からうちのクラス、体育祭の旗作り」
「あぁ…」
天美は鳥愛の背中に向かって合掌し
「ご愁傷様です」
と言いながら頭を下げた。
「クラス担任の先生方は大変ですね」
「そうなんよ…。天美ちゃんも残ってくれてもいいのよ?」
「まー…別にいいですけど、やることなくないですか?」
「いいんだ?」
と天美を振り返る鳥愛。
「まあ別に。鳥愛先輩はなんかするんすか?」
「いやしないけど」
「しないんだ?」
「うん。クラスの担任として残るのと
ま、うちのクラスの旗だからね?デザインとかいろいろ確認しないとだから」
「あぁ。で?私は残ってなにをすればいいんですか?」
「あ、ほんとに残ってくれる感じ?」
「あ、冗談だったんですか?」
「ま、半分」
「いや、どうせ書類整理とかプリント作ったりとかなんで、別に学校でもできるし
他の教科の先生とかクラス受け持ってる先生と比べたら全然時間あるんで」
「じゃあ、うちのクラスでいろいろ相談乗ってあげて。天美ちゃん若いし
うちの子たち(鳥愛の受け持っているクラスの生徒たち)とも感性近いでしょ」
「いや、鳥愛先輩も変わんないですって」
笑って言う天美。
「そう言ってくれるのは天美ちゃんだけだよ。…妹なんてまあ酷い酷い…」
と右手で額を掴むように項垂れる。
「あ、そうなんすか…」
「じゃっ」
っと言いながら立ち上がる鳥愛。
「ホームルームで天美ちゃんのこと伝えとくから、ま、天美ちゃんの好きなようにやってくれたらいいから」
「うす」
「旗作り参加してもいいし」
笑いながら言う鳥愛。
「生徒たちに言われたら考えます」
笑って返す天美。
「じゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
鳥愛が職員室を出ていく。ちょうど我希(わき)と入れ違いになる。
「奥樽家先輩はこれからホームルームっすか?」
我希が自分の席に座りながら天美に聞く。
「うん。今日から体育祭の旗作りだから残るんだって」
「あぁ〜。もうそんな季節か…。あのときは楽しかったなぁ〜…」
と口角だけ上げて笑っていない目で
「ははは…ははは…」
と棒読みで笑う我希。
「そっか、須藤くんってここ(達磨ノ目高校)のOBか」
「そうっす。あのときはテスト嫌だなぁ〜…と思ってるだけで
体育祭の旗作り、女子に言われて嫌々残ってるみたいな感じだったけど
神羽(じんう)と翔煌(しょうき)とクラスのみんなでキャッキャしながら楽しんでたなぁ〜…。
教師の立場になるとテストの嫌さがすごい…。作りたくないですもんね。
作って終わりじゃないですし。膨大な数の採点が待ってますし。
しかも、自分が高校生のときは赤点は取ってなかったですけど
友達の神羽がバカすぎて赤点取りまくるタイプで。でもオレは笑ってたし
赤点取った友達も笑ってましたけど、教師って立場になると…赤点は笑えないですよね。
補修用のプリント作り、再テスト作りとか、仕事増えるんでリアルに笑えないっていう…」
という我希の言い方に感情はなかったが、感情ある言葉の羅列に
「お…おぉ…」
としか言えなかった天美。
「葉道と蘭姉」
「兄ちゃん」
「とアイビルくんは残ってくれると」
円が確認する。
「万尋も虹言ちんも残ってくれるということで、楽しくなりそうですなぁ〜」
「ですなぁ〜」
葉道が円に同意してニヤニヤする。
「士も残れるっていうから、放課後鬼ごっこでもする?」
「ちょっと。あくまでもデザイン考えて旗作るために残るんだからね」
「わかってるってー」
