「何で止めるんですかっ?!セイさんはライルさんと2人で行く気ですよ!?」
ミランが涙目で聖奈さんに抗議をした。
「行かせようよ」
「ですが…」
「私達が何もしないわけじゃないよ?
セイくんが死んだら私はこの銃で死んでやるからセイくんも死ねないと思うし、何よりも2人が戦うなら竜も降りてくると思うよ。
そうなれば、私達の出番でしょ?」
竜が降りてくる?
「なぜ、降りてくると?」
「簡単だよ。ここを突破した人達がいるんだよ?多分大勢ね。
その人達がセイくんみたいに何でも出来るわけじゃないなら、普通に竜を倒した筈だよね」
「それは…わかりました。援護できる距離に離れましょう」
えっ?わかんないんだけど……
「なるほどな。確かに他の奴が倒せたなら、最後は近接戦か。もしくは普通の魔法や弓が届く距離か」
なんで?わかんないの俺だけ?
「竜の魔法に、セイさん達がやられなければ降りてくるということです?」
「そうだよ!エリーちゃん」
あっ!そういうことか!
「要は、近接戦じゃないと攻撃が当たらない、もしくは倒せないと思わせればいいんだな?」
「うん!そうしたらバレないように近づいて、エリーちゃんは魔法で、私はRPGで攻撃するよ!」
RPGの残りの弾頭は、対戦車用の貫通力を高めたモノが2発だったか。
広範囲に炸裂する弾頭は、蟻さんの巣で使い切ったからな。
これが終われば、買い足ししておかないとな。
「聖奈の腕だと、どれくらいの距離から当てられる?」
「RPGは風向きが関係しているから何とも言えないね。でも、あの竜のサイズなら300mくらいの距離なら当てられると思うよ」
300か…かなり近いが、どうせ倒せなきゃ殺されるからな。
「わかった。とりあえずは離れていてくれ。ここで待機だな」
「わかったよ」「「はい」」
「よっしゃ!いくか!」
最後のライルの掛け声で、俺達は穴へと近づいていった。
これで竜討伐には空を飛べなきゃダメとかだと俺達は詰むけど、そんなことを考えていたら何も出来ないし、今は出来ることをしよう。
「やっぱり降りてきたぜ!って、何してる?」
俺たちが穴に近づいたせいで、竜が降りてきた。
それを確認したライルは報せてきたが、俺は返事が出来ない。
なぜなら・・・
『アイスブロック』
詠唱をしていたからだ。
「頼む!竜の真上に出来てくれ!」
竜は穴に向かい降りてきている。穴と言えど竜が入れるサイズではない。
マンホールより二回りほど大きいくらいのサイズだと思う。
竜が地上から50m付近まで降りてくると、その威容が俺の肉眼でも確認できた。
「まるでテレビから出てきたような見た目だな…」
首が長く、体表は鱗のようなモノで覆われていて、胴体から一対の翼が生えていて、手足が付いていた。ちゃんと尻尾も……
俺が竜の見た目に感動していると・・・
「口を開けた!魔法が来るぞ!」
くそっ!俺の魔法はどうした!?
目線を上げると何かが落ちてきている。
「逃げろ!!」
ライルの言葉に反応して、その場から急ぎ離脱した。
直後、俺達が先程までいた場所に、砂を固めた槍のようなものが刺さった。
その槍は太さが10センチ、長さは地面に埋もれて憶測だが、3mはありそうだった。
「くそっ!はやいな!」
俺は余所見していたとはいえ、殆ど視認出来なかったぞ!
あんな超重量の槍が高速で飛んできたら、掠っただけで死ぬかもしれない。
「何だありゃ…?」
ライルが呆けた声を出した。
釣られてそちらみると、竜の真上にバカでかい氷の塊が……あっ……
ドガーーーンッ!!
アイスブロックが直撃すると、竜諸共地面に落ちてきた。
そして、信じられないほどの衝撃波が、近くに居る俺達を襲う。
「うおおおっ!?」
「ぐっ!!」
砂煙で目が開けられない!
「「うわぁぁ!」」
俺とライルは吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫?」
声が掛かり、目を開けると、聖奈さんの顔が視界一杯に飛び込んできた。
「死ぬかと思った…」
この言葉を漸く絞り出せた。
「ライルさんも無事です!」
遠くからエリーの声が聞こえた。
良かった。
「何があったの?」
聖奈さんに聞かれたから事の顛末を話した。すると……
「それは質量兵器だね。これからはアイスブロックじゃなくて、神の杖って名前に変えないとね!」
また訳のわからんことを……
ちゃんとツッコミたかったが、竜が生き返る(?)前に急いで穴へと向かわなければならない。
「よし、通れるな!」
アイスブロックで穴が塞がってはいなかった。どうやら落下の衝撃で、そのモノ自体が吹き飛んだみたいだ。
「竜の魔石が見当たらないのは残念だな」
「ライルさん。命あっての物種ですから」
ミラン。そんな言葉をどこで覚えた?異世界では普通なのか?
