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「こ、ここは公平にジャンケンで決めましょうか」
ミノリ(吸血鬼)が、ふとそんなことを言ったため、俺はとても不思議に思った。
ジャンケン? 今まさに最悪の状況にある『はじまりのまち』に誰が行くかを決めるのにジャンケン?
うーん。でも誰かが行かないといけないからなあ。
「じゃあ、この人なら大丈夫! っていう人を指差すのはどうですか?」
俺の頭の上に当然のように止まっている『チエミ』(体長十五センチほどの妖精)がそう言った。
「おいおい、そんなので決めていいのか?」
「え? 何がですか?」
「いや、それだったら確実にミノリとコユリがお互いを指差しそうだから……」
「いえ、それはないと思います」
「え? なんでだ?」
「それですね、みなさんを見たら分かります」
「えっ? そうなのか?」
「はい、そうです。ですから、みなさんをよーく見てください」
「……わ、分かった」
チエミに言われるがまま、全員の顔を見ると、全員の表情がおかしいことに気づいた。
マナミ(茶髪ショートの獣人)とシオリ(白髪ロングの獣人)が怯えているのは想定内だが、あのコユリ(本物の天使)がフリーズしているとは思わなかった。
ちなみに、ツキネ(変身型スライム)は頭を抱えていて、ミノリ(吸血鬼)は口をパクパクさせている。
まあ、チエミ(体長十五センチほどの妖精)は俺に話しかけた時から、ずっと震えていたんだけどな。
結論。やはり俺が行くしかないようだ。例え、肉片になったとしても。
「……それじゃあ、俺が行ってくるから、みんなはここで待っててくれ」
その時、全員が一斉にこちらを見た。
「バ、バッカじゃないの! あんたが行っても、どうにもならないわよ!」
「そ、そうです! ナオトさんは無茶しないでください!」
「ナオ兄はここにいるべき!!」
「兄さん! 今回は私たちに任せてください!!」
「そうです。マスターはいつも無茶をなさるのですから、今回はここに居てください!」
「わ、私もナオトさんにはここに居てもらいたいです!」
※ナオトにそんなことを言った順番はこうだ。ミノリ、マナミ、シオリ、ツキネ、コユリ、チエミ。
「……お……お前ら!」
心配してくれたというだけで俺の心の中は幸せな気持ちでいっぱいになった。
それはおそらく、親が子どものために頑張れるように、こいつらのために頑張りたいと思ったから、こんな気持ちになったのだろう。
俺は心配してくれたみんなに感謝しながら、こう言った。
「その……ありがとな、心配してくれて。けど、やっぱり俺が行くよ。恐怖で体が震えてるお前らを行かせるわけにはいかないからな」
『…………!』
「誰にでも怖いものはある。けど、怖いと感じたその時に頼れるやつが近くにいるかどうかで状況は一変する。まあ、その……つまりだな……今のお前らにとってのそれが俺だっただけだから、ここでおとなしく待っててほしい……ということだ」
その直後、全員が一斉に俺を抱きしめてきた。
俺は後ろに倒れそうになったが、なんとか持ちこたえて「よしよし」と言いながら、二人ずつ頭を撫で始めた。
モンスターの力を宿しているとしても、こいつらはまだ幼い。
現実という名の理不尽や孤独という名の不安に耐え切れるほどの精神や肉体も持ち合わせてはいない。
だが、それでもいつかは、それを乗り越えて生きていかなければならない時が来る。
だから今は、少しでも安心という名の温もりを与えてやりたい。
それが、親代わりの俺にできる唯一のことだと思うから……って、まーた俺はおかしなポエムを作ってしまったようだな……。はぁ……これはもう病気だな。
うん、でもまあ、こいつらが安心できるなら、別にそれでもいいか。
そんな事を考えていた時、マナミが話しかけてきた。
「あ、あの! よかったら、私の魔法を使ってください!」
「え? それはどういうことだ?」
「わ、私の魔法は『マジックジャンプ』です! その、つまり、私が触れている人や物を転移させることができる魔法……です!」
「……なあ、マナミ」
「は、はい!」
「俺が亀型モンスター……じゃなくて『ミサキ』のところに行く時、なんでその事を言わなかったんだ?」
「そ、それは……」
「それは?」
「わ、私の魔法は不完全なので転移させられるのは、私がその場所をはっきりとイメージできる時だけなんです。……だから、透明で位置が特定できない場所への転移は無理……なんです」
「……そうか。なら、今回はマナミの出番だな」
「え?」
「だって、転移するのは、ここから見えるくらいの位置にある『はじまりのまち』だし、イメージ……というか、さっき水晶で実物を確認したから大丈夫なはずだろ?」
「そ、そうですね……。そうですよね! 今回は大丈夫なはずですよね! 分かりました! 私に任せてください!!」
顔が近かったが、マナミ(茶髪ショートの獣人)の決意が感じられたので良しとする。
「ああ、頼んだぞ。マナミ」
「は、はい!!」
その後、マナミは未だに抱きついているミノリたちを「魔法を発動するので、離れてください!」と言い、みんなを俺から遠ざけた後、俺の背後に回った。
それから右手で俺の背中に触れながら呪文を唱え始めた。
その間、ミノリたちはそれに気づき、目に涙を浮かべていた。
「私は獣人型モンスターチルドレンナンバー 二、『マナミ』。我が主より授かりし、この名をもって我が固有魔法『マジックジャンプ』を使用します。猫の神『バステト』よ、我が主が無事、目的地に到着できるよう、どうかその大いなる力をお与えください。____目標『はじまりのまち』。転移者『一名』。魔力量安定、転移用方陣展開。____さあ、時は満ちた。一日一回限定の我が固有魔法『マジックジャンプ』発動!」
詠唱を言い終わると魔法陣が展開時よりも、さらに眩しい金色の光を放ち始めた。
部屋はその光に照らされ、ミノリたちはあまりの眩しさに両目を両腕で覆い隠した。
その時、俺の左手がゆっくりと消えていくのが見えた。
その後、徐々に足や腹も消えていった。それはまるで『ガ○ツ』のようであった。
ミノリたちに「いってきます」と笑顔で言いながら、手を振ると全員が手を振りながら「いってらっしゃい!」と言った。
できれば穏便に事を進めたいが相手は『ゾンビ』と『オオカミ』だから、かなりの確率で争うことになるだろう。
だが、それでも俺はできる限りのことはするつもりだ。
だってそれが今の俺にできる唯一のことなのだから!
そう思いながら見た光景は、高校の卒業式の後に見たものに似ていた。
俺を合わせて十五……いや十六人の仲間と過ごした三年間の高校生活最後の日の光景に。
あいつら元気にしてるかな? まあ、いずれ、またどこかで会えるだろうから、今は深く考えるのはやめよう。
そう考えていた時には、もうすでに『はじまりのまち』に到着しており、目の前には先ほど水晶で見た『ゾンビ』と数匹の『オオカミ』がこちらを睨んでいた。
さぁて、いっちょやりますか! 恐怖でいっぱいのはずの俺は考えるより先に一歩前に踏み出していた。