わかっていなさそうな葉道。そんな話をしていると鳥愛が教室に入ってきた。
そして帰りのホームルームが始まる。
「この後体育祭の旗作りをするということで」
と言いながら鳥愛が円のほうを見る。円は大きく頷く。
「たぶん今日とか、あと数回はデザインについて話し合うと思うので
本格的な旗作りはまだだとは思いますが、一応私は職員室にいますし
応援というか手伝いというかで、家庭科の兄邏(けいら)先生が教室に来てくれるので」
「え!天美ちゃんが!?」
円が反応する。
「天美ちゃんの授業なくて寂しかったんだよねぇ〜。嬉しい」
円が言う。
「おぉ!天美ちゃんオレも好きだから嬉しいわぁ〜」
と葉道が言う。
「え、葉道、先生のこと好きなの?」
アイビルが聞く。
「ん?好きだけど?」
「告白とかした?」
「告白?…ま、すれ違ったときとかはよく言ってるかな。「天美ちゃん!愛してる!」とか」
「で、付き合ってるの?」
とアイビルが言うと蘭が
「相手にされてないって」
と笑いながら言う。
「仮に先生に気持ちがあっても、職を放棄してまで付き合おうと思うかどうか」
「あぁ〜?いつか天美ちゃんのハートをゲットしたんねん!」
と言う葉道に
「葉道うるさい」
と言う円。
「…そっか」
と呟くアイビル。そんなこんなで帰りのホームルームは終わり
帰る生徒、部活へ行く生徒がどんどん教室から出ていく。
「羽飛過(うひか)さん」
鳥愛が教卓付近に来た円に話しかける。
「はい!」
「じゃ、あとはお願いしていい?」
「はい!まっかせてください!」
胸にポンッ!っと拳をあてる円。後ろから円の頭に肘を乗せる蘭。
「大丈夫です先生。暴走犬のリードは握っときますんで」
と鳥愛に言う蘭。
「誰が暴走犬だ、誰が」
と上を向きながら言うが腕で蘭の顔が見えず、腕を避けようと頭突きをするように頭を動かす円。
「じゃ、お願いね?兄邏先生すぐに来ると思うから」
「はあぁ〜い」
「はい」
蘭と円が声を合わせて言う。鳥愛が教室を出ていく。アイビルも教室を出ていく。
「ん?アイビルどうしたん?」
「さあ。トイレじゃん?」
「奥樽家(おたるげ)先生」
と言う声に振り返る鳥愛。するとそこにはアイビルが立っていた。
「お、おぉ…。アイビルくん。どうかした?」
「あの…replicestの…。聴きました?」
「あぁ、AI:βくんの?」
「うっ…はい」
「聴いたよ?」
「どうでした?」
「どうでした?うぅ〜ん。ま、普通に気に入ったよ?朝も聴いてきたし」
「あ、そうなんですね」
「うん。アイビルくんも好きなの?」
「え?あぁ…。ううぅ〜ん…」
「好きじゃないの?」
「ううぅ〜ん。奥樽家先生のことは好きなんですけど…」
と悩みながらサラッっと言うアイビルに
「あぁ〜…」
と受け入れつつ流しそうになるが
「なに言ってんの!!がっ こ う!!」
と静かに床を指指しながら叫ぶ鳥愛。
「あ、そっか。学校では言わないって約束でしたね」
と微笑むアイビル。頷く鳥愛。
ま、学校ではとかいう問題ではないんだけどね…
とも思う。
「で、AI:βくんの新曲がどうかしたの?」
「いや、なんか感じたことあったかなって」
「感じたこと?」
腕を組み考える鳥愛。固唾を飲みながら見守るアイビル。
「…ま、あれ。自意識過剰って思わないでね?」
頷くアイビル。
「タイトルが私の名前みたいだなぁ〜、あくまでも“みたいだなぁ〜”とは思った」
と鳥愛が言うとパアァッっと顔が晴れるアイビル。
ぐっ…眩しい…これがイケメンか…。いや、若さか?
