「ただいま…」
鍵を開け、湊が帰ってきた。
暖簾からシンが顔を出す。
「湊さん、おかえりなさ…?」
湊の後から知らない男が現れた。
「こんばんわー」
「どちら様ですか」
シンの顔付きが変わる。
明らかに不機嫌になった。
「シン…こいつは高校の時の同級生で…」
慌てて湊が説明しようとすると
「武田です。よろしく。ってかずいぶんと広い家だな…」
武田と名乗る男は部屋中を見渡して言った。
「じぃーちゃんと、ばーちゃんが前に住んでた家なんだ…」
湊が説明すると、武田はシンを指さして
「で、なんでこのイケメンくんが居るんだ?」
不思議そうに湊に尋ねる。
「えっ…と…それは…」
どう説明して良いかわからない湊は口ごもる。
「あんたには関係ない」
シンが冷たくあしらう。
そしてぷいっと背を向けると暖簾の奥に消えた。
「俺なんか怒らせるような事言ったか…?」
理由がわからない。と、武田は困惑する。
「とにかく。上がれよ」
促すように家にあげた。
湊はキッチンで夕食の準備をしているシンの元に向うと
「湊さん…どういうつもりですか?オトコを連れて帰るなんて!」
案の定機嫌が悪いシンは湊を問い詰める。
「声がでけぇーよ。シン。聞こえるだろっ…」
「わざと聞こえるように言ってるんですけど!」
「だいたいオトコなんて言い方すんな。同級生だって説明しただろっ」
「同級生でもオトコじゃないんですか?同級生だろうが、先生だろうがオトコはオトコでしょ?」
「くだらねぇ屁理屈こねてんじゃねーよ!ってか、先生は今関係ないねーだろっ!」
シンはふぅーと溜め息をつくと
「あの人何しに来たんですか…?」
今度は冷静に聞くが
「…奥さんと喧嘩したらしくて家追い出されたって店訪ねてきたんだよ…」
湊の説明に納得いかないシンは
「はあぁぁ?家は避難所じゃないんで…俺ひと言忠告してきます!」
武田の元へ向う。
「ちょちょちょ…シンちゃん…!」
湊が慌ててシンを追いかける。
リビングでくつろいでいる武田の前に立つとシンは
「家(ここ)は避難所じゃないんですけど」
「はぁ…?」
「今夜泊まるんですか?」
冷たい口調で問う。
「迷惑?」
「はい。とっても」
シンは即答した。
「素直だね~」
そう言って武田は笑う。
「おいっ!シン!…悪いな武田」
シンを制止し、武田に詫びる。
しかし武田は
「面白い子だな笑」
楽しんでいる様にみえた。
「面白くないです」
真面目な顔でシンが答える。
武田は口の端を上げながらニヤリッと笑うと
「決めた。晃、俺今日ここ泊まっていくわ」
そう宣言する。
武田の言葉にシンは
「はぁ?」
呆れながら睨む。
「まぁまぁまぁ…いいじゃねーかシン。ひと晩くらい…」
湊が仲裁に入る。
「だってよ。シンちゃん」
からかう様にシンに向かってそう言った。
「……シンちゃんって呼ばないでもらえますか」
シンの顔は無表情だった。
「つれねーな…笑」
「…」
表情を変えないシンの肩が怒りで震えているのが湊にはわかった。
「シン……っ」
今にも殴りかかりそうな目で武田を睨んでいるシンを止める。
黙って首を横に振る湊を見てシンはゆっくり瞼を一度閉じ、目をあけると
「湊さんがそこまで言うなら仕方ありません。でも明日には帰ってください」
渋々了承した。
「はいはい」
あどけながら武田が答える。
怒りを抑える為にシンは
「俺、夕飯の準備してきます」
キッチンに戻る。
「ごめんな。武田…」
「嫌われてんな俺笑」
「気にすんな。ゆっくりしてけよ」
「お言葉に甘えてゆっくりさせてもらうわ」
テーブルに並んだシンの手作りの料理に
「すげぇな。お前がこれ全部作ったの?」
武田は感動する。
「俺が湊さんのために作りました」
強調してシンが言った。
「晃うめぇーよ。イケメンくんなのに料理も出来んだなー」
武田の言葉一つ一つにムカついていたが、
「ご飯よそってきます」
落ち着く為に再びキッチンへと向かった。
「俺も手伝うよ…」
湊もシンの後を追ってキッチンへと向う。
「シン。怒ってる?」
「怒ってないように見えますか?」
「………怒ってるな」
「なん回も、晃、晃って呼び捨てにして…ムカつく…」
「仕方ねーだろ10年以上前からの付き合いなんだから。そんなんでいちいちイラついてんなっ」
シンは両手で顔を覆うと
「せっかく湊さんとゆっくりできると思って楽しみにしてたのに…」
残念そうに言った。
「悪かったよ…」
伏し目がちに湊が言う。
「本当に悪いと思ってる?」
顔を覆っていた指を左右に開き、目を出しながら湊に聞く。
「ああ…」
「じゃ、キスしてください」
「はあ?おまっ…何言ってんの? 」
慌てる湊を察して
「冗談です」
すぐに訂正する。
「…」
湊は黙ったままシンに近づくと、
「湊さん……?」
「本当に悪いと思ってるよ…ごめん…」
そのままシンを抱きしめる。
「………ほんと…あんたにはかなわねーよ… 」
シンも湊を抱きしめた。
「食った食った…ずっと気になってたんだけど、晃とイケメンくんはどんな関係?」
「かっ…関係って…ただの友達だよ…なっシン?」
