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逃げたり、やらかしたり

40 - 第40話 久しぶりに見た笑顔

2025年08月18日

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朝、薄く柔らかな光がレイ宅のリビングを照らしていた。だぁは、ソファに座ったまま目を覚まし、静かに部屋を見回すと――

ベランダに、小さな背中があった。


「……ネグ。」


名前を呼びはしなかった。

ネグは、ただ静かに外の空気を吸っていた。

眠りの中でも、不安と恐怖が渦巻くような日々だったはずなのに、その姿はどこか――少しだけ穏やかで。


ネグは、ただ深く息を吸って、空を見上げていた。


その静寂を破ったのは、レイの明るい声だった。


「おーい! ネグー! ご飯できたぞー!」


ネグはその声に振り向き、小さく――けれど嬉しそうに微笑んで、部屋の中へ戻ってきた。

だぁはそれを見て、少しだけ目を細めた。


「おはよう、ネグ。」


ネグは何も言わずに、小さく頷くだけ。

けれど、それだけでも十分だった。


テーブルの上には、レイが作った簡単な朝食。

ネグは静かに席に着き、箸を持ち――ゆっくりと、少しだけ食べ始めた。


それを見ているだけで、だぁの胸の奥があたたかくなった。


その食事が終わる頃、レイがふと口を開いた。


「ネグ。送り届けるか?」


ネグは少し考えたあと、また小さく頷いた。

だから、3人で車に乗り込んで、だぁの家まで向かうことになった。


車の中――


レイが運転し、ネグは助手席、だぁは後部座席。

だぁは窓の外を見ながら、ふとネグに話しかけた。


「ネグさ、昔はさ。もっとわがままだったよね。」


ネグは返事はしなかった。

だけど、ちらりと横目でだぁを見て――小さく微笑んだ。


「今は……まぁ、色々あったから、無理はしないでね。」


その言葉にも、ネグはただ小さく頷くだけだった。

車内は静かだったが、不思議と嫌な沈黙ではなく――

どこか落ち着くような空気が流れていた。


そして、家へ到着。

だぁが車を降りると、ネグは最後までニコニコと微笑んでいた。

けれど――


だぁの顔がスッと、真顔に戻る。


そのまま家の中へ入り、すかーの目の前へ。


「……ねぇ。」


低く、静かな声で、だぁはすかーに問い詰めた。


「すかーさ――自分が何したか、分かってるの?」


すかーは、その時、目を伏せていた。

夢魔もマモンも、誰も止めなかった。

いや――止めるべきじゃないと、誰もが思っていた。


すかーは、重たそうに口を開いた。


「……分かってる……分かってるよ……だけど……俺だって……」


言い訳のような、でも本音のような――

そんな声で。


「分かってた……分かってたんだよ……手をあげるなんて、本当はしたくなかった。だけど、あいつが逃げて……鍵まで閉めて……その時、頭ん中……真っ白で……俺……俺だって、怖かったんだよ……ネグが、いなくなるんじゃないかって……」


拳を握りしめるすかー。


「でも……だからって、あんな……俺、最低だよな……」


だぁはその姿をじっと見つめたまま、静かに言った。


「最低だよ。」


その一言は、重く突き刺さった。


すかーは下を向いたまま、言葉を失っていた。

夢魔もマモンも、ただ黙って立っているだけだった。


その頃――


レイはネグを連れてデパートへ行っていた。

ネグは相変わらず口数は少ない。

けれど、表情は……確かに、前よりもずっと柔らかくなっていた。


服屋、靴屋、おもちゃ売り場――

色んなところを回って、レイはネグのために服を何着も選んで、靴も新しく買い直した。


「これとか、似合うんじゃね?」


ネグは、小さく頷くだけだった。

けれど、それが嬉しかった。


そして、夕方。

家に帰ると――


ネグは、アイスを食べながら、ふとレイの方を見て――


「……楽しかったね。」


その一言だけ。

だけど、その声は本当に――心から楽しかった、と言っているように聞こえた。


レイは、思わず目を細め、そして――涙がこぼれそうになった。

けれど、見せないようにして、そっけなく返した。


「……あぁ。」


その後、ネグはお風呂に入り、傷に気をつけながら髪を乾かしてもらって――

そのまま、レイと一緒に静かに眠りについた。


その夜は――誰も、何も言わず。

ただ、静かに時だけが流れていた。

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