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そして市長の次の言葉が、市の商工会議所のメンバーである市議数人を賛成派に回らせた。
「私の、我が市をLGBTQ受け入れ先進自治体にするという案が通れば、そういう同性愛カップルのための生殖医療施設を市内に開設したいという提案が来ております。それが実現すれば、市内の雇用創出、経済振興、ひいては税収増につながる可能性もあります」
市議会ではそれ以来、賛否が拮抗するようになった。だが、市民はまだ反対派が圧倒的に多数を占めていた。
話を聞きつけた、都内に本部を置くLGBTQ支援団体が市長に面会を求めてきた。LGBTQの隔離を狙った政策ではないかという公開質問状が市長に届いたのだ。
市長は全国紙、全国ネットのテレビ局、ネットメディアの記者を招いて、その団体との質疑を公開で行った。
市の文化会館で行われた公開質疑で、まずそのLGBTQ団体の代表である30代とおぼしき知的そうな女性が、真意を質した。
「LGBTQは東京都心から出て、この街に住め、という趣旨ではありませんか?」
まず、コンサルタントの男が質問に答えた。
「この案は、あくまで、LGBTQの方々に、安心して暮らせる専用居住区を提供したいという趣旨です。決して差別して隔離しようなどという発想はございません」
団体の副代表のゲイの若い男が重ねて質問した。
「ではどうしてLGBTQそれぞれの居住区を分けるのですか?」
「性的マイノリティの方々が、それぞれの嗜好に応じて、ヘテロセクシュアルを含む、他のグループの方々と、お互いのプライバシーを守りながら共存するためには、居住区を分ける方が良いという判断です。それに、居住区の選択はあくまで、お勧めするという事であって、強制は決していたしません」
それまでとげとげしい表情だったLGBTQ団体の参加者の顔が、温和になってきた。
まだ20代とおぼしき若い女性のメンバーが、おずおずと質問した。
「レズビアン専用居住区だけが、交番の配置やセキュリティが他の居住区より厳重なようです。これは一体どういう意図ですか?」
これには市長が出てきて答えた。
「LGBTQの中で、特に下賤な好奇心の対象になりやすいからです。間違っても不審者や、よからぬ意図を持つ輩が侵入しないための措置と、ご理解下さい」
ゲイ代表の別の若い男性が発言を求めた。
「でしたら、ゲイ専用居住区にも同じ措置が必要です。BL好きの腐女子が侵入してくる危険は、同じようにあります」
市長は一瞬不意を突かれたが、さすがにこの頃になると慣れていたようで、自信たっぷりに即答した。
「なるほど。分かりました。ゲイ専用居住区にも同じようなセキュリティ強化を行いましょう」
最後に市長は、自らマイクを握って宣言した。
「わが市の計画は、決してLGBTQの方々だけの利益のためではありません。性的嗜好に関して、大きく異なる価値観を持つ人たちが、同じ土地で、お互いの立場を尊重し、平和的に共存して共に楽しく、幸せに暮らせる街。それが私どもの真意であるという点をどうか、ご理解いただきたい」
ここに至って、ついにそのLGBTQ団体は、市の計画を全面的に支援すると表明した。
マスコミ各社も、程度の差はあれ、この集会の結論を好意的に報道した。