と思う鳥愛。
「そうですか。そっか」
嬉しそうなアイビル。
「よかった…」
嬉しそうな顔で呟くアイビル。
「それだけです。呼び止めてすいません」
「そお?いや、全然いいんだけど。アイビルくんも今日残るの?」
「あ、はい」
「じゃ、楽しんでね」
「はい」
鳥愛は職員室へ向かい、アイビルは教室に戻る。
「あ、おかえりなさーい」
天美に迎えられる。
「ただいまー」
「じゃ、私はどうすれば?」
「天美ちゃんが行きたいタイミングで私のクラス行ってくれたら」
「ふうぅ〜ん…。じゃ、少ししてから行こー」
「さて!」
教室では教卓にドンッっと手を置いた円が教室を見渡していた。
「こ、こんだけか」
教室には2年E組の生徒の1/4ほどしか残っていなかった。
「まーしゃーないだろ。みんな部活もあるし、士も部活あるもんな?」
葉道がイスに座った状態で自分机に足をクロスして乗せ、イスを斜めらせて、前後にゆらゆらしながら言う。
「ま、部活で参加できない日もある」
「なあ?」
「それに部活対抗でサッカー部はバスケ部に勝たないといけないから」
「いけないんだ?」
「いけない」
「ま、たしかに部活対抗って異様に盛り上がってたよな」
蘭が言う。
「たしかに。喧嘩か?って思うほど、ううぉ〜!!ってなってたよな」
「先輩に聞いたら毎年ああらしいよ」
「ま、うち(達磨ノ目高校)はな?そういう学校だって受験前から聞いてたし」
とアイビル、士、葉道、蘭の男子4人は近くに固まって話していた。
「じゃ!」
と円がチョークを持って黒板になにかを書く。教室の全員が黒板を見る。
デザイン決め!!
と書いた円。
「わざわざ書くことか」
と笑いながら呟く万尋。
「文字が下すぎる」
と言う蘭。
「チビだからしょうがない」
と言う葉道。
「なんか言った?」
円がジッっとした目で葉道を見る。
「なんも?」
と言った後
「地獄耳すぎるだろ」
と小声で言う葉道。
「どんな感じー?」
と天美が教室に入ってきた。
「天美ちゃーん!」
と言いながら天美に抱きつく円。
「おぉおぉ。ひさしぶりに実家に帰ったときの姪っ子の反応」
「たしかに」
と呟く万尋。
「今はなにしてんの?」
と天美が聞く。
「まだデザインをどうするかってのを決める段階」
「そっかそっか」
「天美ちゃんはどんなデザインがいいと思う?」
「どんなデザイン…。どんなクラスか知らんからなぁ〜」
「どんなクラスか?」
「うん。こーゆーのってクラスの特色とかで決めるんじゃないの?」
「あぁ〜…」
と円が考える。天美は廊下側の1番前の席に座る。円が悩んで悩んで視線を動かした先にアイビルがいた。
「おぉ」
アイビルを見てなに閃いた円。
「アイビルくんじゃん」
「え?」
急に名前を呼ばれて目を丸くして自分を指指すアイビル。
「そうそう」
天美もアイビルのほう見る。
あぁ、気づかんかったけどあの子がそうなのか。たしかにイケメンだな
と思う天美。
「アイビルくんが転校してきて、ビックリするほどイケメンで」
「いやいや…」
「オレの次にな」
と葉道が言う。
「アイビルくんの顔をどーんと描いて、アイビルくんイギリス出身だから英国の旗の柄もどーんと描いて」
と身振り手振りで説明する円。
「でもそれだとクラスのってよりアイビル?くんの旗にならない?」
と天美が言う。
「たしかに」
と笑う万尋。
「そっか…」
と教卓に肘をつきもう一度悩む円。
「あ、いや、みんながいいならいいんだけどね?」
と天美が補足する。
「いや、さすがに個人応援すぎるってうちも思いました」
「でもイギリス国旗のアイデアはいいかも」
と蘭が言う。
「たしかにそれはおされね」
と万尋も同意する。
「じゃあどっかに」
チョークを持つ円。
「イギリスの国旗の柄は入れると」
と言いながら黒板に「イギリスの国旗」と書く。
「国旗の「き」、間違ってる…」
と虹言が呟く。万尋がそれを聞いて黒板の字を見る。「旗」の字の方偏が禾偏になっていた。
「ほんとだ。間違ってる」
しかし気づかずに話を進める円。
「イギリスの国旗入れるとしたら、文字は英語のほうがカッコいいかもね」
「なるほど?」
「なんかことわざとかないの?イギリス特有の」
蘭がアイビルに聞く。
「こ、ことわざ?」
「ことわざ。あぁ〜…英語ではなんていうのかな」
「ことわざね。ことわざは知ってるよ」
「あ、そうなのね」
「カッコいいのない?英語のことわざ」
