テラーノベル
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出し惜しみをしていては殺される。今までは退路を断たれた冒険者の救助活動や、遺体の運搬。回復薬など必要に応じて道具を配達するのが仕事だった。
しばらくパーティに所属していたときは、ただの荷物持ちになったが、それも嫌ではなかった。彼らが楽しそうにしているなら良いと思えた。
今はどうか。目の前で要救助者の命を奪われた挙句、仲間まで命の危機に瀕している。見過ごすわけにはいかない。荷運び人と言えども戦闘技能については学んできた。でなければ生き残れるわけもなく、シレントは十分な実力者だ。
本人がそれに気づいているかどうかは別の話ではあるが。
「人間……あぁ、五百年経っても生意気だ」
魔物が平べったい両手で地面を叩くと、衝撃波がまっすぐ抉りながら駆け抜けた。シレントはボンサックを片手に肩へ担いだまま、槍を持って躱す。手ぶらのレアナも、まだ起きないクローディアを抱えて逃げた。
「おい、シレント! やっぱ撤退した方がいいんじゃねえか!?」
「いいや、ここで倒した方がいい!」
高く跳んだシレントは槍をぐるんと回して逆手に持ち、魔物めがけて投擲する。風を切る音がして、矢の如く飛んだそれを魔物は斧を拾って叩き落す。
「ぐ……ただ槍を投げただけの威力じゃないな……!」
斧を伝った衝撃が魔物の手をじんじんと痺れさせる。もし直撃していれば頭が吹き飛んでいたやも、と警戒心を抱かせた。
だが、まだ優勢は変わらない。その自信が隙を生む。いつの間にかコロコロと足下に転がった玉が、爆発して巨大な煙幕を張って視界を奪ったのだ。
「見えない……!」
腕を振り回して追撃にリスクを与えながら、走って煙の外側へ出ようとする魔物が、視界を取り戻したときにハッとする。手に持っていたはずの斧が消えている。煙の中に紛れて奪われたのか。そのわりには感触がなかったと思考が鈍った。
「よお、デカブツ。よそ見はいけねえぜ」
逃げた先で待っていたレアナが、斧を取り戻して構えて待っていた。
「なぜお前がそれを持って────ッ!」
咄嗟に両腕を構えて盾にする。自身の強靭な肉体に自信があるがゆえの抵抗。だが、しかし。愚策も愚策。レアナは典型的なパワータイプであり、すべてを膂力に振り切った一撃を狙っている。あまつさえ、彼女の持つ武器は別名『竜の咆哮』。あらゆるものを粉砕する破壊力を誇った、最強クラスの戦斧なのだ。
「────ぐ、ぎ……ぎぃあああああああっ!!」
庇った両腕が千切れる。魔物の絶叫が遺跡内に響き渡った。
「この……ッ! 人間如きが嘗めやがって、ぶっ殺してやる……!」
がぱっ、と大きく口を開き、魔力を充填する。密度の高い魔力は紫紺に輝く球体を形成していく。放たれればどれほどの影響が出るか分からない。レアナには、これを防ぐ術がなく、下がるしかなかった。
「交代だ、クローディア!」
「ウム。先ほどの礼をさせてもらわねばなるまい」
待ち構えるは、ぼろぼろの剣を胸の前に掲げる騎士。戦場に復帰した瞬間に彼女にあったのは恐怖ではなく闘志。怒りに誘われた感情だった。
目の前で助けるべき人間が死に、なおかつ自分は油断から危うく死ぬ可能性のある一撃を受けた。己への失望と雪辱を果たすために、剣を構える。
「見世物ではないゆえ使う気はなかったが────聖剣起動」
両手に握りしめたぼろぼろの剣は、その刃に白銀の輝きを纏う。魔物がため込んだ魔力が荒々しい破壊の力だとすれば、白銀の輝きは澄んだ水のように穏やかで美しさすらある守護の力。クローディアの切り札である。
「くたばれ、人間!」
炸裂する魔力は光線となって、遺跡を大胆にも揺らす。
冷静に高く構えた剣を振り下ろして、クローディアは叫んだ。
「うち滅びよ! 《《白銀なりし退魔の剣》!」
魔力同士の衝突は大爆発を引き起こす。岩盤が剥がれ落ち、もくもくと満ちた煙が彼らを呑み込んだ。誰かが戦う気配はない。
やがて煙が晴れると、両膝を付いて、上半身を地面に伏せる魔物が、恨めしそうな視線をクローディアに向けている。真正面からの競り合いで負けると思っていなかった魔物は、悔し紛れに歯を鳴らす。
「人間……人間、人間、人間ンンンンン……!」
なぜ負けたのか。分からなかった。知性に満ちた魔物でありながら、やや本能に偏っていたせいか。獲物で遊ぼうとしすぎたのか。違う。違う。違う。根本から考えれば、敗因はたったひとつだけ。
(あぁあぁ……! そうだ、そもそもあの男がいなければこんなことには!)