「何はともあれ、19階層に行こう?」
「そうだな。なんかブラックホールみたいになってるけど、飛び込めばいいのか?」
目の前の穴は真っ暗で何も見えない。
竜を倒してからは、そのサイズが直径5mくらいにまで広がっていた。
「なんか怖いからザイルでって思うけど、ここには括る物もないんだよね」
砂漠だからな。杭を打っても抜けるだろう。
「まぁこれも冒険だな。飛び込むぞ!」
「よっしゃ行くか!」
ライルが躊躇なく、元気に飛び込んだ。俺も後に続いた。
レディファーストでも良かったけど、この冗談は通じないだろうから、自重した。
「どこだ?…って、ダンジョンか」
穴に落ちた筈の俺の正面には、何も無い暗闇が続いている。しかし、足元には白い道が確かに続いていた。
後ろを振り返ると白い道はなかった。代わりに暗闇が視界一杯に広がっている。
落ちて来たはずなのに、気付いたら立っていたんだ。
「進もうぜ」
横にいたライルが声を掛けてきた。
「みんながまだだぞ」
「セイは後ろの穴から押し出されるように現れたからな。次が来たら邪魔になるぞ」
そうなのか……
この白道は幅が一メートルほどしか無いから、確かに邪魔になるな。
少し前に進んでから話すことに。
「この道から落ちたらどうなると思う?」
「さぁな。良くてさっきの後ろの穴からまた出てくる。他は…だいたい死ぬんじゃねーか?」
なるほど。そんなもんか。…こぇぇぇ!!
「何ここ!?変なとこだね!」
「後ろの邪魔になるから、こっち来いよ」
次は聖奈さんか。てっきり最後かと思ったけど、これはエリーがビビっているとみた!
「すごい所だね!真っ暗なのに道だけ明るいなんてね。道を外したら二度と出られなくなりそうだね」
「やっぱりそう思うか。それより、エリーがビビったのか?」
「わかっちゃう?そうだよ。
エリーちゃんが怖がったから、私がお手本として先に飛び込んだの。ミランちゃんが最後かな?」
俺もそう思ったが、答えは違っていた。
「ふえぇ!!?ここはどこですっ!?」
「大丈夫ですよ。ほら。セイさんがいますよ」
手を繋いで一緒に飛び込んだようだ。
それよりも、こういう時にミランがいつも俺の名前しか出さないから、聖奈さんが泣きそうになっているぞ?
面倒だから次は聖奈さんの名前を呼んであげなさい。
「道を踏み外さないように、こっちに来てくれ」
無事に合流を果たした俺達は、そこでみんなの予想を話し合ったり、弾丸を白道の外に投げ落としてみたりした。
「やっぱりここはこの道しか通ってはいけないみたいだな。先は長そうだから、とりあえず一旦帰ろう」
みんなの同意を得て、転移魔法を発動させる。
『テレポート』
しーーーん。
おいっ!初めて魔法を使おうとして、失敗した時以来の恥ずかしさだぞ!
「出来ないのですか?」
「やっぱりこの空間はおかしいんだね」
「ま、魔法が発動しないですぅ!」
良かった。ここに来て詠唱を間違えた恥ずかしい奴にならなくて。
「だがどうする?このまま向かうのか?」
ライルの質問に俺は自信を持って答えた。
「帰る。食糧がないからな。こういうところはだいたいめちゃくちゃ長いって、相場が決まっているからな」
「そうそう!多分、蛇の道みたいなもんだよね!」
そう。ドラゴ◯ボールで見た奴だな!
じゃあ、落ちたら地獄行きかな?
「よくわからんが、セイがそう言うなら帰るか」
「どうやってです?」
ライルの言葉にエリーは疑問を呈すが、直ぐにミランが答えた。
「後ろの穴を通るのですよね?」
「そうだ。逆に行けば出られるだろう」
「でも、出たら竜がいるよね?」
「どのみち先に進んでも転移できるかわからないのなら、飢え死にしない道を俺は選びたい」
作戦なんかない!思いつきだ!
最期に酒が飲みたかったな・・・
「まっ!最悪俺とセイで時間を稼ぐから、その間にお前らは離れろよ」
「どうやら、それしかなさそうだね」
ライル、待ってくれ。そのセリフは俺が言いたかったヤツや。
なんだよ酒って…このタイミングで思う事がそれなのかよ…未練って、怖いね。
俺達は覚悟を決め、穴へと突撃した。
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
聖奈「えっ?アイスブロックって、そんなに高くから落とせたの?」
聖「まぁ偶々だな。今まで出来た事ないし」
エリー「かき氷の元がないです!セイさん!次からは残るように落とすです!」
ミラン「シロップだけでは流石の私達でも無理ですね」
聖 (無理って知ってるって事は、エリーはかき氷のために試したな?)
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