そこからアイビルが英語のことわざをいろいろ言ったり、それぞれスマホで調べたりしていた。
「No pain,no gain.は?」
士がスマホ見ながら言う。
「聞いたことある!なんだっけそれ」
葉道が言う。
「痛みなくして得るものなし。って書いてある」
「あぁ〜…。知らんかったかも」
「似てるかもしれんないけどNothing ventured,nothing gained.は?」
「「なにそれ」」
葉道と円が声を揃えて言う。
「えぇ〜っと、挑まなければなにも得ることはできない。的な?」
「「へぇ〜」」
また葉道と円の声が揃う。
「いいんじゃない?体育祭っぽい」
万尋が同意する。
「いいと思います」
虹言も同意する。
「いんじゃね?」
葉道も
「だね。士の言ってくれたNo pain,no gain.感もあるし」
蘭も
「ま、オレはなんでもいいけど」
士も同意する。残っていた他の生徒も同意してくれた。
「では!ということで!文字はナッシング…。なんだっけ?」
「Nothing ventured,nothing gained.」
円はチョークを持って黒板に書こうと腕を上げて、考えて下げて
もう一度上げて下げて、結局アイビルにチョークを渡して書いてもらうことにした。
「ということで、文字はナッシング ヴ、エ、ンツルド、ナッシング ガインドに仮決定ということで!」
「あぁ〜、ベンチャーってアドベンチャーのベンチャーなのか」
と蘭が黒板の文字を見て納得する。
「なるほどな!」
葉道が納得する。
「あとベンチャー企業とかのベンチャーもこれか」
「あぁなるほど」
士も納得する。
「クラスLIMEにこの写真送信して、みんながいい感じならこれで決定で」
「ほーい!」
「ま、あとはそうだなぁ〜…。決定するまで進められないので…。今日はこれにて、解散っ!」
ということでその日はそれで解散となった。
「気をつけて帰ってねぇ〜」
天美が手を振って教室から出ていく。
「天美ちゃんバイバーイ。また来てねぇ〜」
円が手を振る。
「考えとくー」
「天美ちゃんいいわぁ〜。先生なのに緩い感じ」
「ま、兄邏先生は諦めとけ」
とポンッっと葉道の肩に手を乗せる蘭。
「諦めませーん。言い続けまーす」
「虹言ちん、万尋ー、帰りなんか食べて帰らない?」
「別にいいけど」
「少しなら」
「しゃー!いこー!」
と生徒たちは帰っていった。
「ただいま戻りましたよーっと」
天美が職員室に帰る。
「あ、おかえり。どんな感じ?」
「今日はもう終わりということで、みんな帰りましたよー」
「え、あ、そうなの?」
「はい。文言とか方向性は決まったけど、クラスの子全員に聞いてから固めてデザイン決めるそうです」
「なるほどねぇ〜」
「懐かしいなぁ〜。楽しそうですねぇー」
感情を込めようとしているが感情の込もっていない言い方で
キーボードを叩きながら言う我希。
「重いわ」
「重いっすね」
その後少し職員室で仕事をしてから帰ることにした鳥愛。
駅でワイヤレスイヤホンをつけて、MyPipeのアプリを開いて
「replicest」のチャンネルからAI:βの新曲を聞こうとして思い出す。
アイビルくん、この新曲について私に聞いてきたけど、あれなんだったんだろう…
アイビルくんもreplicest好きとか?でもそれ聞いたときの反応ビミョーだったし…
私の好きな曲の傾向を聞いて、似たような感じの
おすすめの曲とかアーティストを教えてくれようとしてる、とか?
「んん〜…」
思わず悩みの声が漏れた。
「ただいまぁ〜」
家に帰ってきたアイビル。
「おかえりぃ〜」
シノが出迎える。
「今日は遅かったね。なんか入りたい部活でもできた?」
「いや?体育祭の旗?作りの話し合いみたいのだった」
「あら楽しそう。私も高校生になろうかな」
「やめてくれ。同じ高校に通う2人が同じ家に住んでるって、なんか変な誤解受けそうだから」
「それもそうか。…ん?誤解受けたくないってことはー…」
ニヤッっとするシノ。
「もしやぁ〜好きな人できちゃった感じですかぁ〜?」
とにじり寄りながら聞くシノ。
「いや?」
と背を向けたまま言うアイビル。
「お、違ったか。私の勘が外れるとは」
とシノが言うと、アイビルは振り返り
「大好きな人ができた」
と微笑みながら言った。
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