「……」
シンは答えない。
「10も離れた友達ね〜…」
「そんなことより。武田。風呂入って来いよ。布団敷いておくから」
「いーよ。面倒だから晃と一緒の布団で」
「……」
食器を片付けていたシンの動きが止まった。
「落ち着けシン……。武田。悪いけど、それはちょっと…」
「俺とお前の仲なんだし、気にすんな」
「…!!」
シンは持っていた食器をテーブルに強く置く。
「シン…やめろっ!」
止める湊の言葉に従う。
「なんでそんなに怒ってんの、このイケメンくん?」
「布団はここに敷きます」
武田を睨みながらシンが冷たく言う。
「はいはい。どこでも寝れるんでお任せします」
「湊さん…?寝ちゃいました…?」
「どうした?」
「少しだけで良いんで一緒に居たいです」
「でも…」
武田が居る方を向いて湊が言った。
「イビキかいて寝てます…」
「……」
「せっかく湊さんと住んでいるのに2人きりになれないのはツライです…」
「……いいよ」
武田が来てからずっと我慢していただろうシンを優しく受け入れる。
「湊さん暖かい…」
湊に抱きしめながらシンはやっと安堵の表情を浮かべる。
「今日は悪かったなシン…」
「俺もすみませんでした。子供みたいな態度をとってしまって…」
「お前は悪くないよ…」
「湊さんとこうしていられるだけで俺は嫌な事全部忘れられます…」
「…シン」
「キス…していいですか?」
寝ている武田が気になったが
「……うん」
湊はシンの言葉を受け入れた。
シンはそっと湊の唇にキスをする。
やっと訪れた2人だけの時間。
シンは唇を離すと
「……やっぱりだめだ…キスだけじゃ足りない………」
そう言って湊を押し倒す。
「おぃ…っ」
「あんたが欲しい…」
シンは上着を脱ぎ捨てると、湊の服を脱がし始める。
「シン…やめっ……起きちゃう…」
開けた湊の肌を愛撫する。
「湊さん…今夜は声………抑えてください…」
「んっ……っ」
湊の部屋からシンが出ると
「よぅ…」
武田が声をかけてきた。
「起きたんですか」
「お前さ。晃と、本当はどんな関係?」
「聞いてどうするんですか」
「どうみてもただの友達…ってわけじなさそうだよな…」
「さぁ…」
「お前、ゲイなの?」
「だったら?」
「うそっ」
「安心していいですよ。俺は湊晃以外勃たないんで」
「さらりとすごい事言うね〜」
シンは武田を睨み、声のトーンを低くして
「あなたがあの人を傷つける様な事をするなら俺はあなたを一生許さない。俺たちを侮辱するなら、今すぐ出て行ってください」
玄関を指差す。
「そんな事しねーよ。ってか逆だ。安心した。歳は離れてるけどお前みたいなのが晃の側に居た事が」
「どういう意味ですか?」
「あいつさ、俺等とつるんでる時無理して合わせようとしてんのバレバレで。何か隠してんじゃねーかと思ってたけど…久しぶりに来た同窓会でもまだ独りだって言ってたから心配してたんだ」
「…」
「あいつ良い奴だから。頼んだよイケメンくん」
「あなたに頼まれなくても一生離れるつもりないんで」
「それは良かった」
「……」
「んっ?どうした」
「……今の話。湊さんには言わないでください」
「それは…?」
「あの人は必死になって隠していたんです。傷つくのを恐れて…」
「わかってるさ。言わねーよ」
「……じゃ、俺寝るんで」
「おう。おやすみ」
「すっかり世話になったな」
「またいつでも来いよ」
「あいつはそうは思ってないみたいだけど…笑」
朝食の片付けをしているシンに向かって武田が言う。
「……」
聞こえないのかシンから反応はない。
「じゃ、行くわ」
玄関の扉を開けると
「慎太郎!昨夜の約束忘れんなよっ」
そう叫ぶ。
「約束ってなんだ?」
湊が不思議そうに聞く。
「ナイショ。じゃな…」
武田は帰って行った。
「あんたこそ忘れんなよ」
洗い物をしながらシンは小さく呟いた。
あれから何度かコインランドリーで武田に会ったが、相変わらずの態度で湊に接している。
安心してはいるものの、シンの内心は複雑だった。
【あとがき】
※追記
作中でわかりにくいかなと思ったので少し補足させて下さい…
武田にゲイなのか聞かれた後のシンの答え方についてですが、2つの意味があります。
1つ目は、自分はゲイでは無いが説明するのが面倒である。
2つ目は、ゲイである湊を守る為にあえて自分もそうかもしれないと匂わす事で湊の盾になり、武田の反応を見たかった。
それをふまえてお読み頂くと、シンの答え方が腑に落ちると思います。
わかりずらい書き方で、すみません……
ドラマではちょこっとしか登場しなかった武田くん。
素性不明なのでこちらも作者の妄想で…笑
シンが湊と湊以外の人と接する温度差を表現したかったんですが上手く伝わっていますかね…
しんみな 書くのは楽しいですね♪
また、次回作でお会いできますように…
月乃水萌
コメント
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毎日読んでしまうくらい好きな作品です!!次の作品も楽しみにしてます!