たまたまSNSでニーゴについてエゴサーチしてた時だった。
『ニーゴのイラストって何か微妙じゃね?』
捨て垢でつぶやかれていたその言葉は、批判が多かったけど、それに共感している声も少なくなかった。
[盲目的純愛認識]
『はぁ〜〜………』
『どうしたの?絵名』
『ん…、何でもない』
珍しくからかわず心配してくる瑞希。エゴサーチしてたら、私の絵が貶されててスランプです。なんて、言えないし。手を動かして見るけど、いい構図も全く思いつかないし、仮に思いついたとて、それに自信をもてる気もしなかった。
『自撮りのアイデアはあんなに出るのにね〜』
『それ、結構凹むからやめてくれない?』
瑞希なりの優しさだろうか。いや、違うな単にからかってるだけだな。目の前に広がる景色は一時間前、二時間前と何ら変わりない真っ白な風景。本当どうしよう。ずっとペンを握っていたって、アイデアなんて出るはずもないし、いい絵なんて描けるわけもないし、分かってたのに、悔しくて、悔しいから描くことから離れることができなかった。
『…今日はもう抜けるね、おつかれ』
『分かった。お疲れ様』
『そっか、おつかれ〜』
『私も曲作りつまってるし、抜けるね』
奏も私と同じ…な、わけないか。気分転換にセカイにでもいって、ミクと話して少しでも心を落ち着かせようと、ファイルから曲を再生させた。
膝を抱えながらふと思う。相変わらず殺風景な景色が広がるところだけど、この感じが結局落ち着く。ミクと話したかったけど、やっぱり一人で居たい気分かも。もう、何もかも嫌になっちゃうなぁ…もういっそ……
「絵名…?」
「…奏」
自嘲的な感情に浸りそうなところで声をかけられた。大丈夫…?と声をかけられたので、大丈夫だと伝えたが、そんな感じに見えなかったのか、私の隣に座られた。
「やっぱりここって落ち着くよね。私、結構感情が昂ぶってたんだけど、なんか心が無になれるっていうか」
「うん」
「なんか、いろいろぐちゃぐちゃしてた感情とかも無くなって、まっさらになれるって感じで、うまく言葉にできないけど。今なら落ち着いて描ける、気も、しなくも…うん。ないかな…………奏?」
返事がしなくなったので、奏の方を見ると、なんだか辛そうな、怖い…?、表情をしていて、いつの間にか流れてたらしい涙をそっと、優しい手付きで拭われた。
「ぁ、えっと…これは、違くて」
「ねぇ、絵名。私に何があったのか、話してみて?」
小柄だけど、私の心を包むには大きい体で抱きとめられる。悔しい気持ちとか、嫌な気持ちとか、いろいろフラッシュバックして、今まで塞き止めていた感情が一気に流れ出てきた。
「…たまたま、たまたま、SNSで、ニーゴのこと調べてたら、私の絵は下手、みたいなこと、言われてて…。それに賛同する声とかも、少なくなくて、もしかしたら、もっと私の絵が気に入ってない人とか、声を上げてないだけで、もっと、たくさんいるかもしれないって思ったら、怖くなっちゃって…。見返してやろうって思っても、いい絵が描けなくて…。描けてもまた、何か言われたらって、思ったら…怖、くて…」
私の話の合間に、優しく相槌を打ちながら、私の愚痴を全部受け止めてくれて、こんな自分が情けなくて、涙が止まらなくて、どうしても嫌になっちゃう。こんな私のために、嫌な話なのに、全部聞いてくれて、面倒くさい性格だって分かってるけど、直せない自分が嫌だ。
「絵名、大丈夫だよ。私は誰がなんと言おうと一生絵名の味方だから。誰がなんと言おうと、私の曲のイメージを完全に再現できるイラストを描けるのは絵名だけだよ。だから、絵名は気にしないで、そんな人達なんか気にせず、私のために、…私の曲のために、絵を描いてくれればいいの。だから、大丈夫だよ」
その言葉に安堵してしまう自分が、なんだか浅はかで嫌になってしまう。私には勿体ないほどの優しさを持つ彼女は、私が不要になっても私を切り捨てることはできないのだろう。安心したせいか、眠気に襲われ、瞼が落ちてきた時に思わず、捨てないで、なんて思ってしまったのは傲慢なんだろう。でも、貴方に縋ることをやめさせないでほしい。唯一できた、私の居場所なんだから。
捨てないで、すごく小さな声だったけど悲しそうに呟く彼女の言葉は、私の耳にしっかりと届いていた。
「捨てないよ、絶対。捨てるわけない」
ようやく掴めそうなんだ。貴方が、私にもっと縋って、依存して、私無しで生きれなくしたい。そんな傲慢じゃ、駄目かな…それにしても、こんな簡単に引っ掛かっちゃうんだ。背中を撫でながら片手間にアカウントを削除した。貴方が傷つけば傷つくほど、頼ってほしい。貴方がどれだけ嫌われようと、私だけは愛してあげる。でも、全部私の自作自演って分かったら、貴方は離れてしまう…かな。
無防備に寝ている首元に跡をつけようとしたけど、うまく付けられなかった。いいか、想いが通じ合った時にたくさん練習すれば。
自然と口元がにやけているのが自分でも分かった。
コメント
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空いた口が塞がらないとはこういうことか、、、、😧