戦場の花

第十一章：夜の「浄化」と、リヴァイの密かな優しさ噂と夜の訪問

エルヴィンがサクラの体を抱擁したという「噂」は、リヴァイの心を深く乱した。彼の怒りは激しかったが、前回のような衝動的な暴力ではなく、今回は**彼なりの最も穏やかで、最も有効な「解決策」**を選んだ。それは、徹底的な浄化だ。

その夜、サクラが三者会議の準備を終え、ベッドに入ろうとしていたとき、ノックもなく部屋の扉が静かに開いた。

そこに立っていたのは、真新しいタオルと、上質な石鹸を手に持ったリヴァイ兵士長だった。

「ひ、兵士長！？」

「黙れ。声を出すな」リヴァイは、静かに、しかし有無を言わせない威圧感で言った。「お前は、団長に抱きつかれたそうだな」

サクラは、その言葉に、昨夜の泥酔以上に顔が熱くなるのを感じた。

「そ、それは…話し合いの流れで、団長が…」

「言い訳は不要だ。いいか、サクラ。俺は、お前が不必要な感情の接触によって『汚れる』のが許容できない。お前は、俺の、この世界で唯一の『清潔な光』だ。その光が、あいつの野望と欲望に塗れた感情に触れるのは、耐えられない」

リヴァイの瞳は、怒りよりも、むしろ深い悲しみと切実な独占欲に揺れていた。

「いいか。今から、風呂に入るぞ」

「え…っ、風呂ですか？」

「そうだ。俺の作った休憩計画に、**『緊急浄化措置』**が追加された。俺が、お前の体の隅々まで、団長に触れられた記憶と感情の汚れを、徹底的に洗い流してやる」

二人きりの「浄化」の儀式

リヴァイは、サクラを自分の兵士長専用の清潔な浴室へと連れて行った。そこは、隅々まで磨き上げられ、湯気一つない完璧な空間だった。

リヴァイはサクラに優しく指示した。「いいか、湯の温度は熱すぎず、ぬるすぎず。肌を傷つけるな。…脱げ」

サクラは戸惑いながらも、その切迫した空気に逆らえず、服を脱いだ。リヴァイも、シャツを脱ぎ、サクラの隣の洗い場に座る。彼は、サクラの小さな背中に、たっぷり泡立てた石鹸の泡を乗せた。

「力を抜け。…俺の愛用するこの石鹸は、どんな汚れも落とす。お前の体から、あいつの抱擁の残滓を、全て洗い流す」

リヴァイの指先は、まるで宝物を扱うかのように、極めて優しく、丁寧にサクラの体を洗っていく。特に、エルヴィンが抱きしめたであろう肩から背中にかけては、入念に、何度も何度も泡を立てた。

「大丈夫ですか、兵士長…。そんなに丁寧に洗わなくても…」

「うるさい。これは俺の任務だ。お前は何も考えず、ただ俺に身を委ねろ」

彼は、サクラの体を清めることで、エルヴィンに抱きしめられたという事実を、物理的にも、心理的にも「無かったこと」にしようとしていた。

独占欲と囁き

リヴァイは、サクラの肩に顔を寄せた。湯気と石鹸の香りに包まれた空間で、彼の声はいつもよりずっと穏やかで、そして切実に響いた。

「…サクラ。お前は、誰の許可も得ずに、無防備になるな。特に、あの団長の前では。あいつは、お前の全てを、戦略という名目で手に入れようとする。だが、俺は違う」

リヴァイは、サクラの耳元に囁いた。

「俺は、お前の**『清潔さ』と『安らぎ』**だけを求めている。お前が俺の傍にいれば、誰も、お前を汚すことはできない。誰にも、お前の純粋さを奪わせない」

それは、**「俺が君の心身を独占するから、君は安心して俺に頼ってくれ」**という、リヴァイ兵士長なりの、最も過剰な愛の表現だった。

サクラは、彼の指が自分の肌に触れる温かさと、彼の切実な言葉に、胸が締め付けられるのを感じた。彼女は、静かにリヴァイの腕に寄りかかった。

「…ありがとうございます、兵士長。もう、大丈夫です。…綺麗になりました」

リヴァイは、サクラが自分の庇護を受け入れたことを確認し、満足したように目を閉じた。

（これでいい。この清潔な体と心は、俺だけのものだ）

彼の心は、嫉妬の炎が鎮火し、再びサクラへの深い愛情と独占欲で満たされたのだった。