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「あっちに行こう」
戸惑う私の手を握って、先輩は奥の部屋に連れていった。
「あの、先輩、どうするつもりですか?」
この部屋は、きっとVIPルームなんだろう。ふわふわしたソファやテーブルも置いてある。ゆったりとした空間でのカットは、きっと身も心も癒されるだろう。
隅に置かれた観葉植物さえもオシャレに見える。
「俺、穂乃果が欲しい」
その言葉に、私の中の時が止まった。
「こんな気持ちは初めてだ。以前から知っていたにせよ、会ったその日に一目惚れしたことも、こんなにすぐに誰かを求めることも……今まで1度もなかった。本当だ、嘘じゃない」
「う、嘘です! 月城先輩みたいな素敵な人なら、女性が放っておきませんよ。きっと先輩にはたくさんガールフレンドがいて、それも絶対に美人な人か可愛い人ばかりで……」
「完全な偏見だな。ガールフレンドなんか、1人もいない。彼女がいたら、お前に告白するわけないだろ」
「でも……」
「こんなにも胸が熱くなるもんなんだな。本気で誰かを好きになるってことは……」
先輩が、1歩ずつ、ゆっくりと私に近づいてくる。
「俺は、穂乃果が欲しくてたまらない。わがままなのはわかってる。でも、この激しい衝動は自分でも抑えられないんだ。今すぐお前を抱きたい。ここで……」
先輩の吐息が私の耳にかかる。
まだ好きかどうかもわからない人と、今から何をするの?
私はまだ何の心の準備もできていないのに。
でも私、どうしても嫌だったらこの場からとっくに逃げ出してるはずだよね?
だけどそうしないのは……嫌じゃないから?
頭が混乱する。
なのに、考える間もなく先輩の手が私の体に伸びる。優しく肩から腕を撫でて、そして、ゆっくりと唇を近づけた。
私達は――キスをした。
1度目は軽く……
2度目は深く……
そして、3度目は……とても激しく。
先輩の唇が、私の唇と何度も絡み合い、そこから2人は、もう何も考えられなくなった。どうしたらいいのか戸惑っても、先輩が全てリードしてくれた。
羞恥心はあるのに、それ以上にすごく気持ち良くて、甘くとろけるような濃密な時間が2人を優しく包んだ。
私を抱く先輩は、俳優やモデルみたいにカッコイイ。少し長めの前髪と緩めのパーマが、自然な男の色気を醸し出す。
体も……普段から鍛えてるのか、細身なのにちゃんと筋肉もついていて、男らしい体つきが私の胸を余計に高揚させた。
決して私の周りにはいなかったタイプ。
そんな人が私を抱いてる?
この時がずっと続いほしいような、でも……まだ怖いような。
私は、何度もそんな感覚に陥っていた。