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「師匠! 初級ポーションができました!!」
レティシアさんが、元気な声で言ってくる。
自分のノルマを終わらせてしまったので、私は錬金術師のみなさんにいろいろと教えているところなのだ。
ちなみに例の賭けは結局有効ということになって、レティシアさんは私のことを『師匠』と呼ぶようになっていた。
……そう呼ばれると、彼女のことがとても可愛く見えてしまう。
何だか実際、犬みたいな感じに見えてきたし……。
「鑑定では、B-級のようですね」
「おお、マジですか! 私、C+級以上は全然作れなくて……。
師匠に教わった途端にコレとは、さすが神器の錬金術師さま!」
「レティシアさん。呼ぶときは『神器の魔女』の方でお願いします」
「し、失礼しましたっ! さ、さすが神器の魔女さまっ!!」
「そうそう、よくできました」
「えへへー♪
……ところで師匠!!」
「はい?」
「神器って、錬金術で作れるものなんですか!?」
レティシアさんの言葉に、周囲の空気が変わるのを感じた。
近くの錬金術師たちは、息を殺して耳を傾けているようだ。
神剣――『剣』を作るのだから、普通に考えれば錬金術ではなく鍛冶の分野ではありそうだ。
まさか錬金術で神器を作るだなんて、あまり思い至ることは無いだろう。
「私は実際に、錬金術で作りましたよ。
ただ、元となる剣は鍛冶屋さんに作ってもらったんです」
「へぇ~……。その剣に、錬金術で力を吹き込むっていう感じですか?」
「簡単に言えばそんな感じですね。
あとは金属部分をまるっと置換しました。素材にはオリハルコンとミスリルを使う必要あったので――」
「オ、オリハルコン……ッ!?」
話の途中、そんな声が聞こえてきた。
そういえば私も、実物を見たのは王様からもらったときが初めてだったっけ。
オリハルコンなんて代物、見る機会なんて滅多にないものだからね。
レティシアさんはその話を聞きながら、尋常では無いほどに目をキラキラと輝かせていた。
「オリハルコン、見てみます?」
「もちろんです!!」
「本当ですか!?」
「持ってるんですか!?」
「是非!!」
「お願いします!!」
「――うわぁっ!?」
気が付けば、私のまわりには錬金術師たちが集まってきていた。
そもそも錬金術師なんていうのは、知識と好奇心の塊のようなものだ。
貴重なものを見る機会があれば、それを逃す手は無いというものだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
場を鎮めてから、工房のテーブルを全員で取り囲む。
私はそのテーブルの上に、オリハルコンの小さな塊を置いた。
……もちろん、せっかくなのだから実際に手に取ってもらえるようにしたのだ。
「まずは、弟子である私が……!!」
まわりの年上の錬金術師たちを差し置いて、レティシアさんがひょいっと塊を持ち上げた。
他の全員がそれを微妙な目付きで見ていたが、『魔女の弟子』という肩書きの前では、何も言うことが出来ないようだった。
彼女がオリハルコンを撫でまわしていると、その間に錬金術師の男性が聞いてきた。
「アイナ様、このオリハルコンはご自身で作ったものですか?」
「いえ、これはヴェルダクレス王国の王様から頂いたものです」
「何と……、王様から……っ!?」
……嘘では無い。
過程は置いておいて、嘘では無い。
「で、ですがアイナ様は、王国から指名手配を――」
「あはは。それはそれとして、オリハルコンは正式な流れを踏まえて頂いたものなんですよ。
そのあといろいろあって、指名手配をされたんです。
……ちなみにオリハルコンを錬金術で作るとなれば、『賢者の石』が必要になりますね」
「おお、『賢者の石』……!!」
私の言葉に、全員がまたもやどよめいた。
この世界においては――多くの創作物でもそうだけど、『賢者の石』は錬金術の最高峰に位置付けられる。
