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あるところに独りの少年がいた。
彼は記憶喪失者だった。
住んでいた場所も、親も、兄弟姉妹も、自分の名前も、
何一つとして覚えていない。
少年は考えた。
自分は何者で、どうして何も覚えていないのかを。
しかし、考えた所で分かるはずも無く。
ただただ、時間は死んでゆく。
少年は恐怖した。
「このまま何も分からず死ぬのではないか」と。
少年は立ち上がり、ただ真っ直ぐに進んだ。
何か行動をすればこの現状が変わると信じて。
それでも世界は廻り続け、夜の向こうから明日が顔を出した。
偽りの今日に少年は立ち止まり、
涙と共に何処までも堕ちる。
枯れた花が語りかけてくる。
「…生き残れば希望が来てくれる」と。
散って逝くその姿を眼球のフレームに収めて、 頭から死体にぶち当たる。
いつの間にか空の色が紅くなっていた。
美しく咲いた《死ねた》。
矢じりに独が縫ってある。
少年は弱かった。
いつまでも籠の中で息をした。
あの山奥に飛ばされていく。
卵から孵った幼生は眼の前の屍にありついた。
さらさらと零れる砂の様に命は墓無く終わる。
目覚めた子供は上へと這い上がる。
それが終わりだと知らぬまま。