シレントの最初の槍の一撃は強力だった。本人というよりは、槍に満ちた魔力。深く深く溜め込まれていた。ただの一度のために。それの重みに耐えかねて腕が痺れたあと、投げ込まれた煙幕。
(なんと、なんと小賢しい奴! あれのせいで腕を落とされた!)
最初から自分は囮だと言わんばかりの立ち回り。煙の中で斧を奪い返したのも、あの男に違いないと魔物は発狂するほどに怒ったが、もはや動けない。その怒りを以てしても、原動力には足りていなかった。
「良かった、まだ死んでないみたいだね。ちょっと聞かせてほしいことが」
「ぎ、貴様よくも……話すことなど何も……」
「君は何者だ。ダンジョンの魔物じゃないな? 君みたいなのが他にも?」
「くひひ、知るものか。おぞましき人間に呪いあれ!」
魔物の体が焼けていく。ぢりぢりと黒い灰になって消えていく。
「我ら魔族の時代はすぐそこだ……。五百年前の怨み、必ずや」
完全に塵になると、ようやく三人は緊張の糸が解れた。
「疲れたぜ、まじで」
「我輩は死んだと思ったのである……。というかすまぬ、立てん」
「大丈夫かよ。さっきの大技の影響だろ?」
かなり本気で戦った二人とは違って小細工を弄した元気いっぱいのシレントは、千切れ飛んだ腕だけが残っているのに気付く。
「なあ、二人とも。これを回収してギルドに提出でいいかな。ちょっと面倒なことになりそうだけど……」
「そりゃ要るだろうよ。クソ硬い奴だったから良い研究材料にもなるさ」
確かに、とシレントはすぐにボンサックの中に腕をしまう。
「にしてもよ。どうやって、あの状況で斧を回収できたんだよ?」
「単純なことだよ。触れてしまえばコレに入るから、煙で自分の周り以外が見えてない隙に取り出して、君に投げた。受け取ってもらえるかは分からないかったから、ちょっと軽い賭けだったけど……槍も折れちゃったし」
使い捨ての槍。ただし業物。雑魚ならともかく今回は相手が悪すぎたせいで、あっさりと壊れてしまった。少なくとも、そのおかげで命は助かったが。
「遺体はバラバラで回収できないけど遺品は拾える。彼らの家族に届けてあげよう。……依頼じゃないから無償になるけど、いいかな?」
「我輩はそうしてやってほしいのである」
「私も賛成。ここまで来たらついでだろ、届けてやろうぜ」
三人で手分けして落ちている武器や防具、飾りなどを集めてボンサックに詰める。いくつかには名前が彫ってあった。
レアナとクローディアが先に帰り道を歩き、シレントは後ろにつく。彼は一度だけ振り返って、亡くなった冒険者たちのことを想いながら手を合わせた。
#学園
大正
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*‥・うらら°🌱🐇☁・‥*
52
耀聖(ようせい)
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コメント
1件
あらすじとか読まずに飛び込んだけど、このエピソードめっちゃ熱かったわ。シレントの機転と、クローディアの「聖剣起動」の切り札、そしてレアナのパワー……3人の連携がかっこよすぎる! 特に煙幕の中で斧を回収してレアナに投げたシーン、脳筋じゃない強さって感じで刺さった。魔族の存在も気になるし、次が待ち遠しい🔥