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#恋愛
ばたっちゅ
20,092
#誓い
耀聖(ようせい)
381
第111話 名前をつけるなら
次の日。
いつものように、二人は一緒に帰っていた。
特別なことは何もない。
授業の話をして。
途中で見つけた店の話をして。
くだらないことで笑って。
それだけ。
なのに、琴葉は昨日からずっと考えていた。
――私たちって、何なんだろう。
友達。
そう言えば、きっと間違いではない。
でも、それだけでは足りない気がした。
昔から知っている。
一度忘れてしまったことも。
お互いが抱えていた傷も。
言えなかった言葉も。
全部知っている。
それでも、もっと知りたいと思う。
もっと一緒にいたいと思う。
そんな気持ちに、
琴葉はまだ名前をつけられずにいた。
「琴葉」
「ん?」
「今日、静かじゃない?」
律が笑う。
「昨日も言われた」
「考え事?」
「……うん」
「何考えてるの?」
琴葉は少し迷った。
昔だったら、ここで「なんでもない」と言っていた。
でも今は違う。
「私たちのこと」
律が少し驚いたように目を瞬かせる。
「昨日も話したよね」
「うん」
琴葉は前を向いたまま言った。
「友達って言葉だけじゃ、なんか足りない気がする」
律は何も言わなかった。
琴葉は少しだけ不安になる。
「変かな」
「……いや」
律は小さく笑った。
「俺も、同じこと考えてた」
「ほんと?」
「うん」
二人の間に、少しだけ沈黙が落ちた。
夕方の道を、並んで歩く。
やがて律が口を開いた。
「でも、急いで名前をつけなくてもいいんじゃないかな」
「……うん」
「俺たち、昔も名前を知らないまま一緒にいたし」
琴葉は笑った。
「そうだったね」
「だから、今度はちゃんと分かった上で、ゆっくり決めればいい」
その言葉に、琴葉の胸が少し軽くなった。
答えを急がなくていい。
そう思えることが、嬉しかった。
駅が見えてくる。
いつもの場所。
いつもの時間。
けれど今日は、少しだけ違った。
「琴葉」
「なに?」
「一つだけ聞いていい?」
「うん」
律は少しだけ立ち止まった。
「これからも、俺と一緒にいたい?」
琴葉は迷わなかった。
「いたい」
即答だった。
言ってから、自分でも少し驚いた。
けれど、後悔はなかった。
律は少しだけ笑う。
「そっか」
「……律は?」
「俺も」
短い言葉だった。
でも、それだけで十分だった。
二人はまた歩き出す。
駅の入口まで来たところで、琴葉が振り返る。
「じゃあ、また明日」
「うん」
律も笑った。
「また明日」
その言葉を交わしたあと。
琴葉は数歩歩いてから、ふと立ち止まった。
胸の中にある気持ちは、
まだ完全には言葉にならない。
でも。
もう分かっていることが一つだけある。
明日も会いたい。
その次の日も。
できるなら、その先も。
それは昔の約束ではなかった。
誰かに決められたものでもない。
二人が今、自分たちで選び始めたものだった。
そしてその夜。
琴葉のスマホに、一通のメッセージが届いた。
『明日、少し早く来られる?』
送り主は律だった。
琴葉は画面を見つめる。
少し考えてから、返信した。
『うん。何かあるの?』
すぐに返事が来た。
『会ってから話す』
琴葉は小さく笑った。
まだ知らない。
明日、律が何を言おうとしているのか。
ただ一つだけ。
いつの間にか二人の間にできていた距離が、
もう「友達」という言葉だけでは
説明できなくなっていることを――
琴葉は、少しずつ分かり始めていた。
コメント
1件
うわ、このエピソードめっちゃ沁みた…。「名前をつける」ってタイトルからもうズルいよね。琴葉が「私たちって何なんだろう」って考えてるところ、すごくわかる。友達って言葉じゃ足りないけど、まだ別の言葉をあてがう勇気もない、その絶妙な距離感がめちゃくちゃ丁寧に描かれてて刺さった。律が「急いで名前をつけなくていい」って言ったとき、琴葉もだけど私もほっとしたよ。最後のライン、二人の間にできた距離がもう友達って言葉だけじゃ説明できなくなってるってのが…もう最高すぎる。クラリスさんのこういう関係性の描き方、大好きだわ。続き気になる!