クマサンの前で、新人ちゃんが「けんしゅう、受けます!」と元気に言ったのを、
恒とひろは少し離れたベンチから見ていた。
恒は、ペットボトルをくるくる回しながら言った。
「元気だね。あのテンションで研修入るの、逆にすごい。」
ひろは、手袋を付けながら答えた。
「たぶん、最初のシャケで叫ぶ。」
「叫ぶね。絶対叫ぶ。」
ふたりはそれ以上何も言わず、
新人ちゃんが研修エリアに消えていくのを見送った。
──数十分後。
ミナミが戻ってきた。
ヘルメットを外しながら、顔には微妙な表情が浮かんでいる。
「……え、なにあれ……シャケってあんなに来るの……?
ていうか、バクダンって何……? あれ、……?」
恒は、ちらっと新人を見て言った。
「おかえり。」
ひろは、工具をしまいながら言った。
「生きて帰ってきたなら合格。」
ミナミは、少しだけ笑った。
でも、目はまだ研修の余韻を引きずっている。
「こわかったけど……なんか、ちょっと面白かったかも……」
恒は、ペットボトルを机に置いて言った。
「それ、前兆。」
ひろは、静かにうなずいた。
「次、バイト入る?」
ミナミは、少しだけ考えてから言った。
「……うん。やってみたいかも。」
ふたりは、それ以上何も言わなかった。
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