「ん……」
夜中、息苦しさで起こされた愛理は、体に違和感を感じた。そして、だんだんと意識がハッキリしてくると、自分の足の間で、黒い影がモゾリと動くのがわかった。
「え⁉」
「愛理、起きた? 久しぶりにいいだろう?」
そう言った淳の口元が歪んでいるのが、暗い部屋の中でやけにはっきりと愛理には見えた。
すでに下着は降ろされ、下半身はむき出しになっていた。太ももを抱えられ、がっちりと体重が掛かり淳の体温が直接伝わる。
その行為にゾワリと肌が粟立つ。
「やだ……やめて」
「なに言ってんだよ。夫婦の間で、いやだも何もないだろう。本当は嬉しいくせに、昼間は悪かったよ。そんなに怒るなよ」
淳は 猫なで声を出しながら、愛理のパジャマの隙間へ手を滑り込ませ胸の膨らみを掴む。節のある大きな手を蠢めかせ、指先でその先端をキュッと摘まんだ。
「いや……痛っ」
「ほら、固くなってきた。感じているクセに……」
胸を触られれば、知覚神経が刺激され、胸の先端は反射的に固くなる。でも固くなったといっても感じているわけじゃない。
半年ぶりに体を重ねるというのに、ロクに前戯もない状態で、愛理の茂みの奥へ、淳は入り込もうと体を推し進めてくる。そんなことをされても、愛理には苦しいばかりで、攣れるような痛みがピリッと走る。
「つうっ……や……だ」
「なんだ、相変わらず濡れにくいんだな」
そう言って、淳は眉根を寄せ、息を吐き出しながら、腰を進める。ベッドに縫い留められるように体重を乗せられ、愛理は逃げ出す事も出来ずにそれを受け入れるしかなかった。
「うっ……や……やだ」
「ほら、そんなこと言っても濡れてきた」
クチュッと粘りのある水音が聞えた。自分の体を守ろとして、濡れだしているのだ。けして、感じて濡れているわけじゃないのに、AVの間違った知識を鵜呑みにして、女性の気持ちに寄り添わない身勝手なSEXをする淳には、理解できない。
「ちが……う……いや」
「濡れたからって、恥ずかしがるなよ」
愛理の瞳には、ジワリと涙が浮かぶ。
「もう、やめて……」
暗い部屋の中で、ベッドのスプリングがギシギシと軋む音が響く。
淳は久しぶりに愛理の深い所まで味わい、気持ちが高揚していた。
「イヤ……」
時々、ベッドに縫い留めた愛理の声がする。それは、拒絶の言葉のようだが、淳には喘ぎ声としか聞こえていなかった。
なぜなら、夫婦の間で拒絶などないと淳は思い込んでいるためだ。
腰の動きと共に早くなった鼓動、そして、ハァハァと肩で息をしながら、淳は自分を追い上げる。
長い付き合いの中で、愛理が自分の世話を焼いているのを当たり前のように思っていた。そして、女としての魅力を感じなくなっていたのも事実だ。
慣れた存在は居心地はいいが、毎日同じ料理を食べていたら飽きてしまうように新鮮味に欠けるSEXは、味気無い。
──もっと、愛理が積極的なら、楽しむ事も出来るのだろうが、真面目なのも考え物だ。
真面目で、優しい良い妻。それが周りの愛理への評価。
それで、満足しなければいけないのだが、どこか物足りない。
付き合い始めたばかりの胸のときめきを追い求めているわけじゃない。けれど、時折、胸が弾むような出来事が、欲しくなってしまう。
──愛理の魅力に気付いた男に攫われる……か。
確かに言い過ぎてしまったかもしれないが、翔があんな反応をするとは、思わなかった。
まさか、愛理のことを本当に狙っているとか無いよな……。
この夜の出来事は、 Make loveとは程遠いSex。
それは、マウンティングともマーキングともいえる行為だった。
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