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#ターボー
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終電間際の街はまだどこか騒がしくて、けれどターボーの頭の中だけがひどく静かだった。
――疲れた。
心の底からそう思う。接待の席では笑顔を貼り付け、グラスを空け、興味もない話に相槌を打ち続けた。
その流れで連れて行かれたキャバクラでは、更に気を遣う羽目になり、正直うんざりしていた。
スマホには数時間前に同棲中の恋人、ちょんまげに送ったメッセージが残っている。
『帰り遅くなる。先に寝てて』
既読はついていた。きっともう寝ているだろう、とターボーは思っていた。
帰宅して疲れ切ったターボーは風呂にも入らず、音を立てないように寝室のドアを開ける。
わずかに灯るルームライトと、人影を見た瞬間、思わず足を止めた。
ベッドの上。クッションをぎゅっと抱きしめて、小さな体を丸めているちょんまげがいた。
眠っている、わけではない。
こくり、こくりと首が揺れている。必死に起きていようとして、でも限界が近い――そんな様子だった。
「……おい」
低く声をかけると、びくっと肩が跳ねる。
「ターボー……」
とろんとした目でこちらを見る顔は、風呂上がりらしくほんのり赤くて、前髪はいつもの結い方ではなく、さらりと額に落ちていた。
その姿に一瞬息を飲みながらも、ターボーはわざとぶっきらぼうに言う。
「先に寝てろって言ったろ」
「うん。でも……」
ちょんまげは言葉を濁し、視線をさまよわせる。
「……今日接待行った人……キャバクラ好きな人でしょ……」
遠慮がちに続けられた言葉に、ターボーは少し眉をひそめた。
「なんだか不安で……」
その声音は小さくて、けれど確かに震えていた。
「ターボーに……ぎゅってしてもらうまで……心配で寝れなくて……」
一瞬、何も言えなかった。
ああ、この顔。昔からそうだ。強がって、遠慮して、それでもどうしても隠しきれない不安を抱えているときの顔。
ターボーはゆっくりとベッドに近づき、何も言わずにちょんまげを腕の中に引き寄せた。
「……っ」
小さな体がびくっと震える。
けれど次の瞬間、安心したように力が抜けて、ぎゅっと服を掴まれた。
「まじでキツかった」
ターボーはそのまま、ちょんまげの肩に顔を埋める。
「早くちょんまげに触りたくて仕方なかった」
「……ターボー……」
掠れた声が、胸の奥にじんわりと広がる。
顔を上げて、そのまま唇を重ねた。アルコールの残る息が混ざる。
「……ターボー、お酒臭い」
くすっと小さく笑われる。
その柔らかな反応に逆にどうしようもなく愛おしさが込み上げてきて、ターボーはもう一度、今度は少し深くキスをした。
逃げるどころか、ちょんまげは目を閉じて受け入れる。その素直さに胸が締め付けられる。
「……俺が他のやつに行くと思うか?」
唇を離して、低く問いかける。
「……思わない……けど……」
「けど?」
「……ターボーモテるし……」
消え入りそうな声。
ターボーは思わず苦笑する。
「興味ねえよ」
即答だった。
「お前以外に」
間髪入れずに続けると、ちょんまげは目を見開いて、それからじわっと頬を染めた。
「……ほんと?」
「ほんと」
額に軽く口づける。
「寧ろああいう場所苦手だわ。疲れるだけ」
「……そっか……」
ほっとしたように息をつく。
そのまま力が抜けて、ターボーの胸に体重を預けてくる。
「……安心した……」
小さく呟く声は、もうほとんど眠りに落ちかけていた。
「だから言ったろ。不安になる必要ねえって」
髪を撫でる。さらさらと指の間を滑る感触が心地いい。
「……うん……」
かすかな返事。
そのまま、完全に力が抜けた。
ターボーは静かに体を横たえさせ、布団をかける。それでも離れたくないのか、服の裾を掴んだままの手。
「……ったく」
苦笑しながら、その手をそっと握り返す。そしてもう一度、優しく唇に触れるだけのキスを落とした。
「おやすみ、ちょんまげ」
返事はない。
代わりに、穏やかな寝息が小さく響く。その顔はさっきまでの不安が嘘みたいに、安心しきっていた。
ターボーはその表情を暫く見つめてから、ようやく自分もベッドに潜り込む。
腕の中に、温もり。それだけで今日一日の疲れがゆっくりと溶けていく。
――どこにも行かない。
――離さない。
言葉にしなくても、伝わるように。
ターボーはそっと、眠るちょんまげを抱き寄せた。
END