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僕は思わず息を呑んだが、少年は隣の家に乗り移り屋根伝いに逃げて行っただけであった。
僕はほっと安堵の息を吐き、
「行かないと言ったって、そういうわけにはいかないんだぞ!」
と、逃げていく少年に声をかけた。
追いかけていこうかとも思ったがやめておいた。結構な騒ぎになってしまったし、そろそろ他の家族が帰ってくるかもしれない。退散したほうがいいだろう。
「さて、どうするかなあ……」
僕はさっきの笹叢に戻って山に入った。当てどもなく彷徨いながら呟いた言葉が前述のものである。
少年の情報がなければ異界に辿り着けないかもしれない。
僕はしばらく山中をうろつきながら少年の記録を思い出していた。
猿みたいな生き物についていって、それから……?
そうだ、確か藪の中に飛び込むと穴に落ちて、異界に行ったのだ。
周囲を見渡してみる。藪があったら飛び込もうと思ったのだが今が既に藪の中のようなものだった。
『弱ったな。このままこの辺ブラついてみるか?』
当て処もなく探し回るのは趣味ではない。といって、良い方策も思いつかないでいたところ、何やら騒がしい音が聞こえてきた。
僕は咄嗟に身を隠す。
『? 僕を探しに来たのか』
服装がはっきり見えないので何ともいいようがないが、ちらっと見えた人だかりの中の顔は、かなり険しい男のものだった。
複数人いる。警察か?
いや、違う。警察なら制服だろう。しかしある程度組織だった動きをしている。
協力して山狩りしている地元の青年団といったところか。
もう一度こっそり見てみると、武器らしきものを構えている者もいる。相当な危険人物だと認識されているらしい。
『まずい……』
僕は危うく泣きそうになった。
辛うじて涙をこらえながら、ひっそりと山の奥の方へ進む。
どうしてこうなってしまったのだろう? どこで間違えたんだ?
いくら考えてもわからなかった。
もしかしたら異界を覗きたいなどと思ったこと自体が間違いなのかもしれない。
淡い後悔に包まれながら藪の中を進んでいく。
しまった、音を立ててしまったか。背後の人間の声が大きくなった気がした。
追いかけてくる物音がどんどん近づいてくる。