俺が生きるのは25歳まで。
小学生の頃から変わらない思い。
生きる意味も希望もなかった俺の前に
突然君という存在が現れた。
誰にも認められず
俺の努力など
見ている人もいなければ
実らせる場所もない。
それなら
誰にも気づかれないように
誰とも関わらないように生きて
誰にも知られることなく死にたい。
そう思っていたはずなのに
なぜだか俺は
君に惹かれてしまった。
初めて友達だと思えた相手は
君だった。
愛されたことなんてなかった。
愛してほしかった。
でも、愛とはなにかがわからなかった。
だから、たくさん頑張った。
見てほしかった。
俺という存在に、
誰でも良いから気づいてほしかった。
そうしたら、
愛されると思った。
でも
実際そんなことなくて、
いつのまにか
未来の自分を想像できなくなっていた。
母親は
ギャンブルを愛してた。
父親は
金を愛してた。
学校から帰って
親が家にいたことはない。
一人でいると
借金取りが家にやってきて
居留守を使おうとしても
勝手に家に入ってきて
父親がどこにいるのかを問われ
知らない、と答えると
使えないやつめ、と吐き捨てられる。
そのうち母親が帰ってきて
その日学校であったことを話そうとすると
「うるさい」「喋るな」と言われ
その後も暴言を吐かれ続ける。
飯なんてあるわけもなく
学校で配られる給食を持って帰ってきて
それを少しずつ食べる。
俺って生きる意味あんのかな。
そう思い始めたのは、
いつからだっけな。
そうこうしている間に
義務教育は終わり
なんとか合格した高校に入学した。
家にはいたくない。
そんな気持ちが、俺を動かした。
高校を卒業すれば、
一人暮らしができるようになる。
そうすれば、
この苦しみからはきっと逃れられる。
だから、
この3年間を耐えるだけ。
誰とも関わらず、
卒業式を迎えよう。
そして、
静かに命を絶つんだ。
それが望みだった。
望みだったはず。
君が現れるまでは。
高2の学校祭準備。
俺はもちろん裏方。
かぼちゃの馬車を作るのが俺の役目。
てっきり一人で作るものだと思っていたのに、
気づけば君と一緒に作ることになっていた。
一緒に作るとはいえ、
会話する気は無かった。
でも、君は話しかけてきた。
俺のことなんて放っておけば良いのに。
名前を聞かれて、
すごく小さな声で答えたら
「声かっこいいですね」と褒められた。
そんなこと初めてだった。
今まで、
褒める、という言葉は
俺の辞書にはなかった。
一般常識としてその言葉を知っていただけ。
褒められるというのはこんなにも嬉しいものなのかと、
とても驚いた記憶がある。
そんな嬉しいことをしてくれた君は、
“紫ーくん”といった。
人のことを名前で呼ぶなんて
何年振り…いや、初めてだったかもしれない。
いくつもの初めてをくれる君に出会ってから、
俺の人生は変わりだした。
ある時、お昼を食べようと誘われた。
でも、俺は断った。
高校に入ってから、
昼飯など持ってきたことも食べたこともない。
昔のように給食は出ない。
その頃の俺は
バイトの賄いでしか生きていなかった。
弁当を持ってきていないと知ったら、
嫌われるかもしれない。
変だと思われるかもしれない。
誰とも関わらずに生きてきたせいだろうか。
そんなどうでも良いことを気にしていた。
断る理由など言えるはずが無かったから
俺は逃げるという選択をした。
いつも来ている屋上。
ここから飛び降りることができたのならと
何度考えたことだろうか。
せっかく逃げてきたのに
君はついてきた。
弁当はないのか。
引くこともせず、
心配するような顔で優しく問いかける君。
君になら、話せるのかもしれないと思った。
そう思った俺は
学校祭の準備時間に話すと伝えた。
ここでなら、
ゆっくりでも話せると思ったから。
準備時間。
恐る恐る質問してきた君に、
約束通り答えた。
今までどう生きてきたのか。
家庭環境。
全てを話して、
照れ隠しで「それだけ」と言うと
君は
「それだけなんかじゃない」
「頑張ってきたんだね」
と肯定してくれた。
嬉しかった。
やっぱり
君となら友達になれるかもしれない。
改めてそう思った。
高3の時、
25歳までしか想像できないことを
君に話した。
そのときは、特に何も言ってこなかった。
続いて
夢を持つことが当たり前という風潮への不満を語った。
それについては
俺を優しく肯定するような言葉を投げかけてくれた。
桃 『紫ーくんは優しいね、ニコ』
これは、紛れもなく本心だった。
卒業の日。
俺を俺以上に心配する君。
そんな君に「すぐ死ぬし問題ない」と
明るく言ってみせると、
困ったような顔で君は笑って
「また会おうね」と言った。
「また」なんて俺にあるのだろうかと
不覚にも考えてしまったことは秘密。
18歳だった俺たちは
順調に月日を重ねて
24歳になっていた。
12月31日、
君は家にやってきて、
俺の話を聞く。
気持ちは変わっていないのか、と。
君と出会って7年。
初めてをたくさんもらって、
少しだけ、
幸せ、というものを感じられるようになった。
でも、
やっぱり俺はこの先の未来なんて見えないし、
やりたいこともない。
夢なんてくだらないと思う自分がいて
全てを諦めている。
そんな状況は
自分でしか変えられないけれど
変えたいとも思わず
このままで良いと思っていた。
だから、
「今のところは変わってない」
そう答えた。
その瞬間、
君は今までに見たことのないほど
悲しそうな顔をした。
高3の時、
何も言わなかった君が
「生きてほしい」と言った。
それから初めて、
君の過去を、君のことを聞いた。
俺は何も知らなかった。
何も知らないから、
命を軽視していた。
一生懸命に生きる人を、
心のどこかで馬鹿にしていた。
でも、
一生懸命に生きる“君”のことは、
馬鹿になんてできなかった。
紫 『だから…』
紫 『置いていかないで、』
紫 『俺をひとりにしないで…、』
君は愛されていて
裕福な生活をしているのだから
俺の孤独も努力も
何もわからないだろう。
そう決めつけていた。
でも、
全然違った。
君は
君の人生の中で
たくさん苦労して
たくさん努力して
夢を持つことも
未来を生きることも
当たり前に思うしかない。
そんな環境で生きてきたのだと、
俺は初めて知った。
「ひとりにしないで」
君はどんな気持ちでこれを言ったのか、
君が俺の気持ちをわからないように、
俺も君の気持ちはわからないけれど、
きっと
助けを求める気持ちで言ったのだと思う。
幸せが何かも知らなかった俺を
救ってくれた君。
そんな君が助けを求めているのなら
救うしかない。
桃 『………考えておく、』
桃 『…….きっとね、ニコ』
紫 『すぅ…すぅっ…』
桃 『ふふ…ナデナデ』
1月1日。
生まれて初めて夢ができました。
それは、
この先も、命ある限り生きること。
君の望みを叶えられるように、
必死に生きてみようと思います。
君の描く未来のその先に、
俺という存在が生きていますように。
明けましておめでとう。
episode2.
『俺が生きていますように。』
『君の描く未来のその先に、』 —-Fin—-
【読者の皆様へ】
明けましておめでとうございます✨
今年も皆様の心に残る作品を投稿していきたいと思いますので、どうぞ応援よろしくお願いします🙇🏻♀️
皆様にとって、素敵な一年になりますように🍀
Saya
コメント
4件
わああほんとに最高です⊃ ̫ ;
あけましておめでとうございます!元旦から素敵な作品ありがとうございます!!