これもまた、滅多にお目に掛かれない代物なのだ。
「も、もしかして『賢者の石』もお持ちなので……!?」
その錬金術師の声に、まわりの錬金術師の目もギラッと光る。
「すいません、『賢者の石』は素材が無くて作れていないんです。
素材があれば、すぐに作っちゃうんですけど」
「え? すぐに……?」
「師匠! もしかして『賢者の石』も、初級ポーションと同じ感じで作れちゃうんですか?」
レティシアさんは、持っていたオリハルコンを隣の錬金術師に手渡しながら言った。
手渡された先では、我先にと奪い合いが始まっている。
「私はどんなものでも、あんな感じで作ることができます。もちろん、普通の手順でも作ることは出来ますが――
……あ、でも神器だけは例外でしたね。あれは時間が掛かりました」
「さ、さすがにそうですよね! どれくらい掛かったんですか?」
「何分かは掛かったと思いますよ。でも、5分は掛からなかったと思います」
「5分……」
「神器までそんな時間で……」
「凄い……」
「何をどうやれば……」
「確かに、錬金術師というか――」
私のスキルは錬金術関係のものばかりだけど、それを総合すれば、もはや錬金術師としては収まらない状態になっている。
だからそういった意味でも、呼び方は『錬金術師』よりも『魔女』の方がしっくりくるかもしれない。
「――あっ!!」
そんな話で錬金術師たちを呆気に取らせていると、突然一人の錬金術師が声を上げた。
手にしていたオリハルコンを、別の男性に強引に取られてしまったのだ。
そしてそのまま、その男性は外に向かって走り始めた。
……盗んで売れば、信じられないくらいの大金になるからね。
おそらく、ついつい魔が差してしまったのだろう。
さて、私の錬金術の射程からは外れてしまったから――
「アイス・ブラストッ!!」
「ぎゃっ!!?」
工房の外に出る前に、私の放った氷の塊が容赦なく男性の背中に命中した。
男性はそのまま、前のめりに地面に倒れ込んでしまう。
「――錬金術をやっていると、目の前に誘惑がぶら下がることがあります。
自分を保ち、冷静に行動することを心掛けましょう」
私は倒れた男性に近付くと、地面に転がっていたオリハルコンを拾い上げ、そのままアイテムボックスにしまった。
「ひ、ひぃい……。
申し訳ありません、アイナ様……!!」
「師匠! 騎士団に突き出しますか!?」
レティシアさんは怒りながら、男性を睨みながら声を荒げた。
盗んだことも許せないが、同じ錬金術師として情けなく感じたところもあるのだろう。
「今、そんなことのために騎士団の人手を割くわけにはいきませんよね。
それに貴方も、後悔して反省していますよね?」
「も、もちろんです……!
そのご慈悲に感謝いたします……っ!」
男性は必死に礼を述べた。
私は自らの行いを振り返り、反省していける人は好きだ。
だからここは、私刑という形で済ませてあげることにしよう。
……見ればこの男性、年齢は30歳前後といったところか。
それじゃ、これかな……。れんきーんっ。
バチッ
私は薬を作って、男性に渡してあげた。
「え? ……アイナ様、この薬は一体……?」
「永久脱毛剤。頭に掛けると、素敵なことが起こりますよ」
「そ、そんなことをしたら、私の髪の毛が……!?」
「……反省しているんですよね?」
「ひ、ひぃっ!?」
私の笑顔に、男性は恐怖の表情を浮かべた。
彼は私と薬を交互に見ていたが、しばらくすると観念して薬を頭に掛け始めた。
すると、ある程度豊かだった髪の毛がはらはらと抜け落ちていく。
「――魔女だ……」
錬金術師の誰かが、ぼそっと呟いた。
私が求める『魔女』とは何かが違うけど、とりあえずそう呼んでくれたことは評価しよう。
このまましっかり反省してくれたら、毛生え薬をあげても良いかもしれないけど――
……でも今は反省を促すために、とりあえずは何も言わないでおこうかな。ふふん♪